第104話 黒鎖のチェン

「ふん、ロンの奴が捕まったと聞いてどんな奴かと警戒していたが……まさか、こんなガキにやられたとはな」

「は、離しなさい……この無礼者!!」

「おっと、気の強い女は嫌いじゃないが止めておけ」

「あぐぅっ!?」

「止めろっ!!」



チェンが右腕を軽く動かすとドリスの首元を締め付ける鎖の力が強まり、それを見たレノは弓に矢を番える。その様子を見てチェンは余裕の表情を浮かべた。



「止めておけ、下手に討てばこの女に当たるぞ。いや、そういえばさっき、お前の矢が不自然に曲がったな……その弓、もしかして魔弓か?」

「魔弓?」

「弓型の魔道具の通称……レノ、この男には気を付けて」



レノの魔弓を見てチェンは興味を抱いた表情を浮かべ、そんな彼に対してレノは魔弓術を見られた事に危機感を抱く。魔弓術を利用すればドリスを狙わず、チェンに当てる事は出来るだろう。しかし、それを知りながらもチェンは余裕の態度を貫く。


このまま黙ってみているわけにもいかず、一か八かだがレノは矢を撃ち込んでドリスを助けようとした。しかし、レノが矢を放つ前にネココはチェンは男達に命じた。



「お前達、やれ!!」

「っ!?避けて、レノ!!」

「えっ……」



チェンが男達に命令を与えた瞬間、男達は懐から小さな壺を取り出すと、レノ達に目掛けて中身を放つ。中に入っていたのは黄色の粉末であり、それに気づいたネココは咄嗟に大きく飛びのいて躱す事に成功したが、レノは反応しきれなかった。


身体に緑色の粉末を浴びてしまったレノは咳き込み、その場に膝をつく。いったい何をされたのかとレノは訳が分からずに顔を起き上げると、そこにはチェンの勝ち誇った笑みが映し出される。



「気分はどうだ?毒薬師ロンの置き土産だ、少しでも吸い込めば身体が麻痺して動かなくなり、やがて意識を失う」

「う、ぐぅっ……!!」

「レノ、起きて!!早く逃げてっ!!」

「無駄だ!!お前達、その女を捕まえろ!!」

『はっ!!』



意識を失う寸前、レノはネココの元に8人の男達が向かい、それに対してネココは悔し気な表情を浮かべながらも背中を向けて駆け出す姿を確認する。薄れゆく意識の中、レノはネココが無事に逃げのびる事を祈って気絶した――





――次に意識が覚めると、レノは妙に肌寒さを覚え、目を覚ますと自分が冷たい床の上に倒れている事に気付く。



「うっ……こ、ここは?」

「おっ、やっと目が覚めたか……流石はロン先生の薬だな、こんな時間まで眠りこけやがって……おら、しっかり目を覚ませっ!!」

「ロン……!?」



レノは身体を起き上げようとすると、木造製の手錠と足かせが取り付けられている事に気付き、しかも檻の中にいる事に気付いた。天井近くに存在する窓からは月の光が零れ落ち、鉄格子の向かい側にはチェンの配下と思われる男が立っていた。


男は右足に包帯を巻いており、それを見てレノは最初に自分に弓を射抜いてきた男だと悟ると、鉄格子越しに男は忌々し気な表情を浮かべる。



「見ろ、これ……てめえのせいで俺の大事な足がこんな事になったんだぞ。どうしてくれんだ!!ああっ!?」

「くっ……ここは何処だ?」

「偉そうにするんじゃねえっ!!クソガキがっ……いでぇっ!!」



男は鉄格子を蹴り上げるが、怪我をしている方の足で蹴りつけたためにさらに痛め、怯んでしまう。そんな間抜けな男の姿を見てレノは呆れる一方、周囲の光景を確認して自分が盗賊達の隠れ家に捕まっている事に気付く。


レノは自分の装備が奪われている事を知り、剣も弓も魔法腕輪も指輪に至るまで奪われていた。また、身に付けている衣服も下着しかなく、手錠と足枷を嵌め込まれた状態なので動く事もままならない。



「ネココは、ドリスは何処た!?」

「うるせえっ!!なんでてめえの質問に俺様が答えないといけないんだ!!くそっ、お頭に言われなければ今すぐに殺してやりたいのに……」

「……どういう意味だ?」



レノは自分が生かされたまま捕まっている事に疑問を抱き、どうしてチェンは自分を殺さなかったのかと不思議に思う。すると見張り役の男は鉄格子に近付き、鍵を開けて牢屋の中に入り込む。



「はっ……お前、自分がどうして生かされているのか不思議に思っているんだろう?理由を教えて欲しいか?」

「…………」

「ちっ、今度はだんまりか?だったら教えてやるよ。お頭はな、お前が持っていた魔弓の使い方を知りたいんだよ。どう扱えばお前みたいに矢を撃てるのかと気になって仕方ないんだとよ」

「魔弓……?」



盗賊の男の言葉にレノは疑問を抱くが、すぐに自分の弓の事を思い出す。どうやらチェンはレノが所持している弓が魔道具だと思い込み、昼間にレノが矢を射抜いた光景を見てレノが所持している弓を本物の魔弓と勘違いしたらしい。


レノを殺さずに生かしておいたのは彼が所持していた弓の使い方が分からず、誰がどのように利用してもレノの様に矢を操作して撃ち込む事が出来なきくて困り果て、捕まえていたレノから情報を引き出すように見張らせていたという。


ロンの毒が抜けきるまでは意識は戻らないので仕方なく放置していたが、やっとレノが意識を取り戻したので彼に足を射抜かれた男は復讐も兼ねてレノに尋問用の道具を手にして尋ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る