第291話 爆炎の騎士の力
――村を出てからしばらく時間が経過し、ここで先頭を移動していたウルとネココが鼻を鳴らす。どちらも嗅覚に優れているため、近付いてくるゴブリンの気配に気づいて警告を行う。
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「……前方からゴブリンの臭い、しかも他の魔物も臭いも混じっている。真っ直ぐ、こっちに近付いてくる」
「な、何だって!?」
「ひいいっ!!」
「落ち着きなさい!!取り乱してはなりません!!」
ネココとウルの警告に避難中の人々は悲鳴を上げるが、すぐにドリスが落ち着かせる。その間にウルの背中に乗っていたレノは弓を取り出すと前方へ視線を向けた。
(こっちに近付いているな……数は十数匹か)
それほど離れていない距離にゴブリンの群れが接近しており、その殆どが通常種だったが、ボアに乗り込んだホブゴブリンが1匹だけ存在した。どうやらこのホブゴブリンが隊長格らしく、通常種のゴブリンを従えている様子だった。
ボアに乗り込んだホブゴブリンは号令を行うと、ゴブリン達は動き出す。この際に一直線に向かうのではなく、全員がばらけて行動を行い、遠距離攻撃の対策か人間から奪ったと思われる盾や防具を身に付けて突進する。
「グギィイイッ!!」
『ギィイイイッ!!』
ホブゴブリンの鳴き声が草原に響き渡り、ゴブリン達は村人の元へ向かう。ゴブリンの中には頭に冒険者から奪った兜や盾、村人や民家から回収したと思われる鍋などを頭に被った個体も存在した。
(なるほど、弓からの攻撃を守るために装備を整えてきたか……だけど、そんな物で俺の矢は防げると思うなよ!!)
レノは狙いを定めるとゴブリンの群れに対して次々と矢を放ち、魔弓術の特性を生かして放たれた矢は風の魔力によって軌道を変更させ、確実にゴブリンの急所を貫く。いくら身を守ろうと防具や盾を装備しようが、正確にレノの矢は防具や盾で守られていない箇所を射抜く。
「グギャッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギャウッ!?」
「す、凄い……全部当たったぞ!?」
「なんて弓の腕だ……!!」
防具を装備したゴブリンに対してレノは一発も外さずに的確に守られていない箇所を撃ち抜き、その光景を見ていた兵士達は驚愕の声を上げた。傍から見ればレノが弓の名手にしか見えず、信じられない弓の腕前を持つ少年にしか見えなかった。
「流石はレノさんですわ!!では私は……親玉をやりましょう!!」
「グギィイイイッ!!」
「フゴォオオオッ!!」
部下が撃ち抜かれる光景を見て興奮したのか、ホブゴブリンはボアの尻を叩きつけると突撃させ、正面から蹴散らそうとしてきた。この時にレノが魔弓術でホブゴブリンを仕留める事も出来たが、ドリスは白馬から下りると彼女は駆け出す。
馬にも乗らずに正面からホブゴブリンとボアに突っ込んだドリスを見て兵士達は驚き、村人たちも彼女の行動は自殺行為にしか思えなかった。だが、ドリスは迷わずに剣の鞘に手を伸ばすと、渾身の一撃を繰り出す。
「爆炎剣!!」
『ッ……!?』
鞘から彼女の魔剣である烈火が引き抜かれた瞬間、強烈な爆炎が発生してホブゴブリンとボアに襲い掛かり、一瞬にして2体は黒焦げと化す。その様子を見ていた兵士や村人は声を上げる事も出来ず、一方でドリスは目の前で倒れたホブゴブリンとボアを見下ろして呟く。
「土鯨と比べればどうという事はないですわね」
「お、おおっ……す、凄い!!」
「これが王国騎士の力か!!」
「お、王国騎士だって!?」
「聞いた事があるぞ、確か爆炎を操る王国騎士があの土鯨を討伐したって……ま、まさか!?この御方があの……!?」
兵士の言葉に先ほどまでドリスに不信を抱いていた村人たちは驚愕の声を上げ、まさか相手が王国騎士であることなど知らず、失礼な態度を取っていた事に村長や不満を告げていた村人は顔色を青くする。しかし、ドリスは気にした風もなく彼等に振り返って告げた。
「さあ、もたもたしている暇はありませんわ!!早く街へ向かいましょう!!」
『は、はい!!王国騎士様!!』
ドリスの指示に逆らう者などおらず、迅速に彼等はシチノへ向けて出発下。その様子を見ていたレノとネココは何だか嬉しくなり、ドリスの力が遂に民衆にも認められていく――
――その後、無事に村人をシチノに送り届けた後はレノ達は休憩を挟み、次の村の避難を行う。この際にレノ達は3つの村の人間達を避難させる事に成功したが、村に辿り着いたときには既にゴブリンにやられていたのか、荒らされている村もいくつか見つけた。
「ここの村はもうゴブリンにやられてしまったようですわね……」
「くそっ……間に合わなかったか」
「……荒されてからそれほど時間は経過していないみたい」
「ウォンッ……」
「ぷるぷるっ……」
煙が舞い上がる村の様子を見てレノ達は悔しく思い、一応は生き残りを探すために村の中の探索を行う。だが、村の中には大勢の村人の死体と、抵抗を試みたと思われる兵士の死体だけが残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます