第177話 カジノの闘技場
「……随分と人気があるようだな、ここには貴族もいるのか?」
「ええ、お客様の大半は貴族の方です。ここにいる貴族のお客様は他の賭博場には飽き果て、この場所に訪れました。最初の内は野蛮など、悪趣味過ぎるという御方もいましたが、何度も訪れるうちに命を賭して戦う者達の姿に魅了され、遂には毎日のように訪れる御方もいます」
「い、いったい何を考えていますの!?囚人とはいえ、こんな扱い方をするなんて……!!」
「お嬢様、落ち着いて」
ドリスは囚人を魔物と殺し合わせる光景を見て我慢できずに顔を真っ赤にさせるが、そんな彼女をネココは抑え付ける。案内人の男はドリスの反応を見てもわざとらしく悲し気な表情を浮かべながら説明を行う。
「勿論、お客様のお気持ちはよく分かります。囚人とはいえ、命を賭けて戦わさせるのは惨いというお客様も大勢いらっしゃいます。しかし、よくお考え下さい。彼等は自ら望んでこの場に立ったのです。決して我々は強制しておりません、彼等が罪を犯し、その罪を軽くするために彼等は戦いを望んだのです。つまりは自己責任ですよ」
「そんな理屈が通るはずが……!!」
「お言葉ですが、彼等は囚人ですよ。罪を犯していなければそもそもこの場所には訪れる事もありませんでした。つまり、これは彼等の罰でもあります。勝ち残れば罪を許され、殺された場合は彼等の罪が予定よりも早くに実行されたという事です。お客様も深くは考えず、死亡した罪人は死刑が執行されたと思えば気が楽になりますよ」
「……随分とこのカジノの持ち主は良い趣味をしているね」
流石のアルトも案内人の言い回しには皮肉で答えるが、そんな事を気にもかけずに案内人は肩をすくめる。基本的に最初に訪れた客はドリスのような反応を示す者は多いが、結局はその客達もここへ通い続けるうちにこの賭博場に魅了されてしまう。
「この賭博場ではどの囚人が勝ち残るかどうかを決める仕組みになっています。また、出場する選手全員が囚人というわけではありません。この後に傭兵同士の試合が行われますのでどうしても囚人との試合が見たくないというのならばそちらの試合が始まるで別室の休憩所で待機する手段もありますよ」
「傭兵?ここでも闘技場のように試合が行われるのか?」
「ええ……ですが、闘技場と違って相手を殺さなければどんな事も許されます。闘技場の試合よりも面白い光景が見られますよ」
最後に案内人の男は不敵な笑みを浮かべて立ち去ると、その案内人の言葉にレノ達は気にかかるが、ここで囚人と魔物の試合が終了したのか歓声が上がる。
『全ての魔物の討伐が確認されました!!生き残った囚人の数は3名、名前はドルトン、ダイア、ガイルです!!』
『うおおおおっ!!』
広間中に女性の声が響き渡り、何処から声を発しているのか気になったレノは周囲に視線を向けると、いつの間にか試合場の中心にはバニーガールの格好をした女性が立っていた。随分と肉感的な体型をしており、背中には蝙蝠のような翼を生やしていた。それを見たレノは彼女は人間ではなく、魔人族だと気づく。
以前にレノは遭遇する事はなかったが、吸血鬼のカトレアと同族だと思われる女性の手元には風属性の魔石が取り付けられた石棒が存在し、どうやら魔道具の一種らしく声を周囲に響かせる機能がある様子だった。現実世界のマイクのように声を周囲に拡散させる魔道具らしい。
『皆様、無事に生き延びられて良かったですね』
「はあっ……はっ……」
「ううっ……腕がっ……」
「畜生、いったい何度こんな事をすれば……」
『おっと、どうやらお疲れの様子ですね。それでは生き残った3名の方は退場して貰いましょう。皆様、どうか生き延びた御三方に盛大な拍手をお願いします!!』
女性の言葉に試合場の周囲に座った客達は拍手を行い、疲労困憊の3人の囚人は兵士に拘束され、試合場から退場した。残された魔物と人間の死骸もすぐに兵士達が撤去すると、改めて次の試合の発表が行われる。
『それでは本日のメインイベントを行います!!現在3連勝中のダイゴ選手の入場です!!』
女性が紹介を行うと、試合場の城門が開け開かれ、巨人族と思われる巨体の男性が姿を現す。その男は巨人族の中でもかなり大きく、身長は4メートルを軽く超えていた。更に両手には金属製の棍棒が握りしめられ、試合場に現れた瞬間に獣のような咆哮を放つ。
――うおおおおおっ!!
男の大音量が広間中へと響き渡り、観客たちは耐え切れずに耳元を抑える中、レノ達は現れた巨人族の傭兵に戸惑う。その傭兵は明らかに普通の様子ではなく、まるで興奮が抑えきれないように鼻を鳴らしながら試合場の中央へと移動する。
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