第51話 派生技

「円斧!!」

「プギャアッ――!?」



1頭目のオークの首を切り裂き、更に身体を回転させて遠心力を加えた事で攻撃速度と威力が増した一撃が2頭目のオークの首筋に叩き込まれ、胴体から首が切り落とされる。


2頭のオークを一気に仕留める事に成功した事にレノは安堵すると、隠れていた者達が驚いた様子で駆けつけてきた。彼等は倒れている2頭のオークに視線を向け、信じられない表情を浮かべた。



「す、凄い……頑丈な毛皮を分厚い脂肪で守られているオークをこうもあっさり倒すなんて」

「流石は巨人殺しの剣聖の孫、いや弟子か……!!」

「こ、これも剣聖から習った技なんですか?」

「いや、それは……って、呑気に話している場合じゃないですよ!!血の臭いを辿って他の魔物がやってくる可能性があります!!すぐに運び出しましょう!!」

「ウォンッ!!」



レノの戦いぶりを見ていた者達は先ほどの彼の剣技に感動するが、レノはすぐにオークの死骸を運び出すように指示を出す。先に倒した3頭の時と違い、今回は派手に血が噴き出してしまったため、臭いに敏感な魔物に気付かれる恐れもあった。



「ほら、早く運びましょう!!ほら、誰か頭を持ってください!!」

「ガブッ!!」

「あ、こら!!ウル、頭を食べちゃ駄目!!それも依頼対象なんだから、めっ!!」

「クゥ~ンッ……」



オークの頭に嚙り付いたウルは怒られてしょんぼりとするが、首元を切断したせいで予想以上に血が噴き出してしまい、レノたちは慌てて他の魔物に気付かれる前にオークの死骸を運び出した――






――合計で5体のオークの討伐に成功し、残り半分の5体のオークを探すためにレノたちは再び森の中に入り込む。そして移動を開始してから時間が経過し、時刻は昼を迎えると、遂にレノたちは目的地であるオークの住処へと辿り着く。


森の中に存在する岩山の洞穴にオークが住み着いているという話だったが、洞窟の入口には多数の動物の死骸が転がっていた。その様子を見てレノたちはこの場所にオークが住み着いている事を確信する。



「どうやらここが目的地のようですね……オークは見当たりませんけど、中の方に隠れているのかもしれません」

「グルルルッ……!!」



洞穴の方を見てウルは唸り声をあげ、その反応を見て洞窟の中にオークが存在する事は間違いなく、迂闊に近づくのは危険だった。しかし、ここまでの移動に予定よりも時間が経過してしまい、太陽の位置を確認したレノは他の者に相談する。



「……どうしますか?このままオークを待ち構えるか、それとも外へ誘き寄せて仕留めますか?」

「お、誘き寄せる?それはいくらなんでも危険すぎるのでは……」

「でも、これ以上に時間をかけるとオークを運び出して森の外を出る時は夜を迎えます。夜を迎えると夜行性の魔物が出てきて昼間よりも襲われる可能性が高くなります」

「ひぃっ!?お、脅かさないでくださいよ……」



レノの言葉に同行してきた者達の顔色が変わり、もう時間の猶予はあまり残されていなかった。オークを5頭も運ぶ時間を考慮するとこれ以上に時間をかけるわけにもいかず、ここでレノは賭けに出る事にした。



「皆さんはここに隠れていてください。絶対に出てきたら駄目ですよ、俺達がオークの相手をします」

「だ、大丈夫なんですか?」

「危険すぎるのでは……」

「それでもやるしかありません。もしも俺が死んでしまったら、すぐに皆さんだけでも逃げてください」

「こ、怖い事を言わないでくださいよ……」

「頑張って下さい!!」

「ウォンッ!!」



覚悟を決めたレノが洞穴の方に近付くと、その後にウルも続き、出来る限り接近する。洞穴の傍まで移動すると、レノは中の方を覗き込んで随分と奥まで続いている事に気付く。


この時にレノは髪の毛を掻き分けて耳を澄ませた。エルフの血を継いでいるレノの聴覚は普通の人間よりも優れているため、洞穴の中にいるはずのオークの様子を伺う。



(これは……寝息?中で眠っているのか?)



洞窟の奥の方から複数のオークの寝息を聞き取ったレノはウルに振り向き、ウルは自分を見つめてくるレノに首を傾げる



「よし、作戦は決まった。ウル、この洞穴の奥に眠っている奴等を起こせ」

「クゥンッ?」

「いいか、思いっきり大きな声を上げるんだ。その後はすぐに離れるんだぞ」

「……ワフッ」



レノの言葉にウルは頷き、洞穴の入口に移動すると、ウルは大きく息を吸い上げて洞穴の奥まで響く方向を放つ。




――ウォオオオオンッ!!




森の中にウルの雄たけびが響き渡り、ウルの傍に居たレノは耳元を抑える。雄叫びが泣き止むと、洞穴の方から目を覚ましたオーク達の鳴き声と足音が鳴り響く。


狼の声の目覚ましを受けたオークの集団が洞穴から姿を現す前にレノはウルに乗り込み、出来る限り距離を取る。入口から離れてしばらく待つと、洞穴の方からオークの団体が出現し、その数は丁度5匹は存在した。



「プギィイイッ!!」

「フガァッ……」

「フゴッ、フゴッ……!?」



怒りを露にする、眠たそうに欠伸を行う、周囲を警戒するように鼻を鳴らす、各個体が様々な行動を取る様子をレノは観察すると、矢筒に入っている矢の数を確認する。



(一度に仕留められるのは3匹、なら残り2匹は……よしっ!!)



3本の矢を番えたレノは駆け出すと、その後にウルも続く。オーク達は自分達に接近するレノとウルの存在に気付き、慌てて構えた。



『プギィイイッ!!』

「ウル、手前の1匹は任せたぞ!!」

「ウォンッ!!」



レノは駆け抜けながらも3本の矢を上空へと放ち、即座に弓を手放して剣を抜く。一方で命令を受けたウルは一番近くに存在したオークへ向けて突っ込む。


ウルは鋭い牙を剥き出しにすると、オークの首筋に噛みつき、押し倒す。その牙の鋭さは刃物にも劣らず、首筋を噛みつかれたオークは地面に押し倒された際に派手に血飛沫が舞い上がる。



「ガブゥッ!!」

「プギィッ……!?」



抑えつけられたオークは必死に暴れて引き剥がそうとするが、首筋から大量の血を噴き出してやがて事切れる。その姿を確認したレノは他のオークが襲い掛かる前に動き、剣を振り抜く。



「嵐刃!!」

「プギャアアッ!?」



刃に纏った風の魔力を放ち、三日月状に変化させた風の刃がオークの首を切り裂く。前回のボアの時は力を碌に溜めずに失敗してしまったが、ある程度まで接近すればオークの首を切り裂くには十分な威力だった。


更に先ほど撃ち込んだ3本の矢が残りのオークの頭部に目掛けて衝突し、悲鳴を上げる暇もなくオーク達は地面に倒れ込む。時間にすれば数秒の間に5体のオークを仕留める事に成功した。レノはウルに振り返ると、口元からオークの血を垂れ流しながらも誇らしげな表情を浮かべて尻尾を振るウルの姿を見て素直に褒める。

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