第209話 盗賊王
「あたしが仕入れた情報によると、この盗賊王とやらはどうやら黒狼と蝙蝠と繋がっていたらしいんだよ」
「何だと!?それは本当か?」
「ああ、嘘じゃない。ジャドクの奴も捕まったお陰で蛇達も居なくなったからね。この街に入ってきた情報は真っ先に私の耳に届くんだよ」
「……あいつが下水道で飼っていた大蛇のせいで死んだ人間も結構多かったみたい」
「そうだったんだ……」
ジャドクがカジノに繋がる下水道にて内密に飼育していた大蛇は下水道の点検に訪れた人間も食べていたらしく、それが判明して彼は警備兵から追われる立場となった。
蝙蝠に所属していた傭兵達は素直に投降した者は事情聴取を受け、ある程度の罪は免除された。但し、逃亡した者は速やかに追われる立場となり、特にジャドクの場合は人を殺し過ぎていたので高額の賞金首として指名手配された。ジャドクは早々に街から立ち去り、未だに掴まってはいない。
「……アリスラはどうなった?」
「あいつは素直に警備兵に投降したよ。まあ、2、3年ぐらいは刑務所に入るだろうけど、それでも罪は軽い方さ。キルの方は行方知れずだけど、あいつも相当に殺してるからね……捕まったら死刑か終身刑だろうね」
「そう」
元相棒の事は気になるのかアリスラは捕まっても死刑は免れた事を知ってネココは安堵するが、一方でレノが気になるのは盗賊王と黒狼と蝙蝠が繋がっているという話だった。
「さっきの話、盗賊王が黒狼と蝙蝠に繋がっているのは本当なんですか?」
「ああ……実は警備兵の奴等が証拠を回収する前に私のネズミが調べたところ、どうやらカトレアは蝙蝠を作り出しながらも黒狼に加入してたんだ。あの女は自分が傭兵団の頭である事にも関わらず、黒狼も内部から支配していたのさ。しかもあの女は盗賊王にも取り入っていた……つまり、3つの組織を掛け持ちしていたという事になるね」
「馬鹿な……そんな事が出来るのか?」
「カトレアの奴からすれば蝙蝠や黒狼なんてただの遊び道具さ。盗賊王にしても似たようなもんだろうね、あの女は3つの組織に所属している人間達から貢がせていたのさ。あんたら見つけた地下牢に関してもそうさ」
「えっ!?あの地下牢はゴノ伯爵が作り出したんじゃ……」
「それは半分正解で半分は外れだね。あの地下牢を最初に作り出すように指示を出したのはカトレアさ、あの女はちょくちょくゴノ伯爵の屋敷に訪れては金を要求してきた。その時に姿を見られた相手をあの地下牢に閉じ込めて死ぬまで精気を絞り上げるのさ。しかもひと思いに一気に精気を吸い上げもせず、長期間に渡って定期的に精気を吸い上げる事で苦しみを長引かせていたようだね」
「じゃあ、あの死体の人も……」
レノ達は地下牢に囚われていた女性の事を思い出し、あの女性もカトレアに苦しめられて殺されていたのかと思うと同情せざるを得ない。だが、ネズミ婆さんによると今現在はレノ達の身が危ないかもしれないという。
「蝙蝠の団長であるカトレアが死んだ事は既に噂が広まっている。表向きは王国騎士のセツナが討伐した事になっているけど、きっと盗賊王も動き出すだろうね。盗賊王はどうやらカトレアに惚れ込んでいてわざわざ王都から金品を送り込むぐらいだったからね」
「あの盗賊王が吸血鬼に……」
「でも、それだと私達が狙われる理由はない」
「何を言ってんだい、結果的にはあんた達が行動を起こしたから黒狼も蝙蝠も壊滅したんだよ?盗賊王の情報網がどの程度か知らないけど、あんたらも狙われる立場でもおかしくはないよ」
「なるほど……」
表向きは黒狼も蝙蝠も王国騎士のセツナが壊滅させた事になっているが、実際の所はレノ達が関与している。盗賊王がこの事実を知ればレノ達を見逃すはずがなく、命を狙う可能性もあった。
だが、ネズミ婆さんからすれば盗賊王に関しては黒狼や蝙蝠と比べれば小規模の組織であり、大きな手柄を上げたいと考えているドリスからすれば絶好の相手じゃないかと促す。
「王都でも有名な盗賊王を捕まえればあんたの名前も上がるんじゃないのかい?王国騎士ドリスが盗賊王を捕えた、となれば世間の評判も上がるだろう」
「それは……そうかもしれませんが、肝心の盗賊王の居所が分からない限りはどうしようもありませんわ」
「流石に私もそこまでは分からないね。だけど、奴等は長年この国の軍隊から逃げ続けた相手だよ。国側としても手を焼いている存在なんだから、もしも捕まえる事が出来たら大手柄だろう」
「ええ、それは間違いありませんわ。ですけど、居場所が分からなければ……」
「……心当たりがあるな」
「えっ!?」
話を聞いていたロウガが口を挟み、彼は盗賊王に関する情報を知っているという話に誰もが驚く。ネズミ婆さんでも知らない情報をどうしてロウガが知っているのかというと、彼は答えた。
「盗賊王……ヤクラは、俺の義兄弟だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます