第53話 魔法金属とは?
――オークの討伐を終え、更にタスクオークという大物を狩る事に成功したレノだったが、残念ながら森の外に引き返す事を考慮してタスクオークの素材に関しては全部持ち帰る事は出来なかった。あまりに素材の解体に時間を掛けすぎると、夜を迎えてしまうため、必要分の素材だけを回収してレノたちは外へ引き返す。
どうにか夜を迎える前に森を出たレノたちは野営を行い、今回採取した素材の確認を行う。必要なオークの肉は手に入り、更には上位種のタスクオークの素材を持ち帰ってきたときはネカも非常に驚いた。
「いやはや、レノ殿には驚かされてばかりですな。まさか、あのタスクオークをも仕留めるとは……」
「でも、貰った風の魔石は壊してしまいました。すいません……」
「いえいえ、お気になさらずに!!その魔石はレノ殿に差し上げた物なのですから……」
その日の晩、レノは森の中で何が起きたのかをネカに報告を行い、折角受け取った風の魔石を壊してしまった事も告げる。タスクオークに対して最後の攻撃を行った際、魔力を使いすぎたのが原因なのか魔法腕輪に装着していた風の魔石は何時の間にか壊れていた。
通常、魔導士が魔石を使用する場合でも普通ならば数回程度で魔石の魔力を使い切る事など有り得ない。しかし、タスクオークの戦闘の際にレノが繰り出した「嵐突き」は尋常ではない魔力を消耗するらしく、その際に風の魔石が壊れてしまう。それをレノはネカに報告すると、彼は魔石の破片を受け取って調べる。
「ふむ……確かに砕け散って内部の魔力は失われていますな。しかし、魔石が壊れた原因は魔力を使い切ったのが原因ではないかもしれませんな」
「えっ……そうなんですか?」
「極稀に魔導士が強力な魔法を放とうとした時、魔石が砕けてしまうという現象が起きると聞いた事があります。なんでも魔力を急激に吸い上げた事で魔石に大きな負荷が掛かり、その影響で魔石が砕けて蓄積されていた魔力が外部に漏れるという事態があるそうです。まあ、滅多にない現象だそうですが……」
「じゃあ、俺が無理に魔石の力を引き出したせいでこうなったんですかね?」
「その可能性が高いでしょう。通常ならば魔法腕輪の類を装着していれば魔石の負荷を減少させ、魔力を引き出す事ができるはずなのですが……」
「……私のせいだといいたいのか?」
ネカとの会話の際中、レノは後ろから聞き覚えがある声を耳にして振り返ると、そこにはレノに魔法腕輪を渡したムメイが立っていた。彼女も今回の旅に同行していた事をレノは初めて知って驚愕した。
「ムメイさん!?ムメイさんも一緒に来てたんですか?」
「いえ、彼女は後からやってきました。なんでもオークの素材が必要という事で昼間に追いついてきたのですが……」
「そんな事はどうでもいい、それよりも私が作った魔法腕輪を身に付けておきながら魔石が砕けただと?」
「えっと、その、すいません……」
「……見せてみろ」
どうやらムメイは後から追いついてきたらしく、二人の話を盗み聞きしていた彼女はレノから魔法腕輪と砕けた風の魔石を受け取り、その様子を観察する。やがて彼女はため息を吐きながら答えた。
「なるほど、そういう事か……確かにこの魔法腕輪ではお前の力には耐えれきなかったようだ」
「えっ……どういう意味ですか?」
「分かりやすく言えば私がお前の魔力を引き出す力を見誤っていたという事だ。お前は並の魔導士とは比べ物にならないほどに魔力を扱いこなせるな?それが原因で魔法腕輪の補助を以てしても魔石が砕けた……つまり、お前に適した新しい魔法腕輪を用意しないといけない」
「新しい、魔法腕輪ですか?」
ムメイによると彼女がレノに渡した魔法腕輪では彼の力を完全に制御する事は出来ず、このまま使い続けてたとしても風の魔石は再び壊れてしまうという。
風の魔石に負荷を与えず、蓄積されている魔力を引き出すにはレノに適した魔法腕輪を新しく製作する必要があるという。だが、並の金属ではレノの力を引き出す事は出来ず、彼女は魔法金属と呼ばれる素材が必要である事を伝える。
「お前の魔力を引き出す力は正直に言って異常だ。並の金属では耐え切れないだろう、実際にこの腕輪を見ろ。全体が罅割れているだろう?」
「あ、本当だ……風の魔石が壊れた時に影響で出来たかと思ってました」
「違うな、そもそも魔法腕輪とは魔石から引き出した魔力を装備した者に送り込む機能を持つ。しかし、お前の場合は魔石から引き出す魔力の出力が尋常ではない。そのせいで魔石だけではなく、魔法腕輪にも負担が掛かるんだ」
「え、そんなに俺のその、魔力を引き出す力はおかしいんですか?」
「おかしい、どころじゃない。普通、魔石を壊す魔導士はいても、魔法腕輪その物を壊しかねない力を持つ者なんて聞いた事がない」
ムメイによるとレノが魔石から魔力を引き出す能力は異常と言っても過言ではなく、普通の魔導士が魔法腕輪を壊すなど有り得ないという。
レノは自分が魔法を使えないが、毎日のように「付与魔術」を使い続けたせいでいつの間にか魔力を引き出す力が強化されていた事を知る。自分の体内から魔力を生み出すだけではなく、魔石などから魔力を引き出す力もいつの間にか強まっていた事を知る。
「とにかく、今後お前が魔石を使いたいというのであればお前に適した魔法腕輪を作る必要がある。必要な素材は……そうだな、魔法金属のミスリルなら耐え切れるだろう」
「み、ミスリル!?ムメイ殿、本気で言っているのか!?魔法腕輪にミスリルを使うなど聞いた事もないぞ!!」
「ミスリル?」
ミスリルの単語を出した瞬間、話を聞いていたネカは驚愕の表情を浮かべ、レノはどうして彼がそこまで驚くのか不思議に思う。その彼の表情を見てネカは魔法金属の説明を行う。
「レノ殿はどうやら魔法金属の事を知らない様子ですが、はっきりと申しまして魔法金属は通常の金属よりも非常に価値が高く、何よりも魔法に対する強い耐性を誇ります」
「つまり、魔法耐性を持った金属の事ですか?」
「ええ、そう解釈してくれて構いません。魔法金属は非常に貴重な代物で滅多に手に入る代物ではありません。場合によっては金や宝石よりも価値のある代物なのです」
「そ、そんなに凄いんですか?」
ネカの説明にレノは驚き、商人である彼のいう言葉は信憑性があり、その魔法金属のミスリルを手に入れない限りはレノは風の魔石を使いこなす事が出来ないという。
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