第287話 隻眼のホブゴブリン

「爆火斬!!」

「ギィアアアッ!?」



横薙ぎにドリスは剣を振り払うと、爆炎がホブゴブリンの身体へと襲い掛かり、ボアの背中から落ちてしまう。背中に乗っていたホブゴブリンがいなくなったボアは慌てて逃げ出してしまう。



『プギィイイイッ!?』

「よし、半分は消えた……残りはこいつらか!!」



レノは逃げ去っている数頭のボアに視線を向け、残された5体のホブゴブリンとボアに視線を向ける。残ったホブゴブリンとボアは唐突に奇襲を仕掛けてきたレノ達に対して警戒心を抱いたのか、ホブゴブリンの中で1匹だけ片目に傷を負っている隻腕のホブゴブリンが鳴き声を上げる。



「グギギッ!!」

『グギィイイッ!!』



隻腕のホブゴブリンが鳴き声を上げた瞬間、ボアに跨ったホブゴブリンはボアの尻を叩き、逃走を開始する。その様子を確認してから隻腕のホブゴブリンは殿を務め、その場から立ち去ろうとした。


逃げ出してしまったホブゴブリンとボアの群れを確認してレノは驚き、慌ててその後を追おうとした。だが、レノが追いかける前に隻腕のホブゴブリンは地面に向けて何かを投げつけると、硝子が割れたような音が鳴り響く。



「グギギッ……!!」

「うわっ!?な、何だ……!?」

「煙玉……!?」

「いえ、違いますわ……皆さん、すぐに煙から離れて!!」



ホブゴブリンが投げつけた物体は煙玉のように黒煙を撒き散らすが、その様子を見てドリスは嫌な予感を抱き、すぐに離れるように促す。レノもこの黒煙を浴びると無事では済まないと悟り、距離を取る。



「何だ、この煙……」

「ウォンッ……」

「……嫌な予感がする」

「これは……闇属性の魔力を感じますわ」



黒煙からレノ達は離れると、しばらくの間は草原に黒煙が漂い、その様子を見たドリスは煙に触れないように注意する。レノ達以外の兵士も黒煙に近付かないように気を付けると、やがて時間が経過する事に黒煙は薄くなって消えていく。


完全に消えた時には既にホブゴブリンとボアの群れの姿はなく、その光景にレノは悔し気な表情を浮かべる。だが、ここでレノは地面に落ちている物に気付き、先ほどの隻腕のホブゴブリンが叩き割ったと思われる物の正体を見抜いた。



「これは……水晶玉?」



落ちている物体の正体は透明の水晶玉である事が判明し、それを拾い上げようとしたレノだったが、少し力を込めるだけで水晶玉は砕けてしまう。その様子を確認してまるで魔力を失った魔石のようだと知る。



「この水晶玉がさっきの黒煙を生み出していたのかな……?」

「恐らくは闇属性の魔石ですわ。さっきの黒煙も、闇属性の魔力が拡散して生み出された物です。もしも吸い込んでいたら闇属性の魔力が体内に入って大変な事になっていましたわね」

「……危なかった」

「き、君達……何者だ?」

「助けてくれた事には感謝するが……君達は冒険者か?」



ここでレノ達の後方から戸惑いの表情を浮かべる警備兵の集団が訪れ、彼等の反応を見てドリスは考え込み、やがて彼女は王国騎士の証であるペンダントを取り出して告げた。



「私の名前はドリス・フレア……爆炎の騎士の称号を与えられた王国騎士ですわ!!」

「お、王国騎士!?」

「あのペンダント……それにあの金髪に独特な髪の毛、間違いない!!爆炎の騎士様!?」

「まさか、王国騎士様が来て下さるとは……」

『…………』



ドリスが名乗りを上げると兵士達は歓喜し、遂に王国騎士がこの地に訪れた事に感動する。一方でレノとネココはドリスに視線を向け、本当の別れの時が来てしまったのかと思う――






――同時刻、退散したホブゴブリンとボアの群れはシチノから十分に離れると立ち止まり、隻眼のホブゴブリンは街の方角に視線を向ける。この隻眼のホブゴブリンだけは他の個体と違い、全身が傷だらけであった。



「グギィイイッ……!!」



先ほどのレノ達の姿を思い返し、隻腕のホブゴブリンは今回の屈辱は必ず返すとばかりに拳を握りしめる。そんな隻腕のホブゴブリンの姿を見て他のホブゴブリンは怯えた表情を浮かべた――

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