第272話 オリハル水晶
「――ぷはぁっ!!死ぬかと思った!!」
「たく、飲み過ぎだぞ船長……また二日酔いになるぞ?」
「馬鹿野郎!!今日は飲まずにはいられるか!!」
どうにか無事に地下から脱出したレノ達は砂船へと戻ると、船長は酒樽を取り出して全員に酒を振舞う。危うく死にかけたが無事にオリハル水晶の回収には成功し、全員が生還を喜び合う。
事態を知らないネココとゴンゾウは帰って早々に飲み始めた船長に呆れてしまうが、船長からすれば生きるか死ぬかの瀬戸際であり、生還の喜びを分かち合うために酒を飲まずにはいられなかった。
「ああ、酒が美味い!!死んじまったらもう飲めねえからな……」
「そんなに大変だったのか?」
「おうよ、危うく死にかけたぜ!!たくっ……親父の奴、あんな化物が潜んでいるのならちゃんと書き残しやがれ!!」
「いや、親父さんがいた時代にはあの魔物は地下には住み着いていなかったのかもしれないよ。僕の調べた限り、あの黒蜘蛛という魔物は本来は洞窟などに生息する種だ。こんな砂漠の地下にいる事自体が不思議なんだが……」
「え、そうなんですの?」
「まあ、何でもいいじゃねえか!!色々と会ったが目的の物は回収出来たんだからな!!」
アルトによると黒蜘蛛が砂漠の地下に存在した事が気になったが、船長としては目的の物を回収できただけで満足だった。船にはレノが回収したオリハル水晶が存在し、これだけでも凄まじい価値が誇るのは間違いなかった。
「おおっ……これが伝説の魔法金属、オリハルコンの原石か」
「オリハル水晶……加工する前から何という美しさじゃ」
「伝説の聖剣の素材にも利用されている鉱石……鍛冶師の血が騒ぐのう!!」
「エイハブ!!早く船を拠点へ戻せ!!すぐにこいつを使って色々と作りたい!!ああ、いったい何を作ろうかの……武器?防具?それとも装飾品か?」
「おいおい、それは坊主達が手に入れたんだぞ。それなら坊主たちの希望を聞けよ」
「え?俺達が?」
鍛冶師達は興奮した様子でオリハル水晶を眺め、今すぐにでも鍛冶を行いたさそうな表情を浮かべるが、そんな彼等に船長は釘を刺す。
「最初に言った通り、今回の獲物は半々で分けると言っただろう?土鯨の報酬は満足できるほどに渡せなかったからな。だからそのオリハル水晶の半分は坊主達の物だ……そもそも坊主がいなければ回収も出来なかったからな」
船長は頭を掻きながら申し訳なさそうにレノ達に顔を向け、実際にレノ達がいなければ船長たちだけではオリハル水晶の回収どころか黒蜘蛛に襲われていた可能性もある。その事に負い目を感じているらしく、レノ達の希望を聞く。
「なあ、ここにいる爺さん連中は顔はともかく、腕の方は確かなんだ。だからこのオリハル水晶で作って欲しい物があれば何でも言ってくれ。どんな物でも作ってやるぞ?」
「おい、エイハブ!!何を勝手な……」
「うるせえ爺共っ!!お前等だって坊主たちがいなければ殺されていただろうが!!文句を言うな!!」
「ぬうっ……仕方あるまい、だが素材には限りがある。お主等に渡す分量だけの道具しか作れんぞ?」
「と、いう事だが……どうする?」
ドルトンによればレノ達が貰うはずの分量のオリハル水晶しか道具の製作は出来ないらしく、各自で何を作って欲しいのかを今ここで決めるように促す。
レノ達としては急に伝説の魔法金属のオリハルコンで作り上げた道具を受け取れる機会を与えられたが、いきなり言われても困り果ててしまう。伝説として扱われている希少金属の道具など滅多に手に入る事はない。
「ど、どうしますの!?オリハルコンで何を作ってもらいますの!?」
「まずは落ち着くんだ、そうだな……僕は大して役に立ってなかったし、遠慮しておくよ」
「……謙遜する必要はない。アルトの情報は役に立っていた」
「オリハルコンか……魔法金属ならやっぱり、腕輪と指輪を作って貰った方がいいかな?」
レノは自分が身に付けているミスリル製の腕輪と指輪に視線を向ける。この二つの装備品には魔石が取り付けられており、魔法金属製の装飾品ほど魔力を引き出す際に便利な代物はない。
魔法金属は並の金属よりも硬く、頑丈で魔力の伝達も早い。そういう点では無難に魔法腕輪や指輪の類を頼むのがいいだろう。だが、レノ達が受け取れる分のオリハル水晶を考えると全員分の腕輪や指輪を作っても量は余る。
「……私はイヤリングが欲しい。装飾品なら邪魔にならないし、いざという時は高く売れそう」
「売るんですの!?オリハルコン製の装飾品を!?」
「下手に武器を作ってもらうと愛着がわいて売りにくくなる。だから私は装飾品でいい」
「ははは、ネココらしいね……それなら僕はペンダントでも作って貰おうかな?」
「え、えっと……なら私は指輪ですわ!!」
「それなら俺は……」
皆がオリハルコンの素材で何を作ってもらうのかを決める中、レノは考えた末にある物を頼む事にした――
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