第268話 力を合わせて

「これは流石に叩いてどうにかなるとは思えませんわね……他に何か記してありませんの?」

「駄目だ、何も書いてねぇ……くそっ!!あの馬鹿親父、どうやって開いたんだ?」

「何はともあれ、とりあえずは叩いてみたらどうじゃ?本当に開くかもしれんぞ?」

「どいてくれ、そういう事なら俺がやろう」



ここでゴンゾウが前に出ると、彼は腕をまくしたてる。巨人族であるゴンゾウがこの中では一番力が存在し、彼は腕鉄鋼のような武器を取り出す。こちらは「闘拳」と呼ばれるこの世界の独自の武器であり、それらを身に付けたゴンゾウは腕を振りかざす。



「ふんっ!!」

「うおっ!?」

「すげぇっ!?」



扉にゴンゾウが全力の一撃を叩き込むと、僅かながら門が内側へと開く。しかし、すぐに門は裏側から押し返されるように閉じてしまい、ここでアルトは門の仕組みに気付く。



「なるほど……どうやらこの扉は常に内側から扉が押し付けられている状態なんだ。だから、門を開くためには常に扉を押し続けなければならないらしいね」

「なるほど、そういう仕掛けだったのか……」

「よし、それなら力自慢どもの出番だ!!いくぞ、野郎ども!!」



男性陣は力を合わせて門を開くために押し寄せると、徐々にだが門は開き始める。ある程度まで開くと巨人損族のゴンゾウが門を掴み無理やりに押し開き、その状態で先に進むように促す。



「俺が抑えている……今のうちに進め!!」

「よし、頼んだぞゴンゾウ!!」

「兄貴が抑えている内に進もうぜ!!」

「待ってくれ!!」



ゴンゾウが抑えている間に他の者は通り過ぎようとしたが、ここでアルトは重要な事を思い出し、先に進もうとした者達を引き留める。この状況でどうして引き留めるのかと皆は驚くが、ここでアルトはある疑問を抱く。


門が開いている間は先に進む事が出来るが、問題なのは帰還の際に戻る方法である。内側に向けて門を押し開いたのだから帰る時も同様に内側に引いて門を開かねばならない。だが、ここでアルトは門を確認して眉をしかめる。



「この門には取っ手がない……そうなると、帰還するときにどうやって戻ればいいんと思う?」

「何だって!?」

「取っ手がなければ門を内側に開く事も出来ないじゃないか!!」



門には取っ手の部分が存在せず、何も考えずにこの中に入っていたとしたら、中に入った人間は門を内側に戻す方法がない。押し開くだけでも人間換算ならば10名近くの男性の力が必要なのに取っ手がない状態の門を開くなどほぼ不可能に等しい。



「このまま進むと僕達は戻れなくなる可能性がある。この扉を開いたままの状態か、あるいは扉の外側に誰かが残る必要があるね」

「船長!!どうすんだよ!?」

「えっと……あっ、扉を開く前に外側に人を残しておけと書いてやがる!!くそ、もっとデカい文字で書きやがれ!!」

「いや、船長がちゃんと読んでないせいだろそれ!?」

「あ、危なかったですわ……」



船長が羊皮紙の文章を読み落としていた事が発覚し、もしもアルトが気づかなければレノ達は閉じ込められていた可能性がある(船の方に船員が残っているため、疑問を抱いた者達が迎えに来てくれる可能性はあったが)。



「ゴンゾウ、悪いがお前はここに残ってくれ。俺達が戻ってきたとき、外側から開けられるように力の強いお前が残ってくれるか?」

「ああ、分かった」

「兄貴だけを残していくのは可哀想だな……あたしも話し相手として残るぜ」

「……それがいい。この調子だと、どんな罠があるかも分からない。子供は安全な場所に居た方がいい」



ゴンゾウとポチ子は門を開くためにこの場に残り、その間にレノ達は先へ進む事にした。門の一件もあって今度は羊皮紙の内容を見落とさないように船長も気を付け、先へと進む。



「船長、この先に罠はありませんよね?」

「ちょっと待ってくれよ……くそ、暗くなって読みにくいな。おい、誰か灯りを近づけてくれ」

「おう」

「松明の火で羊皮紙を燃やすなんてべたな真似は止めてくれよ……」

「へ、平気だって!!」

「でも、確かに暗いですわね……そうだ、レノさんの指輪を貸してくださいますか?私が初級魔法で照らしますわ」

「あ、なるほど……なら、お願いできるかな?」



レノは自分の火属性の指輪をドリスに差し出し、彼女は指輪を受け取る際、不意に薬指の視線を向けて頬を若干赤く染めた。



「……男性から指輪を貰うのは初めてですわ」

「えっ?」

「……あげていない、貸しているだけ」

「わ、分かっていますわ!!」



ネココの指摘にドリスは頬を赤くしながらも人差し指に嵌め込み、初級魔法の「火球」を発動させた。以前と比べて魔力操作の技術が磨かれたドリスは魔法の腕も格段に成長し、今回は複数の火球を作り出す。


その様子を見ていたレノはドリスを羨ましく思い、魔力操作の技術ならばまだレノの方が優れているはずだが、何故か彼は魔力を魔法として形作る事が出来ない。子供の時からレノは魔法を使おうとすると必ず失敗してしまう。理由は不明だが、魔法を生み出すのに必要な技術を身に付けているにも関わらず、レノは魔法が扱えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る