第6話 追放
「――おい、起きろ。何でこんな所で眠っているんだ」
「んっ……」
気絶していたレノは誰かに身体を揺さぶられている事に気付き、目を覚ます。すると彼の視界には首元まで隠す程に長い顎髭を生やした男性が映し出される。年齢は50~60代ほどであり、随分と身長が小さい。それでいながら筋骨隆々とした身体つきで背中には大きな斧を抱えていた。
「うわっ!?髭のお化け!?」
「誰が髭のお化けだっ!?人の顔を見て悲鳴を上げるとは失礼な坊主だな……」
見知らぬ男性が自分の顔を覗き込んでいた事に気づいたレノは驚いて起き上がると、男性は呆れた表情を浮かべる。レノは初めて見た森人族以外の種族の男性に驚き、最初は人間かと思って話しかける。
「あ、貴方は……人間、ですか?」
「何?俺が人間に見えるのか?変わったガキだな……俺は
「小髭族……!?」
小髭族を自称する男性にレノは驚き、小さいころに母親から聞いた話を思い出す。世界には人間や森人族以外にも様々な人種が存在し、その内の一つが「小髭族」と呼ばれる種族である事を聞いていた。小髭族は人間や森人族と比べると肉体は小柄だが、その筋肉は馬鹿に出来ず、小さくても凄まじい腕力を誇る。
また、手先の器用な者が多くて鍛冶師を営む小髭族も多く、彼等が作り出す武器は人間が作り出す者よりも精巧で素晴らしい代物が多い。実際に歴史上で名を遺した武器の殆どが小髭族の鍛冶師が作り上げた物であるのは事実だった。
「ど、ドワーフさん……ここは何処ですか?」
「何処も何も、ここは俺が暮らしている山だ。お前の方こそ何者だ?見た所、ただの人間じゃなさそうだな」
「あっ……」
レノは小髭族の男性が自分の耳に視線を向けている事に気付き、慌てて髪の毛で耳元を隠す。その様子を見て小髭族は何か訳ありだと気づき、仕方なく斧を下ろして座り込むレノと視線を合わせる。
「安心しろ、俺はお前に何もしない。だから落ち着いてゆっくりと話せ……お前さんは何者だ?どうしてここにいるんだ?」
「それは……」
小髭族の言葉にレノは本当の事を離すべきか悩んだが、周囲を見渡しても自分が知っている森の風景ではない事に気づき、意識を失う前の族長の言葉を思い出す。
(そうか、本当に追い出されちゃったんだな……)
子供のレノは自分が生まれ育った里から追い出され、何処か遠い地へ送り込まれた事を理解すると涙を流し、その様子を見て小髭族の男性は黙って彼の頭を撫でる。こんな山奥に一人で放置されていた時点でレノが何か複雑な事情がある事に勘付いた小髭族の男性は彼を家に招く事にした。
「よし、話は後だ。俺の家に案内してやるよ、お世辞にも美味いとは言えないが、飯ぐらいは食わせてやる」
「えっ……」
「付いてきな、おっとその前に俺の名前を教えてやる。俺はダリルというんだ、お前さんの名前は何だ?」
「……レノ」
「レノか、いい名前だな。ほら、一緒に来い」
「うん……」
自分の事をダリルと名乗る小髭族に手を引かれ、レノは彼と共に山道を歩く。この時のレノはこのダリルという男性の元でこれから数年も一緒に暮らす事になるとは思わなかった――
※ここまでがプロローグです。物語開始早々からストレスがたまりそうな展開ですが、ここから主人公の成長を描きたいと思います。
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