第288話 シチノの現状

――ホブゴブリンとボアの群れに撃退した後、レノ達はシチノの警備兵達に歓迎され、街の中まで案内される。この時にレノはシチノの防壁を間近で見るが、他の街と比べても城壁の高さが半端ではなく、少なくとも倍近くの高度と厚さを誇った。


シチノの別名は「要塞都市」とも呼ばれ、城壁に関しては王都よりも堅固である。この頑丈な防壁に囲まれているからこそシチノはこれまでに敵の侵入を許した事はなく、避難した人々も安心して生活する事が出来る。


ドリスと共にレノ達はこの街を管理する領主の元に赴き、相対した領主はこの国では珍しい「獣人族」の貴族だった。



「おお、これはドリス殿!!よくぞお越しくださいました!!」

「タスク侯爵!!お久しぶりですわね!!」



レノ達は街の中の一番大きな屋敷にまで案内されると、この街の領主にしてジン国では唯一の獣人族でありながら貴族である「タスク」という名前の男性が出迎える。彼はドリスと面識があるらしく、二人は顔を合わせると握手を行う。



「ドリス様、ここへ戻ってこられたという事は王都へ向かう途中なのですね?実は私の方にも陛下から命令が下り、ドリス様がこの街へ訪れればすぐに王都へ向かうようにと言付かっております」

「あら、そうでしたの……色々とあって王都へ向かうのは遅れましたが、私は王都へ向かう途中でしたわ」

「おお、そうですか。それは良かった……しかし、しばらくの間はこの街に留まった方が安全でしょう」

「……だいたいの事情はここに来る途中で聞きましたわ。大変なことが起きているようですわね」



ドリスは屋敷に向かう道中で兵士達からシチノの現状を聞いており、予想以上に大変な状況に追い込まれている事を知る。現在のシチノは警戒状態に陥っており、街の人間は外へ出る事を禁じられている。



「数日前、突如として街の周辺に大量のゴブリンが集まってきました。我々は冒険者ギルドに依頼し、冒険者達にゴブリンの対処をさせようとしたのですが……冒険者だけでは対処しきれい状態です」

「この街には数百名の冒険者が滞在していると聞きましたが……」

「それでも数が足りないのです。既に街中に滞在する傭兵も話を付け、彼等にも協力して働いて貰っています。しかし、どうやら通常種のゴブリンだけではなく、上位種のホブゴブリンがボアなどの魔物を従えて暴れている始末でございます」

「そのホブゴブリン達は私達も見ましたわ。あんなのがまだいますの……」

「……この街に住んでいる学者によると、恐らくはゴブリンキングが誕生したと考えられています」

「ゴブリンキングか……ゴブリンの最上位種にして王の名前通り、ゴブリンを統べる物か」



タスクの言葉にドリスに同行していたアルトが口を挟み、ここでタスクはドリスの傍に立っているレノ達を見て不思議そうな表情を浮かべた。



「ドリス様、その御方達は?」

「え、あ、それは……私の友人で、ここまでの旅の道中を共に行動してくれた方々がですわ」

「初めましてタスク侯爵。僕はアルトと申します、こう見えても僕も学者なんですよ」

「おおっ、その名前は聞いた事がありますぞ!!一時期は王都で名前を上げた学者の方ですな!?」



アルトが名乗るとタスクは彼の事を知っていたらしく、驚いた表情を浮かべるがすぐに握手を求める。この状況下で有名な学者が来てくれた事は有難く、今回のゴブリンの大量発生と原因を突き止める手助けを申し込む。



「アルト殿もどうか我々と共に行動してくれませんか?我が街の学者もゴブリンの大量発生の原因はゴブリンキングである事は突き止めましたが、現在のゴブリンキングが何処で何をしているのか予想も出来ない状態でして……」

「なるほど、そういう事なら僕も協力しますよ」

「おお、有難い。それで……そちらの御二人はドリス様とはどのようなご関係で?」

「レノさんもネココさんも腕の立つ傭兵ですわ。あ、レノさんは違いましたっけ……?」

「えっと……本職は狩人です」

「なるほど、そうでしたか。我が街の警備兵と、避難民を救っていただきありがとうございます」



ドリスはネココを腕利きの傭兵と紹介すると、レノは困った表情を浮かべながらとりあえずは数年間は務めていた「狩人」が自分の本職だと伝える。


傭兵だろうと狩人だろうと戦える力を持っているのならば有難く、タスクは貴族でありながら二人に対して頭を下げる。大抵の貴族は一般人に頭を下げるなど有り得ないが、彼の場合は力を貸してくれるのであればどんな相手だろうと礼儀を通す。



「それでタスク侯爵、王都への連絡はどうなっていますの?」

「既に王都へ向けて使者を派遣しましたが、恐らくはまだ王都へも辿り着けていないでしょう。仮に王都まで到着しても援軍が到着するまではどれだけの日数が掛かるか……」



シチノから王都までは馬車で移動しても数日はかかり、更に援軍を派遣するとしても時間が掛かる。早くても援軍が辿り着くのは今から「一週間」は掛かるという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る