第292話 ゴブリンの奇行

「駄目ですわ……もう、ここの村人たちは誰一人生き残っている様子はありませんわ」

「……ここに残っても仕方ない、下がった方がいい」

「そうだね……ごめんなさい、今は貴方達を埋葬する暇はありません。でも、きっと仇は討ちます」

「クゥ〜ンッ……」

「ぷるぷるっ……」



レノは大量の人間の死体の前で手を合わせて目を閉じると、彼等をこんな目に遭わせたゴブリン、そのゴブリンを統括するゴブリンキングを必ず打ち破って仇を取る事を誓う。


成り行きでドリスの手伝いを行う事になったレノだったが、シチノの現状を知れば知るほどに放置は出来ず、この事態を引き起こしたゴブリンキングを倒す決意を抱く。ゴブリンキングがどの程度の存在かは不明だが、少なくとも土鯨を上回る脅威とは考えにくい。



「よし、先を急ごう。他に回っていない村は何処?」

「そうですわね……地図を見た限り、この周辺に存在する村はもう避難済みのようですわ」

「……なら引き返した方がいい、私達はともかく、兵士も疲れている」



ネココの言葉にレノは兵士達に視線を向けると、彼等は疲れた様子だった。村人の護衛は思う以上に精神を使い、しかもずっと動きっぱなしだったので兵士も疲労が蓄積していた。



「わ、我々の事は気にしないでください。少し休めば大丈夫なので……」

「……とても大丈夫には見えませんわ。少し、休憩しましょう」



兵士達の疲れ具合を見てドリスは休憩を提案し、彼等が動けるようになるまで身体を休ませる事にした。レノ達も魔物との連戦で疲労が蓄積しており、休息が必要だった。



「ふうっ……大分村人を避難させたお思うけど、他の地域はどうかな?」

「もう大部分の村人の避難は済んでいるはずですわ。それにしても……ゴブリンの出現率がい異常ですわ。いったい、何処からこれだけのゴブリンがあつまったのでしょうか」

「……もう何体切ったのかも覚えていない」

「ガウッ(あいつらまずいから嫌い)」

「ぷるんっ(食べたの!?)」



レノ達はずっとゴブリンと戦闘を繰り返しており、少なくとも体感的には100体近くのゴブリンは葬った。それでも行く先々にゴブリンの姿を目撃し、シチノの周辺は完全にゴブリンの巣窟と化していた。



「今日の所はもう帰ったら休みましょう。村人の事は心配ですが、根を詰め過ぎて私達が倒れたら元も子もありませんわ」

「そうだな……もうすぐ夜になる、魔物達がより活発的に行動を開始する」

「……夜を迎える前に早く戻った方がいい」



地図を確認する限りではもう大部分の村の人間達の避難は終了しているはずであり、夜を迎えると魔物が活発的に行動を開始するため、レノ達はシチノに引き返す事にする。


だが、休憩を終えて出発しようとした時にウルとネココが鼻を鳴らし、何かに気付いたように視線を向けた。その様子を見てレノはまた敵が現れたのかと思ったが、どうにも様子がおかしかった。



「どうしたの?二人とも……」

「しっ……あっちの方から臭いがする」

「グルルルッ……」



レノは声をかけると、ネココは口元に人差し指を向け、ウルは唸り声を上げる。二人はゆっくりと場所を移動すると、レノも後に続く。



「……あれを見て」

「あれは……ゴブリン?」

「何なんですの……?」



ネココの後ろにレノとドリスは続き、3人は建物の陰に隠れて様子を伺うと、そこには村の中を歩く通常種のゴブリンの姿が存在した。ゴブリンは何かを探している様子であり、その様子を見ていたレノ達は不思議に思う。


破壊された建物の残骸からゴブリンは何かを探しており、最初は民家から武器や防具になりそうな物を探しているのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。やがてゴブリンは小さな箱のような物を発見すると、嬉し気な表情を浮かべて持ち上げる。



「ギギィッ!!」



木箱を持ち上げたゴブリンは嬉しそうに地面に置くと、木箱の蓋を開く。だが、どうやら中身は小物入れだったらしく、中に入っていたのはただの装飾品の類だった。



「ギギギッ!!」



中身を確認したゴブリンは装飾品を覗き込み、怒りの表情を浮かべると木箱を蹴飛ばす。その様子を見てレノ達は疑問を抱くが、ゴブリンは怒った風に立ち去ってしまう。



「な、何なんですの?あのゴブリンは……」

「……箱を発見して喜んだと思ったら、中身を見て怒っていた」

「箱……そういえば、俺達が発見したあの箱、結局なんだったんだろう?」



レノは蹴飛ばされた木箱の元へ向かい、色は違うが大きさはレノ達が発見した箱と同じぐらいの大きさであり、この時にレノはゴブリンが探していたのは自分達が発見した金属製の黒色の箱ではないかと考えた。

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