第107話 吸水石

「これって……水属性の魔石?」

「ああ、そうだよ。厳密に言えば吸水石と呼ばれる魔石だね」

「吸水石?」

「魔石にも種類は色々とあるんだよ」



アルトの話によると魔石の種類は属性だけではなく、様々な種類が存在するという。例えばレノが今まで利用してきた魔法の威力を上昇させる魔石は「攻魔石」と呼ばれる代物らしく、それ以外にも一般人でも扱える魔石はいくつか存在する。


アルトが所有していた「吸水石」は水に浸すと信じられない量の水分を吸収し、内部に蓄積させる。しかも重量は変わる事はないために持ち運びにも便利であり、更に自由に吸収した水分を放出する事が出来た。この吸水石は料理や風呂や洗い物を洗う時に便利でしかも魔石の中では比較的に安価で購入できる優れ物だった。



「僕の吸水石でも100リットルぐらいの水分を吸収する事が出来るし、しかもずっと放置していても中身の水は腐る事はない。但し、水が切れた時は1日中は水の中に浸しておかないと満杯になるまで補給は出来ないし、一度に放出する量は限られているんだ」

「へえ……」

「捕まっている間は碌に水も食料も与えられないからね、僕もどうにか指輪から水だけは飲む事が出来て助かったよ。まあ、水だけ飲み過ぎるとお腹を壊さないのか心配だったけど……」



レノは指輪を確認し、実際に彼に指輪を使ってもらう。火球の魔法の時と同じようにこちらの吸水石も利用する時は呪文を唱える必要があるらしく、彼は指輪を構えた状態で水を放つ。



「使い方はこうだ。指輪を構えて呪文を唱えると水が噴出される……こんな風にね、解放リリース

「わっ……本当に出た」

「チュイイッ!?」



アルトが指輪を構えると呪文を唱えた瞬間、魔石に魔法陣の紋様が誕生して外部に水が放出される。但し、一気に大量の水を放出する事は不可能らしく、まるで子供が遊ぶような水鉄砲程度の勢いでしか水は出てこない。


指輪に嵌め込める程度の大きさの吸水石だとこの程度の噴出力しかなく、とてもではないが戦闘の際には大して役に立ちそうはない。アルトは指輪から水を噴出するのを止めると困った表情を浮かべる。



「流石にこんな物じゃ役には立たないか……この程度の水を浴びせても相手を怯ませるのも難しいね。すまない、役立ちそうな物は持ってなくて」

「チュチュウッ(気にしないでいいよ)」

「う、うん……何だろう、この鼠君に慰められた気がする。というより、その鼠はレノ君のペットかい?僕に少しみせてくれないかい?」

「チュイッ(いやん)」



今更ながらに魔物の研究家としてレノが連れている鼠に興味を抱いたのか、アルトはリボンに手を伸ばすとリボンはレノの頭に移動して逃れる。一方でレノはアルトが身に付けている指輪に視線を向け、考え事を行うように腕を組む。



「……アルト、その指輪は俺も使えるかな?」

「え?ああ、使えると思うよ。これは魔法が使えない人間のために加工された魔石だからね。専用の道具を用意すれば一般人でも扱えるから、君でも平気だと思うけど……」

「そう、それなら貸してくれる?ちょっと試したいことがあるんだ」

「ふむ、また何か思いついたのかい?いいだろう、これぐらいの物なら僕も荷物を取り戻せばいくらでも持っているからね」

「ありがとう、ここを抜け出せたら返すからね」



レノはアルトから指輪を受け取ると、問題なく扱える事を確認する。一般人でも扱える代物なので魔法を作り出せないレノでも問題なく使用できた。それを確認すると、レノは指輪を嵌めてアルトとリボンと共に本格的に脱出のために動き出す――





――建物の外に出ると、レノは街道を巡回する盗賊の姿を確認し、彼等が見ていないうちに行動を起こす。この際にリボンが役立ち、彼女は小柄な体を生かして先行すると、曲がり角や建物の中を事前に調べて盗賊が存在するか否かを教えてくれた。



「リボン、あの建物の中に盗賊はいた?」

「チュチュイッ」

「長めの鳴き声、という事はいないという事か……」

「よし、行こう……音を立てないように気を付けて」



リボンを利用してレノ達は盗賊が存在しない事を確認した廃墟に移り、徐々に中央へと近づいていく。この時にリボンと簡単な意思疎通をする方法を見つけ出す。リボンに質問した時、彼女は肯定の際は「チュイッ」否定の際は「チュチュイッ」と鳴くようになった。



「本当に不思議な鼠だね、街に戻ったらじっくりと観察して調べたい所だよ」

「チュイイッ(止めてっ)」

「アルト、リボンを怖がらせないでよ……よし、大分近付いたな」

「だが、中央の建物の周囲は隠れられる廃墟がない。建物の屋上から見張っている兵士もいるだろう。どうするんだ、レノ君?」

「……もう少しだけ様子を見よう」



レノ達は遂に遺跡の中央部へと辿り着き、盗賊達が暮らしている建物へと辿り着く。建物の周囲には流石に見張りの数も多く、アルトの予想通りに屋上から見張りを行う兵士の姿も確認できた。

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