第294話 ゴブリンの本拠地

――帰りが遅いネココにレノ達は心配し、やはり自分達も行動を共にするべきかと悩んでいた頃、遂にネココが戻ってきた。彼女は珍しく焦った様子でレノ達の元に賭け寄ると、急いで自分が見てきた光景や出来事を話す。



「森の中の遺跡にゴブリンの群れが!?」

「……あいつら、やっぱり普通のゴブリンじゃない。遺跡を利用して自分達が住める場所を確保している」

「前に住んでいたゴブリンの亜種も森の中に暮らしていたけど……普通のゴブリンは森には住まないはずなのに」



過去にレノ達を襲ったゴブリンの亜種は森の中に自生していたプラントの奴隷として生かされており、プラントに栄養となる魔獣を捧げる代わりに亜種に進化する果物を与えられていた。しかし、今回の場合は事情が違い、ゴブリンは自ら進んで森の中に住み着き、遺跡を要塞化させていた。



「その話が事実ならば放置は出来ませんわ!!すぐに街に戻り次第、討伐隊を派遣しなければ……」

「……でも、あの遺跡の守備は普通じゃない。生半可な数の兵士を送り込んでも落とせるとは思えない。そもそもあそこにはきっと数百匹のゴブリンやホブゴブリン、他にもファングやボアも見かけた」

「数百匹……」



ゴブリンだけならばともかく、上位種のホブゴブリンや魔獣のファングやボアも含まれると簡単に勝てる相手ではない。しかも場所が馬では進みにくい森の中に存在する事も問題であり、仮に遺跡に辿り着いても既にゴブリン達は外敵への侵攻対策として柵や堀まで形成している。


攻め入るにしても相当な数と実力者を用意せねばならず、敵の本拠地で戦う以上は苦戦を強いられるのは目に見えていた。数百匹のゴブリンだけでも厄介なのに更にホブゴブリンや他の魔獣を相手にするとなると、シチノを防護する兵士達だけでも手が足りないだろう。



「シチノにはどれくらいの兵士がいるんですか?」

「え、えっと……兵士の数だけならば2000かそこからかと、ですが街の防衛のためにはその半分ぐらいしか派遣できないと思います」

「という事は最低でも1000の兵士しか動かせないという事ですね。それだけの数の兵士で事足りるかどうか……」

「冒険者や傭兵を呼び寄せて力を借りるのはどう?」



街の冒険者や傭兵も住民の避難やゴブリンの討伐のために繰り出されており、彼等の方が魔物との戦闘になれているため、心強い。レノの提案にドリスは頷き、まずはネココが掴んだ情報をシチノの領主に伝える必要があった――






――街へと引き返したドリスは早急にタスク侯爵の元へ向かい、事態を伝える。タスクはその内容を聞いて驚き、ドリスはすぐにでも兵士を派遣するべきだと伝えたが、彼は反対した。



「我が街の兵士達ではどうしようもありませぬ……討伐隊を派遣するのは不可能です」

「どうしてですの!?やっとゴブリン達の本拠地を掴めたというのに……」

「ですが、この街の兵士は正直に言えば実戦不足なのです。彼等はこの街の守護を行っていますが、基本的にこの街に魔物が攻め寄せてくる事は私の代では一度もありませんでした。しかし、こちらから攻め入るとなると戦力的には不安な面もあります」



タスク侯爵によると街を守ってきた兵士達は実際の所は魔物との戦闘経験など訓練の際にしか行っておらず、基本的に彼等の仕事は街の管理で犯罪者などしか取り締まった事がない。


冒険者や傭兵と比べれば街の警備兵は魔物との戦闘経験が明らかに不足しており、ゴブリンの本拠地に派遣しても役に立てるかどうか不安な部分が大きい。それに無理に出向かずとも一週間か二週間もあれば王都が派遣した軍隊が到着する予定だった。



「王都から援軍が到着すればゴブリンの本拠地へ攻め込む事も出来るでしょう。ですが、我が街の兵士だけでは攻め入るのは危険なのです」

「では、その援軍が到着するまで……この街の周辺地域の住民の避難だけを続けるつもりなんですの?」

「……それ以外に私達に出来る事はありません」



ドリスの言葉にタスクは頷き、そんな彼の言葉にドリスは咄嗟に反対しようとしたが、彼女は自分でこの街を管理するタスク侯爵の指示に従うと言った事を思い出す。



「……確かに不用意に仕掛けても勝ち目はないというのは一理あります。しかし、このまま住民の避難活動を続けるにしても限界がありますわ」

「分かっております。ですが、無暗に戦を仕掛けても勝ち目はありません……どうか、お許しください」

「うっ……」



住民の避難を行うにしても時間が掛かり、こうして話している間にも避難が完了していない村にゴブリン達が襲い掛かる可能性もある。だが、現状ではゴブリンの本拠地に攻め寄せる程の勢力はなく、タスクとしてはドリスの提案は受け入れられなかった。

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