第270話 地下空洞
「……まさか!?」
『キィイイイッ……!!』
嫌な予感を覚えたネココは天井を見上げると、そこには無数に光り輝く瞳が存在する事に気付き、彼女は咄嗟にその場を離れる。次の瞬間、天井の方から糸のような物が放たれ、ネココが先ほどまで存在した位置に糸が張り付く。
ネココは地面の上を転がりながらも回避に成功すると、天井を見上げて敵の正体を伺う。その結果、全長が1メートルを軽く越える巨大な蜘蛛の集団が待ち構えている事に気付き、彼女は蛇剣を引き抜く。
「……蜘蛛型の昆虫種!!」
『キィイイイッ!!』
全身が黒色に染まった巨大蜘蛛が次々と糸を天井に張り付けて地上へと降りると、その不気味な外見と巨大さにネココは嫌悪感を抱く。昆虫種の魔物と戦うのは初めてではないが、やはり外見は不気味で気味が悪い。
「どうしたのネココ!?」
「ネココさん、無事ですの!?」
「うおっ!?な、何だこりゃ!?」
「これは……昆虫種か!!」
遅れてレノ達も階段から下りてくると、その様子を見てネココは眉をしかめ、魔物に姿を見られた以上はもう逃げたとしても「黒蜘蛛」は追いかけてくる。こうなった以上は戦闘は避けられず、ネココは剣を抜いて全員に声をかける。
「……こいつらは敵!!戦うしかない!!」
「昆虫種型の魔物は知能が低い……火を灯そうと恐れずに襲い掛かってくる、気を付けるんだ!!」
「くっ……やるしかありませんわね!!」
『キィイイイッ!!』
レノとドリスも剣を構えると、船長もカトラスを引き抜き、ドワーフ達は採掘用に持って来たツルハシを構える。アルトは階段の方で指示を出し、魔物の特徴を伝えて援護を行う。
「蜘蛛型の魔物の糸には気を付けるんだ!!尻からだけではなく、口からも放つ事が出来る!!糸は巨人族でも簡単には引き剥がせない程の粘着力を誇るから火を近づけて焼き切るしかない!!」
「そういう事なら私とレノさんの出番ですわね!!」
「火炎剣!!」
黒蜘蛛の放つ糸の弱点を知ったドリスは即座にレノに指輪を返すと、レノは指輪を利用して魔法剣を発動させ、荒正の刀身に炎が灯る。ドリスの方も魔剣を引き抜くと、剣を構えた状態でレノと背中を合わせる。
二人の魔法剣ならば黒蜘蛛の糸も恐れる必要はなく、黒蜘蛛の1匹が二人の元に向かうと、それに対して二人は刃を重ね合わせて攻撃を行う。
「キィイイッ!!」
「レノさん!!」
「分かってる……爆炎刃!!」
「ギィアッ!?」
ドリスが剣を構えると、それに対してレノは刃を振りかざし、彼女の剣に纏った爆炎を振り払うように放つ。爆炎の刃によって黒蜘蛛は全身を焼き尽くされ、灰と化して地面に散らばる。
「キィイッ!?」
「キキィッ!?」
「よし、怯んだぞ!!今のうちにドワーフ共は鉱石を発掘しろ、こいつらは俺が抑える!!」
「大丈夫なのか!?」
「やるしかねえ!!うおりゃあっ!!」
「ギィアッ!?」
船長もレノ達に負けずにカトラスを振り上げ、近づいてきた黒蜘蛛の脚を斬り裂く。この際に切り裂かれた箇所から血液が噴出し、その血液が地面に触れた途端に煙を上げて地面が溶けてしまう。この際に船長のカトラスも刃の一部が溶けてしまい、彼は悲鳴を上げる。
「ぎゃああっ!?お、俺のカトラスがぁ……な、何なんだこりゃあっ!?」
「まさか……皆、気を付けるんだ!!昆虫種の中には血液が強い酸性を持つ種もいる!!こいつらを下手に傷つければ酸の血液で溶かされるぞ!?」
「そういう事は……早く言って!!」
『キィイイイイッ!!』
アルトの言葉にネココは壁際を走りながら追いかけてくる数匹の黒蜘蛛に視線を向け、下手に傷つければ相手を酸の血液を放つと聞かされては彼女とは相性が悪い。蛇剣で下手に切り付ければ酸の血液で溶かされる危険性があった。
魔剣である蛇剣は簡単には壊れないかもしれないが、それでも酸の血液を浴びれば無事では済まず、ネココは逃げる事だけに集中する。その間にレノとドリスは互いに刀身に魔法剣で対処する。
「酸の血液だろうが……全身を燃やし尽くし、血液を蒸発させれば問題ありませんわ!!」
「ギィアアアッ!?」
「近づかずに斬ればいい!!」
「ギャアッ!?」
ドリスは爆炎剣で黒蜘蛛を焼き尽くし、レノの場合は嵐刃を連発して遠距離から黒蜘蛛を切り裂く。要は酸の血液を浴びなければ済む話であり、次々と二人は黒蜘蛛を倒していく。
だが、最初は十数匹しかいないと思われた黒蜘蛛だったが、岩壁には複数の穴があり、そこから新しい黒蜘蛛が出現する。どうやらこの場所は黒蜘蛛の住処と化していたらしく、次々と新手が出現する様子を見てアルトは注意した。
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