第208話 指名手配の解除

――ゴノ伯爵の屋敷に忍び込んでから数日後、レノ達は堂々と酒場にて顔を出して食事を行っていた。面子はレノ、ネココ、ドリス、アルト、ネズミ婆さん、さらにはロウガも加わっていた。



「きぃいいっ!!あの女、許せませんわ!!」

「どうどう……落ち着いて」

「まあ、怒るのも仕方ないね。苦労して屋敷に忍び込んだというのに結局は手柄は全部セツナという女に奪われたんだろう」

「そのお陰で俺達の指名手配も解除されたけど……」



レノ達が屋敷を脱出した翌日、街中にゴノ伯爵が王国騎士のセツナに捕らえられたという報告が届く。これまでに行っていたゴノ伯爵の不正が明かされ、彼はセツナに連行という形で王都へと向かう。


苦労してレノ達が持ち帰った証拠品も全て無駄になってしまい、ゴノ伯爵の悪行はお王国騎士のセツナによって正されてしまう。これによってドリスは出る幕が無くなり、悔しそうな表情を浮かべた。



「絶対に許せませんわ!!私達がどれだけ苦労したと思っているんですの!!」

「……でも、お陰で私達の無実も証明された」

「今までにゴノ伯爵に不当に逮捕されていた奴等も解放されたんだろ?蝙蝠も解散して団長は行方知らず……ゴノ伯爵に関わっていた奴等はしばらくは出てこれないだろうね」

「自業自得だ。悪徳貴族に手を貸すからこんなことになる」



ゴノ伯爵と関わりを持っていた傭兵団も強制連行され、現在は取り調べを受けている。この街の警備兵もゴノ伯爵に加担していたという事も有り、街中は大騒ぎになっていた。



「可哀想なのはこの街の人間と、観光客だね。闘技祭も延期になっちまったし、どうなるのかね」

「闘技場を作り上げたゴノ伯爵が捕まった以上は仕方がない、か」

「……闘技祭で稼ごうと考えた人間も苦労する」

「ネカも嘆いていたよ。いったい何のためにここまで来たんだってね」



残念ながら闘技祭の開催も延期になってしまい、新しい闘技場の管理者が王都から派遣される事になっているが、とても今の状態では闘技祭の開催は出来なかった。わざわざ闘技祭の観光のために訪れた人間も既に去り始め、街中で見かける人間の数も減っている。



「それにしてもあんた等、今回はいいとこなしだったね。あんたらのお陰でゴノ伯爵の不正が明かされたのに報酬も無しかい?」

「指名手配が解除されただけでも十分だよ……宿屋に預けていた荷物も戻ってきたし」

「私は納得していませんわ!!今すぐに王都に乗り込んで抗議したい所ですが……流石にそういうわけにもいきません」

「……私達が今更出てもどうしようもない」



ドリスが王都に出向いて今回の出来事を話すわけにもいかず、不正の証拠を掴むためとはいえ、カジノで暴れたり、ゴノ伯爵の屋敷に忍び込んだ事を話さなければならない。


仮にも王国騎士ともあろう人間が暴力や不法侵入を行って証拠を集めていたなど言い出せるはずがなく、国側としてもセツナが偶然にもゴノ伯爵の不正を発見し、それを正したという方が世間も納得しやすい。それだけにドリスも今回の件は口出しできず、今頃はセツナが自分が得るはずだった手柄を自慢げに報告している事に悔しく思う。



「ううっ、結局は今回もあの女に手柄を奪われましたわ」

「……悩んでも仕方ない、次に頑張ればいい」

「頑張れと言われても、私もそろそろ王国騎士として何か功績を上げたいですわ。今回も皆さんに迷惑もかけてしまって申し訳ないですし……」

「手柄ね……そうだ、それならいい情報があるよ」

「情報?」



ネズミ婆さんは何かを思い出したように賞金首の手配書を取り出し、それを机の上に置く。それを見てレノ達は不思議そうな表情を浮かべると、ここでロウガが何かに気付いたように驚いた表情を浮かべる。



「おい、まさかこれは……」

「流石は傭兵だね、こいつらの顔を見ただけで分かったのかい?」

「何ですの、これは?」

「……殆どが二つ名もない低額の賞金首、だけどこの男だけは違う」

「えっと……盗賊王?」

「その名前、聞いた事がありますわ!!王都でも有名な盗賊ではありませんか!?」



手配書の殆どが金貨1枚にも満たない賞金首ばかりだったが、その中に一人だけやたらと賞金額が高い人間がおり、名前は記載されていないが「盗賊王」とだけ記されていた。



「最近仕入れた噂によると、この盗賊王は自分以外の賞金首を手下に従えて貴族を相手に襲う奴等さ。基本的にこいつらは貴族以外の相手は襲ったりはしない、常に標的は貴族だけさ」

「え、どうして?」

「理由までは知らないよ。だけど、頭目の盗賊王とやらが昔に貴族の奴隷だったといいう噂が流れているね。それでこの盗賊王とやらが実は最近、この地方に訪れたという噂が流れているのさ」

「その話は俺も聞いている。最近、この街の傭兵の間にも噂になっているからな」



ネズミ婆さんの言葉にロウガも頷き、どうやら彼も盗賊王の存在を知っている様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る