第176話 囚人の闘技場
「この人がゴノか……」
「いや、この像はかなり美化されているね。本物はもっと肥え太っているし、髪の毛の量も少ないよ」
「……この像、仮に純金で出来ていたとしても欲しくない」
「悪趣味ですわね……」
噴水に立っている金の像を見て正にゴノという男がどれほど成金趣味なのかを思い知らされる。最初にカジノに訪れる者はこんな物を見せられる事になるのかと思いながらもレノ達は建物の中に入った。
「いらっしゃいませ……皆様は貴族の方ですか?」
「ああ、見ての通りさ」
「そうですか、ではこちらのペンダントを身に付けて下さい。当店では貴族様にお勧めの賭博場も用意しています。もしも興味があるのならこのペンダントを提示すれば賭博場へ入れます」
「なるほど、それは興味深いね」
アルトは兵士達の前で堂々と振舞い、その姿は何処からどう見ても貴族にしか見えなかった。渡されたペンダントを身に付けると、ドリスも同じように受け取り、4人は中へと入る。
貴族かどうかを確かめるのは外見だけらしく、思っていたよりも警備の人間の意識は低かった。それはレノ達としては都合がいいのだが、問題なのはここからだった。
「お客様、当店の利用を初めてでしょうか?それならば私の方で説明させてもらいますが、どうしますか?」
「そうだね、お願いするよ」
「分かりました。当店では複数の部屋に分かれて賭博が行われています。例えばあちらの扉の部屋はルーレットが行われ、その隣の部屋はポーカーが行われています。このように種類ごとに賭博場が湧けられています」
「なるほど、それは面白い趣向だね」
「店の中には傭兵を雇っていますのでもしも揉め事が起きた場合は彼等が対処します。ここへ訪れるお客様の中には少々性格的に問題がある人間もおられますが、そのような御方にお困りの際はすぐに我々にお知らせください……貴族様が不快に思われる前に処理しますので」
「……ああ、覚えておくよ」
店員の男は不敵な笑みを浮かべると、その様子を見てレノは嫌な感情を抱き、彼の言う「処理」という言葉が気になった。アルトは説明してくれた店員にチップを渡すと、最初に店の中に入れてくれた警備の人間の話を尋ねる。
「そういえばこの場所では私のような人間がお勧めの賭博場があると聞いているんだが、そこはどの部屋かな?」
「それはあちらの一番の奥の赤い扉の先でございます。しかし、あの部屋へ入るには別料金として御一人様金貨1枚を支払ってもらいます」
「金貨1枚……!?」
「ここは私が払うよ、ちなみに使用人の分まで払わないといけないのかい?」
「いえいえ、お客様の分だけで十分でございますよ」
アルトは自分とドリスの分を支払い、レノとネココは使用人と護衛という事で免除された。4人は案内されるままに赤い扉の賭博場へと入ると、そこは想像以上の光景が広がっていた。
「こちらの広間は最近に設営されましたが、最も常連客様からは人気が高い場所です」
「これは……まさか、闘技場なのか?」
「こんな場所で戦っているなんて……」
部屋の中は想像以上に広く。広間の中央には鉄格子で囲まれた試合場が存在し、そこには魔物と人間が戦っていた。試合場の周囲には机と席が用意され、試合場で戦う者を見ながら食事を行う人間も存在した。
「いいぞ、やれやれ!!」
「簡単にくたばるなよ!!」
「ひひひっ……今日は誰が生き残るか見物じゃわい」
試合場には囚人のような恰好をした者達が存在し、彼等は錆びた剣を手にして襲い掛かるゴブリンと戦っていた。その様子を見て周囲の観客は騒ぎ、一方で戦わされている男達は必死に戦う。
いったい何が起きているのかとレノ達は動揺するが、ここでゴノ闘技場の地下で行われていた試合をレノとアルトは思い出す。闘技場の地下では奴隷が戦わされていたが、この場所でも似たような境遇の人間達が魔物と戦って命を賭けているのかと思うと、案内してくれた男が説明する。
「この場所ではこの街で罪を犯した囚人をあのように魔物と戦わせています。ああ、ご安心ください。彼等は全員が重罪を犯した人間達ですので同情する必要はありません」
「しゅ、囚人を戦わせているのですの!?」
「ええ、彼等が全ての魔物を倒して生き残った場合、減刑させるという約束の元で戦わせています。ちなみにこの場で戦っている者達は彼等の意思でこの場に立っています」
「囚人が自ら望んで……!?」
鉄格子に取り囲まれた試合場の中で囚人達は必死に武器を振るい、武器と呼べるかどうかも難しいほどの錆びついた剣を用いて必死に戦っていた。その様子は試合場の地下で戦わされた奴隷と変わらず、彼等は生き残るために必死に抵抗していた。
「畜生、殺されてたまるか!!」
「俺は生き残るんだ!!」
「うおおおっ!!」
『ギィイイッ!!』
ゴブリンの集団を相手に囚人達は必死に剣を振るい、剣が折れた者は素手で殴りつけ、時には相手に噛みつく。彼等が生き残るには魔物を殲滅する以外に手段はなく、その必死な様子を大勢の人間が笑いながら見守っていた。
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