第295話 収納石
「――箱の中身が分かった?」
「ああ、どうやら予想以上にとんでもない代物が入っていたよ」
ドリスがタスク侯爵と話し合いを行う間、レノは彼の屋敷で他の学者と共に黒色の箱を調べていたアルトの元へ向かう。アルトはレノが見つけ出した黒色の金属の箱の中身を確認するため、この街の鍛冶師を呼び寄せてわざわざ箱を分解したという。
箱を分解したのはドワーフの男性であり、この街では名工として名の通っている人物だった。名前は「ワドルフ」と呼ばれ、溶接されていた金属の蓋を取り外してくれた。
「おう、お前さんがこの箱を発見した坊主か!!この兄ちゃんから話を聞いているぜ、何でも珍しい武器を持っているらしいな。俺に見せてくれよ、手入れぐらいならしてやるぜ?」
「は、はあっ……どうも」
「ワドルフさん、それよりも箱の中身を見せてくれるかい?」
「ああ、そうだったな……こいつを見ろ」
レノを見るとワドルフという名前のドワーフは笑みを浮かべ、馴れ馴れしく彼の肩をバンバンと叩く。ドワーフの筋力は巨人族にも勝るとも劣らぬため、かなり強い力で叩かれてレノは苦し気な表情を浮かべるが、すぐにアルトが本題へ移す。
ワドルフは机の上に黒色の水晶玉のような物を取り出し、それを見たレノは疑問を抱く。今までに見た事がない代物であり、こんな物が金属の箱に入っていたのかと不思議に思う。
「これは?」
「こいつが箱の中身だ。まさか、こんな珍しい物が入っていたとはな……」
「レノ君、これは収納石と呼ばれる代物だ。君も名前ぐらいは聞いた事があるだろう?」
「収納石……」
アルトの言葉にレノは「収納石」という単語を思い返し、実物を見るのは初めてだが、名前に関しては割と有名な「魔石」の名前だった。
「僕の収納鞄と同じようにこの魔石は異空間に物体を収納する機能を持っているんだ。但し、僕の収納鞄と違う点は制限重量が無制限の代わりに入れられる物体の数は1つに固定されるんだ」
「え、どういう意味?」
制限重量が無制限にも関わらずに入れられる物は1つに限られるという言葉にレノは疑問を抱くと、ワドルフが説明の補足を行う。
「ようするにこいつは重い岩だろうが、こんな小さな羽ペンだろうと、1つの道具を保管すれば他の道具は保管出来ないんだよ。その代わりにどんなに大きくて重い物だろうとそれが一つの物体なら収納する事が出来るんだ」
「まあ、正確に言えば無制限といっても入れられる大きさは限られているだけどね。一度に収納する事が出来る物体の大きさは収納石の100倍程度の大きさだよ。この収納石の場合だと、だいたい縦横3メートル程度の物体なら収納できるという事だね」
「3メートルか……」
収納石に入れられる物体は数は1つに固定されているが、その代わりに巨大な岩や金属の塊だろうと、あるいは羽根ペンのように軽い物でも収納できるという。但し、収納できる物体の大きさは収納石の100倍程度の物しか収まらず、本当に何でも吸収できるわけではない。
ちなみに収納できる物体が1つだと限られているが、例えば「箱」や「壺」などの容器の場合、しっかりと蓋を閉じれば1つの物体として認識される。つまりは容器の類ならば中に何を入れても蓋を閉じて固定すれば1つの物体として認識され、異空間に預ける事が出来るという。
「基本的には収納石を使う場合、容器の類を用意して一緒に収納するのが主流だね。貴族の中には宝箱を用意して収納石に保管し、それを肌身離さず持ち歩く人もいるぐらいだよ」
「へ、へえっ……でも、この収納石はどうやって中身を取り出すの?」
「僕の収納鞄と違って収納石の場合、取り出す場合は特別な合言葉が必要なんだ。その合言葉は収納石の種類によって違うからね、合言葉が分からない限りはこの収納石も中身が何を入っているのか確かめようがないんだよ」
「じゃあ、この収納石の中身は分からないの?」
「ああ、まあぶっ壊せば普通の魔石と同じように中身も飛び出すんだがな」
通常の魔石を破壊した場合、内部に蓄積されている魔力が解放されるように収納石の場合も破壊されれば異空間に封じられている物体も飛び出す仕組みだった。但し、収納石は他の魔石と比べても非常に頑丈であるため、破壊は困難を極める。
「中身が分からない以上、こいつは無暗に破壊する事は出来ねえ。現状ではこいつを確かめる術はねえな」
「そうですか……」
「この箱をゴブリンが探しているというのが気になるね。どうしてゴブリンはこんな物を探しているのか……もしかしたら、人間の村を襲う理由もこの収納石が関わっているかもしれない」
ゴブリンの群れがレノが発見した黒色の箱を探し求めているのは間違いなく、その箱の中に入っていた収納石が今回の一件の重要な秘密を抱えている可能性が高い。だが、現状では合言葉が分からない限りは箱の中身は確認できない。
収納石の方はアルトたちが管理する事を決め、とりあえずはレノは尾行から戻って疲れて休んでいるネココに情報共有するために彼女の元へ向かう。
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