第48話 野営と夜盗
――白狼種のウルを仲間にしたレノは彼が落ち着くまで走らせると、ネカの商団と合流する。今日の所は野営を行い、明日の朝にオークの住処が存在する森の中に向かう事が決まった。
基本的に外で野営を行う際、草原などの見晴らしの良い場所では見張りを立てて魔物を警戒しながら夜を過ごさなければならない。野生の魔物は火を恐れるが、魔物の場合は火を見ると人間が存在する事に気付き、逆に引き寄せる可能性もある。
一人旅の時のレノは山から持って来た特殊な香草の粉末を毛布等に振りかけ、身体に纏う事で臭いを掻き消す。コボルトやボアなどの魔物は嗅覚が鋭いため、上手く隠れていても臭いで気づかれる恐れがある。そのために夜を過ごす時は臭い消す対策が必要不可欠だった。
それに襲い掛かってくる相手が魔物だけとは限らず、夜盗に襲われる可能性も考慮して大人数で動くときは常に誰かが見張りを立てる必要がある。仮にレノが商団の護衛として雇われていた場合は彼も見張り役を任せられる立場だが、明日はレノがオークを討伐するため、体力温存のために他の者が見張りを任せられる。
「ささ、レノ殿どうかゆっくりとおつくろぎください。温かいスープもありますよ」
「ありがとうございます。でも、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ?」
「何を言ってるのですか、明日はレノ殿にしっかりと働いてもらいますからな。遠慮せずにどんどん食べてください」
「ガツガツッ……」
レノの隣には大きな骨付き肉に嚙り付くウルが存在し、昼間のうちに遭遇したボアの死骸をウルは喰らっていた。ちなみにこのボアを倒したのはレノではなく、ウルが自力で倒した。
白狼種は並の魔獣よりも力が強く、非常に素早い。逃げ惑うボアに対してウルは背後から追いつき、首筋を食らいついて押し倒した時はレノも流石に驚いた。
(心強い味方が出来たな。それにしてもこの子、何だか他人な気がしないな。ずっと前から一緒にいたような気がする)
ギルドマスターのテンから引き取ったウルはレノによく懐き、まるで小さい頃から飼われていたようにレノに懐いていた。そんな白狼種のウルと戯れるレノの姿を見たネカはやはり彼が只者ではないと悟り、ここでレノにある提案を行う。
「レノ殿、よろしければこれからは商団の護衛として私の元に来ませんか?レノ殿の実力ならば月に金貨2枚……いや、3枚は支払いますぞ!!」
「えっと、すいません。俺の旅の目的は王都へ向かう事なので護衛はちょっと……」
「そうですか……残念です。しかし、私もいつか王都で店を持ちたいとは思っています。もしかしたらいつの日か王都でレノ殿と再会する日が訪れるかもしれませんな」
「え、そうだったんですか?」
ネカはレノに断られて残念そうな表情を浮かべるが、ネカも王都で商売を始めたいと聞いたレノは驚く。それからしばらくの間はネカと世間話をしていたレノであったが、途中でウルが何かに気付いたように食事を中断し、唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「ウル?どうかしたの?」
「か、会長!!大変です、こちらに近付いてくる集団を発見しました!!」
「何っ!?」
馬車の上から見張りを行っていた護衛が自分達の元に接近する人の姿を捉え、馬に乗り込んだ数十名の男達が近づいている事に気付く。
「こちらに向けて真っ直ぐに近づいています!!奴等、武器を抜いています!!明らかに俺達を襲うつもりだ!!」
「くっ……こんな時に夜盗に見つかったか!!すぐに警戒態勢に入れ!!」
「夜盗……ウル、背中に乗るよ」
「ウォンッ!!」
レノはすぐにウルの背中に乗り込むと、彼の背中の上から見張りが発見したという盗賊と思われる集団を確認する。確かに馬に乗り込んで武器を構える男達の姿を確認し、こちらに間もなく到着すると思われた。
慌てて商団の人間達は盗賊が辿り着く前に馬車の中に避難し、護衛の人間達は武器を構えるが、こちらの護衛の数は10人程度しかいない。敵の数はレノが確認した限りでは30名近くは存在し、このまま突っ込まれたらレノはともかく、他の者達が危ない。
(敵の数は30人ぐらいか……夜だから少し見えにくいけど、狙えなくもないか)
弓を手にしたレノは矢筒を抱え、集団の先頭を走る男に視線を向けた。この男が盗賊の頭だと思われ、その手には棍棒が握りしめられていた。
「はっはあっ!!久しぶりの獲物だ、全員ぶっ殺して荷物を奪っちまえっ!!」
「頭ぁっ!!どうやら奴等、商団のようですぜ!!」
「へへっ、こいつは運がいいな!!金目の物は一つ残らず持って帰ろよ!!」
先頭を走る男に他の者達は話しかけ、標的が商団だと知って興奮した声を上げる。そんな彼等を見てレノは弓を構えると、こちらに辿り着く前に敵の数を減らすために矢を放つ。
(この距離なら……いける!!)
レノは付与魔術を発動させ、いつも通りに矢を放とうとした。しかし、ここで予期せぬ事態が発生した。それはレノが弓に風の魔石を取り付けたままである事を忘れ、いつも通りに矢を放ってしまう。
風の魔石の魔力を取り込んだ矢は接近してきた盗賊の頭の右腕に衝突した瞬間、腕を引き千切り、強烈な突風を発生して後方に続いていた盗賊達も巻き込んで吹き飛ぶ。腕を吹き飛ばされた盗賊の頭は悲鳴を上げて地面に倒れ込み、他の者達も馬から落ちてしまう。
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