第269話 魔法が使えない理由

(どうして俺は魔法が使えないんだろう……子供の頃よりも魔力を上手く操れるのに)



レノは自分が魔法を扱えない理由が分からず、最初の頃は自分の魔力を操作する技術が未熟だから、純粋なエルフではないから魔法を使えないと思い込んでいた。


しかし、時が経過するにつれてその二つの考えは誤りであると思い、一つ目の理由はレノも数年間の修行で魔力操作の技術はほぼ完全に極めたと言っても過言ではない。今現在では魔石から魔力を引き出す力も手に入れた。二つ目の理由も魔法が使えない理由には当てはまらず、純粋な人間であるアルトもドリスも魔法を扱える。


魔法が秀でた種族であるエルフの血筋であるレノならば魔法を使えてもおかしくはないのだが、何故か魔法の発動に関しては一度たりとも成功した事がない。別に魔法剣があれば魔法など使えなくても問題はないのだが、やはり気になってしまう。



「どうかしたのかい、レノ君?さっきから黙り込んでいるけど……」

「あ、いや……俺もドリスみたいに魔法が使えたら便利なのにと思って」

「なるほど、そういう事か。確かに魔法は便利だからね、その気持ちはよく分かるよ」



アルトはレノの言葉を聞いて頷き、彼も魔法は扱えるが本職の魔術師と比べれば大した効果は引き出せない。魔法が使用できるだけでも凄い事なのだが、戦闘や日常生活に役立てる程ではない。



「別に魔法なんか使えなくても人は生きていける……灯りが必要なら松明を用意した方が早い」

「それも一理ありますわね……魔法を使用する度に魔力も体力も削られますし、松明があるのならばそちらの方が楽ですわね」

「そうなんだ」



初級魔法は魔力の消耗量が低いとはいえ、発動させれば魔力を削られる。それぐらいならば松明を用意して火を灯した方が楽である。魔法が便利だからといって頼り過ぎる生活を送ると身体に負担が掛かるという。



「魔法か……」

「何だい、レノ君は魔法が使えない事を気にしているのかい?」

「そんな事、気にする必要はありませんわ。レノさんには魔法剣があるではないですか、あんなに凄い魔法剣を扱えるのに魔法も使いたいなんて贅沢ですわよ」

「そうか……うん、そうだね」



ドリスの言葉にレノは思い直し、確かに魔法なんか使えなくても自分には魔法剣があると考えると気が楽だった。子供の頃は魔法が使えない事から虐められていたが、別に魔法が使えなくてもレノはここまで生きてこられた。そう考えると少しは気が楽になる。


話し合っている間にレノ達の先頭を歩いていた船長は定期的に立ち止まり、羊皮紙に記された地図を確認する。やがて彼は更に地下に繋がる階段を発見した。



「よし、この先を降りればオリハルコンの原材料のオリハル水晶という鉱石が手に入るはずだ!!」

「オリハル水晶?」

「聞いた事があるよ。なんでもオリハルコンの鉱石は加工前から水晶のように透き通って美しく光り輝くらしい」

「それは気になりますわね!!」

「……多めに持って帰って売り捌けばお金持ちになれる」

「売るなんてとんでもないですわ!!装備品や装飾品の材料として利用しましょう!!」

「確かにオリハルコン製の装飾品なら高く売れそうだね……」

「おいおい、お前等気が早いぞ!!まあ、はやる気持ちは分かるがな!!」

「いいから、さっさと行かんか!!」



船長は機嫌良さそうに笑うと、同行していたドワーフのドルトンが注意し、全員が階段を降りて地下へと向かう。羊皮紙によれば階段の下りた先には地下の空洞が存在し、そこでオリハル水晶というオリハルコンの原材料が手に入るという。


オリハル水晶を入手すれば一獲千金の好機であり、期待感に胸を膨らませながらもレノ達は下りようとした時、ここでネココが何かに気付いたように鼻を鳴らす。



「すんすんっ……待って、下の方から臭いが感じる」

「臭い?」

「どんな臭いなんですの?」

「……人の臭いじゃない、これは魔物の臭いがする」



ネココは目つきを鋭くさせ、彼女は先に降りて階段の先の様子を伺う。この時にネココは松明の類は持ち合わせず、暗闇の中を移動する。暗殺者である彼女は「暗視」という技能を持ち合わせ、暗闇の中でも周囲の光景を把握する能力を持つ。


一足先に階段を降り切ったネココは驚き、彼女の視界には広大な地下空洞が映し出された。しかも空洞内の天井や岩壁には光を放つ苔のような物が張り付いており、それを見たネココは戸惑う。



(あれはヒカルゴケ……暗闇の中で光を発生させる苔、こんな場所にも生えていたなんて……)



空洞内がヒカルゴケという名前の苔に照らされている事を知ったネココはより一層に警戒心を強め、周囲を注意深く観察する。この際、ネココはヒカルゴケの放つ光によって自分が照らされている事に気付く。

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