第207話 水の恐ろしさ
「しまった……!?」
「前が、見えない!?」
『うわぁあああっ!?』
嵐刃が氷の盾に触れた途端に部屋中に台風が発生したかの様な強風が吹き溢れ、それによって出入口近くに存在した兵士は吹き飛び、セツナとリンも顔を抑える。
その様子を確認したレノはドリスとネココの腕を掴み、二人を地下通路へ繋がる抜け道に移動させると、自分は殿を務めるために剣を構える。やがて風が収まると、セツナはレノに対して自分の前に作り出した氷を繰り出す。
「逃すかっ!!」
迫りくる華の形をした氷像に対してレノは剣を上段に構えると、今度は振り上げるのではなく、振り下ろすように放つ。その結果、刀身に纏った風と水の魔力が合わさり、水の刃と化す。
――普通の水であろうと滝のように高所から流れ落ちてきた場合は強烈な衝撃を生み出し、これを更に高圧で圧縮して生み出せば金属であろうと破壊する威力を誇る。レノの場合は刀身に水属性の魔力で生成した水を纏わせ、それを風属性の風圧で抑え込む。
風圧の力で抑え込まれた水は剣を振りかざす際に一気に放出させ、この時に風圧から解放された水は凄まじい勢いで放たれる。その威力は凄まじく、単純な威力ならば火炎旋風さえも凌駕した。
「水刃!!」
「馬鹿なっ!?」
「そんなっ……セツナ様の氷を!?」
今度は正面から離れた氷を剣で斬り裂くように放ち、見事に切断に成功する。セツナの作り出す氷は鋼鉄をも上回る硬度を誇るが、それを切断したレノは自分も地下通路へ飛び込む。
一度ならず二度までも自分の生み出した氷を破壊したレノに対してセツナは表情を歪め、その後を追いかけようとした。だが、ここでセツナにとって予想外だったのは地下通路でレノ達が待ち構えていた事であり、レノは剣を構えると風属性の魔力で構成した竜巻を刃に纏わせて放つ。
「嵐突き!!」
「なっ!?」
「セツナ様、危ない……!?」
かつてタスクオークを一撃で仕留めた一撃をレノは放ち、それを見たリンはセツナを庇おうとしたが、レノの狙いは二人ではなく、地下通路の天井だった。刃から放たれた竜巻は天井を崩壊させ、地下通路の出入口を瓦礫で塞ぐ。
「しまった!?」
「……これでは追いかけられませんね」
地下通路を封じられてしまったセツナは焦った声を上げ、リンは悔しそうな表情を浮かべる。ここでようやくゴノ伯爵が駆けつけると、自分の部屋の書斎の惨状を見て驚愕した。
「こ、これは……いったい、どういう事だ!?何が起きたのだ!?」
「は、伯爵……」
「自分達も何が何だか……」
「ええい、退け!!セツナ……殿!!これは何事だ!?」
「…………」
流石に自分の屋敷を暴れ回られてはゴノ伯爵も黙ってはおられず、荒らされた書斎の中に立っているセツナに対してゴノ伯爵は怒鳴りつけるが、この時に先ほどの嵐刃で吹き飛んだ一枚の羊皮紙がリンの頭に落ちてきた。
「むっ……こ、これは!?」
「どうした、リン?」
「……見てください」
「そ、それはっ!?いかん、見てはいかん!!」
リンは羊皮紙を掴むと、その内容を見て驚愕の表情を浮かべ、何事かとセツナが振り返るとリンは彼女に羊皮紙を差し出す。その羊皮紙の柄を見たゴノ伯爵は顔色を変え、慌てて奪い取ろうとした。
迫りくるゴノ伯爵に対してセツナは咄嗟に剣を見せつけると、彼は刃物を前にして恐怖のあまりに立ち止まってしまい、その間にセツナは内容を確認する。
「これは……手紙か?」
「はい、差出人は王国貴族のようです」
「王国貴族だと……なんだ、これは?」
「そ、それは……誤解です!!どうか話を聞いてください!!」
手紙の差出人は王都に暮らす貴族からである事が判明し、その内容はゴノ伯爵に対して賄賂を要求する内容だった。ここでリンは周囲に散乱した本や羊皮紙を調べてみると、その中にはゴノ伯爵の不正の証拠になる物が幾つも散らばっていた。
レノ達が持ち帰ろうとした証拠以外にもゴノ伯爵の悪行を証明する書類は残っており、偶然にもレノが嵐刃を生み出した時にそれらの書類が書斎に散らばってしまった。これでもうゴノ伯爵は言い逃れは出来ず、セツナは冷たい瞳で彼に刃を向けた。
「ゴノ伯爵……この手紙と書類の説明をしてもらおうか?」
「そ、それはですね……」
「下手な言い訳は止めておきなさい。貴方が前にしているのは王国騎士であろうことを理解した上で答えてください」
「……あぁああああっ!!」
もう言い逃れは出来ないと判明した途端、ゴノはその場に跪いて泣き叫び、そんな彼にセツナは侮蔑の視線を向ける。セツナは地下通路に視線を向け、逃げ出した者達の目的を読み取る。
「そういう事だったのか……あの女め」
「セツナ様?」
「リン、すぐにこの男を拘束しろ!!あの女の手柄になる前に捕まえろ!!」
「は、はあっ……分かりました」
「夢だ、これは夢だ……夢なんだぁあああっ……!!」
――こうしてゴノ伯爵は王国騎士のセツナによって捕まり、これによってゴノが経営していたカジノは閉鎖、闘技場に関しても別の人間がしばらく管理されることになった。
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