第52話 森の主
「助かったよ、ウル」
「ウォンッ!!」
「あ、でも血が付いた状態で擦り寄ってこないでね」
「ワフッ……(←悲しい)」
ウルがオークの1体を仕留めてくれたお陰で戦闘も無事に終了し、とりあえずは目標数のオークの討伐には成功した。倒れた5体のオークに視線を向け、あとはこの5体を森の外にまで運び出せばレノの依頼は終了する。
これでネカから退魔のローブを正式に受け取り、追加の報酬も受け取れるはずだった。後は夜を迎える前にオークを森の外に運び出すだけだが、ここでレノは悲鳴を耳にする。
「う、うわぁあああっ!?」
「た、助けてくれぇっ!?」
「ひいいっ!?」
「なっ!?どうしたんですか!?」
「グルルルッ!!」
離れた場所で隠れていたはずのネカの護衛達が駆けつけ、彼等はレノに助けを求める。いったい何が起きたのかとレノは話を聞こうとした時、森に生えている木々が次々と倒れ、奥の方から体長が3メートル近くは存在する大型のオークが出現した。
「プギィイイイイッ!!」
「な、こいつは……オーク!?」
「ち、違う……オークの上位種、タスクオークだ!!」
レノの言葉に逃げてきた男の一人が否定し、上位種という単語を耳にしたレノは先日に遭遇した「ホブゴブリン」の事を思い出す。どうやら姿を現したのはオークの上位種らしく、まるで赤毛熊級の怪力でオオキバオークは樹木をなぎ倒しながら逃げていく者達を追いかける。
タスクオークが登場した途端、ウルは即座に戦闘態勢に入ると、逃げ惑う人間達を飛び越えてタスクオークへと飛び掛かった。
「ガアアッ!!」」
「ウル!?駄目だ、そいつは……」
「プギィッ!!」
飛び込んできたウルに対してタスクオークは異様に長い牙を生やしており、その牙を利用して突っ込んできたウルの身体を突き刺す。
「フガァッ!!」
「ギャインッ!?」
「ウル!!」
ウルの肉体に角が突き刺さると、森の中に悲鳴が響き渡る。タスクオークは牙に突き刺さったウルを振り回し、前方へと吹き飛ばす。
力の方も赤毛熊級を誇るらしく、ウルは岩山の岩壁にまで吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。その様子を見てレノはタスクオークに視線を向けて駆け出した。
「よくもウルを!!」
「プギィッ!!」
怒りを抱いたレノは剣を構え、巨人族のダイゴを倒した時のように「地裂」を繰り出そうとした。しかし、自分に接近してきたレノに対してタスクオークは右足を振りかざすと、レノに目掛けて蹴りつける。
(まずい!?)
この攻撃を受けたら死ぬと判断し、反射的に瞬脚を発動させてレノは右方向に跳ぶと、タスクオークの足が先ほどまでレノが立っていた場所を横切り、地面に散らばっていた魔物の骨が舞い上がる。
攻撃を避けた際にレノは体勢を立て直し、怒りを抑えて落ち着いてタスクオークの様子を伺う。ここで我を忘れて無暗に突っ込んだ所で返り討ちにされるだけであり、彼はどのようにタスクオークを倒すべきか考えた。
(冷静になれ、焦ってもどうにもならない!!こいつを倒すにはどうしたらいい!?)
怒りを抑えながらもレノは必死にタスクオークを倒す術を考え、ここで彼は魔法腕輪の事を思い出す。腰に取り付けていた魔法腕輪を右腕に装着すると、風の魔石の力を利用して次の自分の攻撃を強化させる事に集中する。
(魔石を使えば普段以上に魔力を武器に込める事が出来る!!次の攻撃で確実に決めるんだ……そうしなければこの化物には勝てない!!)
敵の強さは赤毛熊並である事は間違いなく、しかも赤毛熊には存在しない二つの大きな牙を所有していた。タスクオークは倒れているオーク達に視線を向け、怒りに満ちた表情で方向を放つ。
「プギャアアアッ!!」
「くぅっ……!?」
「も、もう駄目だ……!!」
「こんな所で死にたくねえよっ!!」
タスクオークの咆哮によってレノ以外の者達は戦意を失い、その場で項垂れる。あまりに恐ろしいタスクオークの迫力に怯えるのも無理はないが、それでもレノだけは諦めるつもりはなかった。
(奴の注意を引かないと……そうだ!!)
先ほどタスクオークが地面に散らばっていた大量の動物の骨を吹き飛ばした光景を思い出し、レノは足元に視線を向け、自分の足元にも動物の骨が転がっている事に気付く。
最初にレノは距離が空いているにも関わらず、その場で刀を地面に突き刺し、風の魔力を刃に送り込む。その結果、レノが刃を下から振り払う事で地面に落ちていた魔物の骨と土砂を巻き上げてタスクオークに放つ。
「地裂!!」
「フガァッ!?」
大量の動物の骨と土砂が前方からタスクオークの身体に襲い掛かり、骨は身体に突き刺さって巻き上げた土砂が目に入ってタスクオークは視界を封じられる。その隙を逃さずにレノは駆け出すと、確実にタスクオークを仕留めるために剣を構える。
(こいつは地裂でも一発では倒せない!!なら、あの技を使うしかない!!)
ロイならば地裂を使用して最初にタスクオークの足を切り裂き、体勢を崩したところで止めの一撃を繰り出すだろう。しかし、レノの場合は地裂を繰り出すと次の攻撃に移るのに時間が掛かってしまう。その隙をつかれてタスクオークに反撃されたら勝ち目はない。
レノは山で暮らしていた時に特訓していた最後の技を思い出し、今までに成功した事はないが、風の魔石の力を使えば上手くできるのではないかと考え、刃に魔力を集中させる。その光景を見ていた他の者達はレノの剣の刃に「竜巻」が纏ったように見えた。
「うおおおおっ!!」
「フガァッ……!?」
視界を奪われて動きが鈍ったタスクオークの元に目掛けてレノは瞬脚を発動させて突っ込むと、両手で剣を構えた状態でタスクオークの胸元に目掛けて突き刺す。
「嵐突き!!」
「プギィイイイイイイッ!?」
刃に纏った竜巻がタスクオークの胸元を抉り込み、大量の血飛沫を舞い上げながらも剣は毛皮と分厚い脂肪を引き裂き、心臓にまで刃は到達した。タスクオークは血反吐を吐き散らしながら地面に倒れ込み、その上に乗り込む形となったレノは剣を引き抜く。
全身が血塗れになりながらもレノはタスクオークを倒した事を確認すると、刃に視線を向ける。刃に纏っていた竜巻は消え去り、無事に技が成功した事を知ったレノはタスクオークの身体の上から下りると、膝をついた。
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