第49話 賞金首

「うぎゃああああっ!?」

『うわぁあああっ!?』

「あっ……」

「ウォンッ!?」



レノは盗賊の頭の腕を貫くつもりで射抜いただけだったが、魔石の力で強化された「魔弓術」は盗賊の頭の右腕を吹き飛ばし、更に後列の盗賊達も馬と共に倒れ込む。


この世界には存在しないが、まるでボーリングのピンのように地面に倒れた盗賊達の姿を見てレノは冷や汗を流し、予想以上の成果に唖然とする。一方でその光景を見ていたネカは驚いた表情を浮かべながらも若干興奮気味に答える。



「す、素晴らしい……流石は巨人殺しの剣聖の孫!!まさかこんな魔法まで使えるなんて!!」

「いや、今のは魔法じゃないんですけど……」



ネカの目にはレノが矢を放った瞬間に盗賊達が吹き飛んだようにしか見えず、彼はレノが魔法を発動させて彼等を吹き飛ばした様にしか見えなかった。一方で攻撃を受けた盗賊達はどうにか立ち上がると、悲鳴を上げて逃げ出そうとした。



「や、やばい……あいつらの中に魔導士がいるぞ!!」

「こんなの、勝てるわけないだろうが!!」

「早く逃げろっ!!」

「ま、待て……俺を置いてくなっ……!!」



右腕を失った盗賊の頭は必死に部下たちに助けを求めるが、彼等は一目散に草原を駆け出し、逃げ出してしまう。残された盗賊の頭は右腕を抑えながら必死に後を追いかけようとするが、ここでウルが駆け出して盗賊の頭の元に向かう。



「ウォオンッ!!」

「ぎゃああっ!?く、喰われるぅっ!?」

「あ、待って!!殺しちゃ駄目だっ!!」

「ウォンッ?」



盗賊の頭を抑え付けたウルにレノは慌てて命令を与えると、前脚で盗賊の頭を抑えつけた状態でウルは不思議そうに振り返る。どうやら彼は最初から食べるつもりなどなかったらしく、その光景を見てレノは安堵する。



「良かった……ウル、そのまま抑えつけておいて」

「ひいっ……た、助けてくれ!!殺さないでくれ!!」

「殺しませんよ。でも、貴方は俺達の事を殺そうとしてましたよね?」

「うっ……!?」



ウルに抑えつけられた盗賊の頭にレノは若干呆れたような声を上げ、自分達は人の事を殺そうとしていたくせに、自分が殺されそうになると怯える盗賊に対してレノは冷たい視線を向ける。


たった一人だけ取り残された盗賊の頭はすぐに拘束され、とりあえずは右腕の治療を行う。治療といっても応急処置程度しか出来ず、右腕の方はレノが撃ち込んだ魔弓術の矢によって完全に砕け散っていた。



(まさか魔弓術がこれほどの威力を誇るなんて……今度かはら人を撃つときは魔石は外しておこう)



レノは右腕を失った盗賊の頭に視線を向け、今後は人に向けて無暗に風の魔石で強化した魔弓術を放たない事を心の中で誓う。一方でネカの方は捕まえた盗賊の頭の顔を確認し、彼は羊皮紙の束を取り出して顔の確認を行うと、男が「賞金首」である事を知って喜ぶ。



「レノ殿、どうやらこの男は賞金首のようですな。生け捕りならば金貨3枚、死体でも金貨1枚の値段が付けられています。まあまあの小悪党のようですな!!」

「賞金首?」

「おっと、レノ殿は賞金首の制度をご存じありませんか?大物の犯罪者には国からその首に賞金が掛けられる事があります。ちなみに賞金首は生かして捕えた方が賞金額が多く貰えます」

「へえっ……」



ネカから手渡された羊皮紙を受け取り、確かに彼の言う通りにレノが捕まえた男の顔が映し出されていた。他の賞金首を確認すると、高額の賞金首には渾名も記載されていた。レノが捕まえた男も二つ名が存在し、商団ばかりを狙う盗賊団の頭という事で「商人狩りのカマセ」というなんとも言えない渾名が付いている事が発覚した。



「貴方、カマセという名前なんですか?」

「ぐっ……!?」

「どうやら図星のようですな。レノ殿、この男を警備兵に突き出しましょう。そうすれば賞金を貰えますぞ」

「ま、待て!!取引をしないか!?俺を見逃してくれたら賞金以上の金を渡す!!なんだったら俺の隠れ家も教えてやるから、そこに連れて行ってくれ!!そうすれば俺達の集めた宝を全部やってもいい!!」

「そういう事は警備兵の人に話してください。悪い事をしたんだから、罪は償ってください」

「そ、そんなっ!?俺は賞金首なんだ、捕まったら殺されるんだぞ!!」

「安心しろ、お前のような小悪党は殺されはせん。まあ、数十年は鉱山で働き続ける事になるだろうがな……」

「い、嫌だぁあああっ!!」



捕まったカマセという盗賊の事はネカ達に任せ、思いもよらぬ場所でレノは盗賊団を蹴散らし、賞金首の男を捕縛した。このままカマセを生かした状態で警備兵に突き出せば金貨3枚もの大金を得られる。往生際が悪く命乞いするカマセは他の者に任せ、明日に備えてレノは身体を休める事にした――






――翌日、レノたちは早朝から出発して遂にオークの住処が存在するという森の前に辿り着く。ここから先は油断せずに常に警戒して進む必要があり、まずは作戦の段取りを確認する。



「オークの住処はこの森の中に存在する岩山の洞穴に奴等は暮らしているようです。その数は10匹、このうちの10匹をレノ殿に仕留めてもらい、回収は我々に任せて欲しいのです」

「なるほど……という事は1匹も逃がさずに仕留めないといけないんですね」

「それと出来る限り、無暗にオークを傷つけずに仕留めて欲しいのです。無理を言っている事は承知ですが……」

「分かりました。任せてください……ウル、手伝ってくれる?」

「ウォンッ!!」



ネカの言葉にレノは頷き、彼の依頼を達成するには森の中に生息する全てのオークを1匹も残さずに倒し、尚且つ敵を無暗に痛めつけずに急所を一撃で確実に仕留める必要があると判断した。


住処は既に発見しているとはいえ、森の中のオークの捜索の際には白狼種であるウルも同行させる。ウルは普通の狼以上に嗅覚も優れて気配を感知する能力も優れているため、森の中の探索で役立つと考えられた。

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