第290話 避難民の誘導

――レノ達は避難民の誘導のため、タスク侯爵から兵士を借りて行動を行う。まずは避難をまだ終えていない村に出向き、村人の護衛を行いながらシチノへと誘導させる。冒険者や傭兵も動き出しているが、それでも人手が足りない状態だった。



「見えてきましたわ!!あの村はまだ避難が済んでいないはずですわ!!」

「あそこか……よし、行こう」

「ウォンッ!!」

「ぷるるんっ!!」



レノはウルに乗り込み、その隣でスラミンに乗り込んだネココが並走し、先頭を走っているのは白馬に跨ったドリスだった。レノ達の後方には十数名の兵士が馬に乗って続き、彼等と共に避難誘導を行う。


兵士達は伯爵の私兵であり、彼等はドリスに従うように命じられている。しかし、危険な外に出向いている事に不安がる兵士も多く、こそこそと後ろで声が聞こえてきた。



「なあ、本当に大丈夫なのか?」

「いくら王国騎士といっても……あんな女の子が戦えるのか?」

「一緒に付いてきた奴もまだ子供のようだし……」

「でも、あの白狼種は頼りになりそうだぞ?きっと、彼等は魔物使いなんだ」



同行した兵士達はレノ達の外見がとても強そうには見えず、白狼種のウルに関しては見た目が強そうなので頼りになりそうだが、レノもネココも外見は少年と少女にしか見えないので不安を抱くのも無理はない。ドリスも王国騎士とはいえ、他の騎士達と比べれば知名度は低い。


兵士達の不安を察しながらもレノ達は何も言えず、彼等からすれば外部から訪れた人間に唐突に従うように言われたので不安を抱くのも無理はない。だが、大勢の民衆の避難には人手が必要であるため、どうしても彼等の力も必要だった。



「失礼しますわ!!私の名前はドリス、貴方達を迎えに来ましたわ!!」

「お、おおっ!!遂に来たか!!」

「全く、何時まで待たせるんだ!!もう避難の準備は済んでいるんだぞ!!」

「早く俺達を街まで連れて行ってくれ!!」



村の前には既に避難の準備を整えた村人たちの姿が存在し、村に訪れたドリス達を見て安堵する。どうやら既に避難の準備を完了している様子だったが、彼等の態度に兵士は反発する。



「貴様等、この方を誰だと思っている!?何だその態度は!!」

「誰だろうと関係ない!!いいから早く街まで連れて行ってくれ!!」

「ゴブリンに襲われたらどうする!?」

「早く行かせろ!!どれだけ荷物があると思ってるんだ!!」



村人の中には荷車や牛車で移動しようとする者も多く、一刻も早くこの場所から離れたいという様子だった。そんな彼等の様子を見てドリスは大量の荷物を抱えている者達に告げる。



「荷車は置いていきなさい!!そんな荷物を抱えた状態で街へ向かう事は出来ません!!必要最低限の荷物だけを持って避難しなさい!!」

「何だって!?おい、待ってくれ!!この荷物は大切な……」

「そんなに大量の荷物を抱えては魔物に襲われた時は逃げ切れませんわ!!命と荷物、どちらが大切ですの!?」

「く、くそっ……あんたら、俺達を守ってくれるんじゃないのかよ!?」

「ええ、守りますわ……ですが、私達だけを当てにしないでください。私達が最優先で守るのは貴方達の命であって荷物ではありませんわ」



ドリスの言葉に大量の荷物を運び込もうとした村人たちは黙り込み、渋々と悪態を吐きながらも必要な荷物だけを選別し始める。だが、ここで村長らしき人物が異議を申し立てた。



「待ってくれ!!儂の荷物だけはどうか運ばせてくれ!!この中には大切な物がいろいろと入っているのだ!!頼む、荷物はこいつらにも運ばせる!!だからどうか……」

「しつこいですわよ!!荷物は徒歩で持ち運べるものだけ、我慢しなさい!!」

「くっ……貴様、覚えていろよ!!村長として領主に抗議してやるからな!!」

「ええ、どうぞご勝手に。さあ、出発しますわよ!!」

「……ドリス、頼もしくなった」

「うん……」



相手が王国騎士でしかも公爵家の令嬢とも知らずに村長は悪態を吐くが、そんな村長に対してドリスは決して妥協せずに避難を指示する。その彼女の様子にレノもネココも頼もしく思う。


全員の準備が終了すると、街の方角へ向けて移動を行う。この際にドリス達と共に同行していた馬車に乗った兵士は老人や子供を乗せ、乗り切れなかった者は特別に荷車に乗せ、移動する事を許可した。



「ではシチノへ出発しますわ!!仮に魔物が現れようと逃げてはいけません!!どんな魔物であろうと私達が守って見せますわ!!」

『…………』



ドリスの言葉に村人たちは黙り込み、本当にこんな少女がそれだけの力があるのかと不安を抱く。それはドリスに付き従う兵士達も同様だが、とりあえずはシチノへ向けて出発を開始した――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る