第293話 ゴブリンの尾行

――奇怪な行動を起こしたゴブリンを発見したレノ達はどうしても気にかかり、ネココは尾行を行う。彼女は傭兵ではあるが暗殺者の技能を持ち合わせ、気配を絶つ技術や足の速さならばレノ達の中では一番優れている。


ネココは尾行をしている間、レノ達は村の中で待機する事にした。同行しても気づかれる恐れがあり、ネココは単独でゴブリンの後を追う。



(……何処へ向かっている?)



一定の距離を保ちながらネココはゴブリンの後を追いかけ、ゴブリンが何処に向かっているのかを確認するために尾行を続ける。尾行を開始してからそれなりの時間が経過すると、ゴブリンは森の中へと入り込む。



(森……ここがゴブリンの住処?)



森に入り込んだゴブリンを見てネココは疑問を抱き、基本的にはゴブリンは山岳地帯に暮らす生物で普通は森の中では生息しない。理由としては森のような場所では赤毛熊などの魔獣型の魔物が生息している可能性があり、発見されれば餌食にされるからだ。


そんな普通のゴブリンなら入り込まないような場所にゴブリンは入り込み、その後にネココは続く。あまりに離れすぎると引き返す時が大変だが、森の中ならば隠れ場所はいくらでも存在し、身を隠しやすい。



(もう少し情報を掴まないと……)



ゴブリンを尾行し、本拠地を見つけることができればそこに騒動の元凶であるゴブリンキングが潜んでいる可能性も高い。ゴブリンキングさえ討伐すればこの地方に存在するゴブリンも散り散りとなり、街に平和が訪れる。



(……でも、あのゴブリンはどうして1匹で行動してたの?)



基本的には群れで行動するゴブリンが単独で人間の村に訪れていた事に疑問を抱き、ネココは怪しく思う。そんな風に考えている間にもゴブリンは森の奥へ移動すると、開けた場所へ辿り着く。



「グギィッ!!」

「ギギィッ……」

「ギギギッ……」



ゴブリンが辿り着いた場所にはホブゴブリンと数匹のゴブリンが待ち構えており、ホブゴブリンがネココが尾行していたゴブリンを発見すると叱りつけるように鳴き声を上げた。


怒鳴りつけられたゴブリンは怯えた表情を浮かべながらも頭を下げると、ホブゴブリンは腰に巻き付けていた羊皮紙を取り出し、その場に広げた。その様子を見ていたネココは何をしているのかと確認すると、この地域の地図を取り出した事が発覚する。



「グギィッ……」



ホブゴブリンは指先に噛みつくと、地図に記されている村を指に滲んだ血で「×」と書き込み、羊皮紙を巻きなおして腰に戻す。その様子を確認したネココはある事に気付き、地図上で確認された村はレノ達が出回った場所も存在した。



(まさか、自分達が滅ぼした村にゴブリンを派遣させている……?)



事前に自分達が滅ぼした村だからこそ安全だと判断したのか、単独でゴブリンを派遣させていた事が発覚し、恐らくはこのホブゴブリンの目的はゴブリンを利用して探し物を行っている。



(ゴブリンが探していたのは箱……その中身を調べようとしていた。あの箱の中に何かゴブリンにとって重要な物が入っている?)



ネココは先日に回収した黒色の金属の箱の事を思い出し、あれがゴブリン達が捜索している物ではないかと考える。只の勘だが、この時のネココの勘は外れた事はなく、彼女はこのまま引き下がるか尾行するべきか悩む。


ホブゴブリンは地図を戻すと、ゴブリンを引き連れて更に森の奥へと移動を行い、その様子を見てネココは意を決して後を追う。ここまで来たら引き下がれず、ゴブリンの本拠地を探す事にした――






――尾行を開始してから更に時間が経過し、遂にネココはゴブリン達の住処を発見した。そこは森の中に存在する「遺跡」であり、以前にレノやアルトが盗賊の黒狼に捕まった時に運び出された遺跡と似たような雰囲気だった。


遺跡は森の奥に存在し、周囲にはゴブリンが作り出したのか木造製の柵と堀まで存在した。どうやら遺跡にはゴブリンだけではなく、多数のホブゴブリンも存在し、更にはファングやボアと言った魔物の姿も見られた。



(ここがゴブリンの住処……まるで要塞)



とてもゴブリン達が作り出したとは思えない程の防備が固められ、正に要塞という言葉が相応しい。流石に遺跡の中に忍び込むのは難しく、残念ながらネココはここで退き返す事にした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る