第271話 黒蜘蛛の集団
「ど、どんどん増えてきやがったぞ!!これじゃあ、切りがねえぞっ!!」
「流石にこれだけの数は燃やしきれませんわ!?」
「オリハル水晶は見つかりましたか!?」
「馬鹿野郎、そんな簡単に発掘できるもんじゃねえよ!!」
『キィイイイッ!!』
岩壁や天井に存在する穴から次々と新手の黒蜘蛛が出現し、その数は空洞を覆いつくさない勢いだった。これだけの数の黒蜘蛛を相手に出来る余裕はなく、退散するようにアルトは促す。
「流石にこの数は無理だ!!皆、諦めて外に出よう!!」
「待って!!あそこ……よく見て!!」
ネココは天井を指差すと、全員が視線を向けた。今までは気づかなかったが天井には氷柱のような物が存在する事が判明し、それほど冷える場所でもないのにどうして氷柱が存在するのかと思われたが、ここでアルトは驚きの声を上げる。
「あれは……オリハル水晶だ!!」
「何だって!?」
「あ、あれが……伝説の魔法金属の鉱石ですの!?」
事前の情報通りに鉱石とは思えない程の水晶のように透き通った美しい鉱石が天井から伸びており、それを確認したレノは地上の様子を観察し、オリハル水晶の位置を把握すると全員に避難を促す。
「皆、先に戻って!!俺はあの氷柱をどうにか取ってくるから!!」
「壊すって……伝説の魔法金属の鉱石ですのよ!?そんな簡単に壊れる物ですの!?」
「いや、加工する前の段階のオリハル水晶はオリハルコンと比べれば硬度は劣ると聞いている!!それでもミスリルと同程度の硬さはあるはずだ!!大丈夫なのかレノ君!?」
「やってみるしかないよ!!」
他の者を先に避難させ、レノは黒蜘蛛を蹴散らしながらオリハル水晶が存在する位置の真下に移動する。接近してくる黒蜘蛛は荒正に纏わせた風の魔力で吹き飛ばし、邪魔者を排除しながら向かう。
天井までの距離は少なくとも10メートル近くは存在したが、その程度の高度ならばレノは「瞬脚」を利用した跳躍力でどうにか出来る。問題なのは回収手段であり、アルトの話によれば加工前の何回でも魔法金属のミスリルと同程度の硬度を誇るらしく、生半可な攻撃は通じない。
(やるんだ!!あの技を!!)
レノは荒正を鞘に納めると、意識を集中させ、まずは両足に魔力を送り込む。周囲から黒蜘蛛が迫りくる中、目を見開いたレノは天井に向けて飛び上がる。
「うおおおっ!!」
『キィアアアアッ……!?』
強烈な風圧を発生させてレノは飛び上がると、氷柱のように露出されたオリハル水晶の元に迫り、鞘に納めていた荒正に手を伸ばす。既に鞘の内部では風の魔石から送り込まれた魔力が蓄積されており、至近距離でレのは刃を引き抜く。
足場のない空中にてレノは上手く刀を抜けるか心配であったが、オリハル水晶を目にした彼は覚悟を決め、刃を引き抜いて放つ。その結果、刃から強烈な風の衝撃波が放たれ、オリハル水晶の根本の部分を切り裂く。
「――嵐断ち!!」
風を越えた嵐の魔力を纏わせた刃が鞘から放たれ、嵐刃の比ではない程の強烈な斬撃がオリハル水晶を切り裂き、それどころか天井に巨大な亀裂を生じさせた。その結果、威力が強すぎて天井全体に罅割れが広がり、それを見たレノは冷や汗をかく。
「やばっ……崩れる!?」
「レノ、これに掴まって!!」
どうにか空中に落下するオリハル水晶を掴む事に成功したレノに対し、階段の前に存在したネココは自分の身に付けていたマントを丸めた状態で蛇剣に突き刺すと、刃を伸ばす。
自分の元へ放たれた蛇剣の刃にレノは驚くが、先端に突き刺さったマントをみて咄嗟にマントを掴むと、刃が引き寄せられて階段前に存在するネココの元へ向かう。この時にネココだけではなく、ドリスとアルトも彼女の身体を掴んでレノを引き寄せる事に成功した。
「うわぁっ!?」
「にゃっ!?」
「あいたぁっ!?」
「ひゃんっ!?」
引き寄せられた際にレノは手にしていたオリハル水晶と共に3人の身体に飛び込む形となり、4人とも階段の方に倒れ込む。その直後、天井が崩壊して大量の瓦礫が空洞内に落ちてきた。
――キィイイイイッ!?
大量の黒蜘蛛の断末魔の悲鳴が響き渡り、空洞が崩壊した事で黒蜘蛛の群れは押しつぶされていく。その光景を目にしたアルトは慌てて自分達も階段を上がって戻るように促す。
「皆、上へ向かうんだ!!この階段が崩壊したら生き埋めになるよ!!」
『うわぁあああっ!?』
全員が一斉に階段を駆け上がり、階段が崩壊する前に地上に繋がる通路へと向かう。この際にレノ達はちゃっかりと回収したオリハル水晶を持ち帰り、どうにか無事に地上へと繋がる通路へと辿り着いた――
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