第50話 森の中の探索

「それじゃあ、オークの住処まで向かいましょう。森の中を進むときは慎重に動いて下さい、もしもオークを発見しても騒がずに俺に知らせてください」

「分かりました。では私はここに残ります、お前達!!しっかりとレノ殿の指示に従うのだぞ!!」

「はい!!」

「分かりました!!」

「どうかよろしくお願いします、レノさん!!」



ネカの言葉にレノに同行する者達は頷き、行動を開始した。レノはウルを先頭に歩かせ、彼の嗅覚を頼りに森の中の探索を行う。森にはオーク以外の魔物が生息する可能性もあるため、慎重に進む必要があった。



「ウル、何か臭いを感じ取ったらすぐに知らせるんだぞ」

「ウォンッ!!」

「あ、出来る限り声は小さくね」

「クゥ~ンッ(小声)」



レノに注意されたウルは素直に頷き、自分の言葉を完全に理解しているウルの知能の高さにレノは改めて驚かされる。それからウルの先導の元、レノたちは森の奥へと移動を開始した。


山暮らしであるためにレノは森の中を移動する事は慣れているが、同行する人間達の事も考えて速度を落とし、出来る限り彼等に負担を与えないように気を配りながら先へ進む。それからしばらく時間が経過すると、ウルが何かを嗅ぎつけたのか鼻を鳴らす。



「スンスンッ……ウォンッ」

「ウル、どうした?」



ウルはレノに質問に対して無言で顔を動かし、彼の視線の先に注目すると、レノはを発見して弓を引き抜く。そして他の者達に注意した。



「見つけました。オークが3頭、発見しました」

「えっ……ど、何処に?」

「何もいるようには見えませんが……」

「この先にいます、皆さんはここで待っていてください。すぐに仕留めてきますので……」



レノの言葉に同行していた者達は戸惑い、彼等は周囲を見渡すがオークらしき姿は見えなかった。しかし、山育ちで視力も良いレノの視線の先には3頭のオークの姿を捉え、急いで場所の移動を行う。


臭いで気づかれないように風向きを把握し、足音を気を付けてレノは場所を移動すると、彼の視界に3頭のオークを捉える。




――オークの外見は猪と人間が合わさったような姿をしており、人間のような手足でありながらも全身は本物の猪のような体毛に覆われ、顔面は完全に猪だった。ボアや赤毛熊と比べれば流石に小柄ではあるが体重は150~200キロは存在し、その肉は美味で食材としては人気が高い。




人間のように衣服の類は身に付けず、それでいながら自分達で作ったのか大きな石と枝を蔓で組み合わせた「石斧」を手にしていた。レノが発見した3頭は石斧を片手にどうやら食料を調達していたらしく、その手には一角兎の死骸やキノコを抱えていた。



(よし、気づかれていない……この距離ならいけるか)



レノは木陰に隠れながらも3本の矢を掴み、同時に弓に番える。普通ならば3本の矢を同時に射抜くなど無茶に思えるかもしれないが、レノの矢は「必中」であるために狙いを外す事はない。



「フゴッ、フゴッ……」

「プギィッ……」

「プギッ……」



オーク達はレノの存在に気付いてる様子はなく、周囲を見渡しながら食材を探す。その様子を伺いながらもレノは弓に視線を向け、昨日の失敗を反省して風属性の魔石は取り外している事を再確認する。必要な時は金具に魔石を取り付ければ問題はなく、レノは弦を引くと3本の矢を同時に放つ前に声をかける。



「こっちだ!!」

『プギィッ――!?』



唐突に背後から聞こえてきた人間の声にオーク達は振り返ると、その瞬間にレノは矢を放つ。付与魔術によって高速回転しながら貫通力が強化した矢が放たれると、食料を抱えていた3体のオークの頭部に的中する。


3本の矢は見事に3体のオークの頭を貫き、近くに生えている樹木へと突き刺さる。オーク達は額から血を流し、手にしていた食料を落としながらやがて地面へと倒れ込む。その様子を見てレノは額の汗を拭い、まずは3体のオークを無事に仕留めた事に安堵した。



「ふうっ……まずは3匹」



弓を背中に戻したレノは皆の元へ戻り、とりあえずは3体のオークを討伐を完了した事を知らせる。その後は一度引き返して3体のオークの死骸を外へ運び出す――






――森の中を徘徊していた3体のオークの討伐に成功した後、レノたちは再び森の奥へと突き進み、今度は川が流れている場所に出た。そこには2匹のオークが槍のように先端を尖らせた木の枝を握りしめ、川の中に突き刺して魚を取ろうとする姿を発見する。



「プギィッ!!」

「プギャアッ!!」



2頭のオークは水中に何度も槍を突き刺し、川の中を泳ぐ魚を必死に取ろうとしていた。その様子を見てレノはオーク2頭の位置を確認して他の者に声をかけた。



「この距離なら矢でも仕留められますけど、死体が水の中に沈む可能性もあります。岸部に上がった所を仕留める方法もありますけど、どうします?」

「そんな方法があるのですか?」

「はい、ここで隠れていてください。すぐに仕留めてきますから」



川の中で魚を取るオークを仕留めると死骸が水中に沈んでしまうため、回収が難しくなる。それを考慮したレノは剣を抜くと川の方へと近づく。


魚を取る事に夢中だったオーク達だが、やがて疲れたのかあるいは馬鹿馬鹿しくなったのか怒ったように岸部へと移動する。すると、自分達に近付いてくるレノの存在に気付き、2頭のオークは槍を構える。



「プギィイイッ!!」

「プギャアッ!!」

「……ふうっ」



大声で威嚇をしてくる2頭のオークに対してレノは剣を横に構えると、正面から近づいてくるオーク達の様子を伺う。ネカからの依頼を思い出し、痛めつけないようにオークを仕留めるためにレノは狙いを首筋に定め、まずは先頭を移動するオークに向けて駆け出す。



「嵐斧!!」

「フガァッ……!?」

「プギィッ!?」



瞬脚を発動させ、一気に加速したレノはオークに向けて跳躍すると、首筋に目掛けて剣を振り払う。分厚い毛皮に覆われたオークの太い首を大木を斧で切り裂く時の要領でレノは一撃で切り離す。


胴体と首が離れた仲間を見て残りのオークは状況を理解できず、硬直してしまう。その隙を逃さずにレノは剣を振り抜いたときの反動を利用し、遠心力を加えて二頭目のオークの首を切り裂く。この技はレノが旅をしている時に編み出した技である。

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