第105話 まさかの再会

「ひひひっ……さあ、あの魔道具の使い方を話せ、そうすれば楽に殺してやる」

「殺す?俺を?」

「当たり前だ!!俺の足をこんな風にしやがって、今は回復薬なんて簡単には手に入らないんだぞ!!」



盗賊の男はレノに対して自分の右足を見せつけるが、レノからすれば彼の要求を受け入れるつもりはなく、両手と両足の確認を行う。この程度の拘束ならば問題ないと判断すると、盗賊の男に告げた。



「俺を殺したらあの弓も使い方が分からなくなるよ?」

「そんな口を叩けるのは今だけだ!!痛めつけて、痛めつけて、痛めつけて……最後には死んだ方がマシだと思うぐらいに苦しめてやる!!」

「そう……なら、こっちも遠慮しないでいいな」

「あっ!?」



レノは男の話を聞いて笑みを浮かべると、両手と両足の部分に魔力を集中させ、木造製の手枷と足枷を破壊する。その光景を見て盗賊の男は何が起きたのか分からなかったが、両手と両足の拘束を解除したレノは男に踏み込むと、下から顎に掌底を食らわせる。



「ふんっ!!」

「あぐぅっ!?」



意表を突かれて強烈な一撃を受けた男は後ろに倒れ込み、更に壁に頭を衝突させて白目を剥く。その様子を見てレノは鼻を鳴らし、拳を確認して頷く。



「こっちはガキの頃に赤毛熊を殴り倒した事もあるんだ。それに義父さんや爺ちゃんにも喧嘩の仕方は伝授してもらったから、お前みたいな怪我人に負けないよ」

「あ、がっ……」

「聞こえてないか……丁度良かった、あんたの服と装備を貰うよ」



レノは倒れている盗賊の男からとりあえずは服を奪い、ついでに盗賊が身に付けていた皮鎧とパンダナも身に付ける。男はレノよりも身長が高かったので服は少々だぼだぼだったが、流石に下着姿で行動するわけにはいかない。


男が持ち込んだ尋問用の道具に関しては武器として使えそうな物は色々あったが、使い慣れていない武器を持ち歩くのは危険だと判断し、男が所持していた短剣だけを奪う。



「さて、ここは盗賊の隠れ家なのか……?」



レノは牢屋の中の天井付近に存在する窓に視線を向け、とりあえずは外の様子を伺う事にした。足元に風の魔力を集中させて跳躍を行い、空中で魔力を解放させて更に上昇する。


前に洞穴のプラントから逃れる時にも利用した空中跳躍を行い、どうにか窓に取り付けられている鉄格子を掴んでレノは外の様子を伺う。



(ここは……街の中なのか?でも、妙に静かだし、建物に光が灯っていないな……)



窓から見えたのは数多くの建物だったが、時刻が夜を迎えているのに殆どの建物に火が灯っていない。よくよく確認すると殆どの建物が廃墟の様だった。半壊した建物の数も多く、もしかしたらシノの街ではない可能性もあった。



(気絶している間に街の外に連れ出されたのか……どちらにしろ、すぐにここから抜け出さないとまずそうだ)



気絶している男から情報を聞き出そうかとレノは考えたが、男は完全に意識を失い、簡単には目を覚ましそうはない。仕方なく、危険を承知でレノは外へ出向こうとした時、窓から鼠が姿を現す。



「チュチュッ!!」

「うわっ!?」

「チュイッ!?」



急に鼠が現れてレノは驚きのあまり、危うく鉄格子から手を離しそうになって慌てて持ち直す。いきなり現れた鼠にレノは驚くが、尻尾には見覚えのあるリボンが取り付けられている事に気付き、ネズミ婆さんが従えている「リボン」だと知る。



「お前……リボンか?どうしてこんな場所に?」

「チュチュウッ!!」

「うん、何を言っているか分からない」

「チュイイッ……」



リボンは何かを伝えようと必死に身体を動かすが、鼠語を理解できないレノでは彼女(雄かもしれないが)の意思は伝わらない。しかし、リボンはレノの肩に移動すると、自分の胸元を叩く。



「チュ~チュ~」

「何?もしかして脱走してくれるのを手伝ってくれるの?」

「チュイイッ!!」

「そう……心強いよ」



レノはリボンが自分の元を着た事を知ってネズミ婆さんが力を貸そうとしているのだと判断し、彼女を連れた状態で牢屋から抜け出す。抜け出す際にレノは男が持っていた鍵束を回収し、しっかりと牢の鍵を閉じて置く。これで男は目を覚ましても牢から出られず、他の仲間に助けを呼べない。


自分の牢から抜け出したレノは念のために他の牢屋を調べ、ドリスとネココの姿を探す。二人も捕まっていないのかを念のために調べ、先ほどの盗賊の男の口ぶりから二人も捕まった可能性も高い。もしも仮に本当に二人がチェンに襲われいたらと考えると、レノはチェンに対して怒りを抱く。



(落ち着け、焦って行動するな……他に捕まっている人もいるかもしれない、冷静になるんだ)



二人以外にも盗賊に捕まっている者がいないかとレノは牢屋を全て覗き込むと、最後の牢屋には毛布に身を包んで横たわる人物を発見した。レノはすぐに鍵束を取り出し、牢の鍵を開くと眠っている人物を呼び起こす。



「あの、大丈夫ですか?起きてます?」

「う、ううん……ん?そ、その声は……もしかしてレノ君か?」

「えっ……アルト!?」

「チュイッ!?」



捕まっている人物の顔が天井の窓から射す月の光に照らされると、相手がサンノの街で別れたはずのアルトである事を知る。アルトは随分と汚れた格好をしており、自分の前に盗賊姿のレノが現れて驚く。

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