第110話 カトレアの忠告
「もう、話は最後まで聞いてよ~でないと、殺しちゃうよ?」
「うっ……わ、悪い、別に怒っているわけじゃないんだ。だが、捕まえた捕虜を勝手に手を出されたら困るんだ。特にあのガキは……」
「だからさ、最後まで話を聞いてくれない?」
徐々に女性の雰囲気が変わり、話し方も大人びていくとチェンは表情を青くさせ、これ以上にカトレアを怒らせると本気で殺されると考えた彼は黙って頷く。その様子を見ていたカトレアはしばらく黙っていたが、やがて機嫌を取り戻したように語り掛ける。
「うんうん、最初から話を最後まで聞けばいいのに~」
「す、すまん……それで、そのガキがどうかしたのか?」
「そうそう~あの子、中々可愛い顔をしてるじゃない?だから、ほんの少しだけつまみ食いしようと思ってさっき牢屋に向かったんだけど~消えちゃってたんだよね~」
「き、消えた?まさか、逃げ出したのか!?」
「そうかも~探してみたけど全然見つからないし、それと裸のおじさんが牢の中に閉じ込められてたから貴方の部下なんじゃない~?」
「くそっ!!あのガキめ……いや、待て!!もう一人のガキはどうした!?」
「ガキ?まだ捕まえていた子がいたの~?」
「そ、そうだ!!多分、お前好みのガキだと思って生かしておいたんだ!!」
「……へえ~?」
カトレアの機嫌を取るために咄嗟にチェンはレノの存在を語る。実際の所は彼が所有していた「魔弓(とチェンが思い込んでいる)」の使い方を吐かせるために生かしていたのだが、咄嗟にチェンはカトレアにも興味を持たせてレノの捜索をさせようとした。
「黒髪の若いガキだ!!顔は男にしては可愛い方だし、きっとお前が好みそうなガキだと思って生かしておいたんだ!!嘘じゃない、信じてくれ!!」
「ふ~ん、そんな子も捕まえていたんだ~なら探してあげるの手伝ってあげてもいいけど……もしも嘘だったら、あんたを殺すよ?」
「うぐっ……」
最後にカトレアは鋭い眼光をチェンに見せつけると、彼は背筋が凍り付く。だが、すぐにカトレアは笑顔を浮かべるとそのまま窓を飛び降りる。
「ばいば~い」
この建物は3階建てで地上まではかなりの高さが存在するのだが、チェンは窓の外を覗き込んだ時には彼女の姿は消えていた。チェンは顔色を青くして逃げてしまったアルトとレノを捕まえない限り、自分の命もないと確信を抱く。
カトレアを利用しようとした事が間違いだと後悔しながらも、彼はすぐにアルトとレノの捜索を部下に命じる事にした。どうにか夜明け前に二人を見つけ出してカトレアの前に突き出さない限り、チェンの命はない。彼は部屋を出ると、廊下にいた盗賊に命じる。
「くそっ!!今すぐに牢屋から逃げ出したガキ共を捕まえろ!!遺跡中を探し回れ!!まだ外へは逃げ出していないはずだ!!橋の見張りを増やせ!!」
仮にレノ達が外へ逃げ出そうとしても遺跡の周囲には深く掘られた外掘が存在し、もしも下に落ちれば何の道具も用意していなければ自力で這い出す事は出来ない。チェンはまだ二人が遺跡の中にいると判断し、部下たちに捜索の命令を出そうとした。
「お頭!!あの女が目を覚ましました!!」
「ああっ!?何だ、こんな時に!!」
「えっ……いや、お頭が行ったんじゃないですか。あの王国騎士とかいう女が目を覚ましたら教えろって……」
「何だと……あ、ああ、そういえばそうだったな」
自分の元に訪れた盗賊の男の言葉にチェンはそんな命令をしていた事を思い出す。彼は王国騎士のドリスを捕まえた際、彼女が抵抗するのでレノに使用した毒薬師のロンの「眠り薬」を利用した。
ロンが開発した眠り薬を吸い込んだ人間は一定の間は目を覚ます事が出来ず、自然に目を覚ますまでは身体を痛めつけようと目を覚ますことはない。ドリスに薬を使用した後、チェンは彼女を建物の一室に閉じ込め、目を覚ましたらすぐに知らせるように部下に命じていた事を思い出す。
「どうしますかお頭?今のところは武器も防具も取り上げたので大人しくしていますが、このまま放っておくんですか?」
「今はそれどころじゃ……いや、待て!!そうか、あの女が目を覚ましたか……よし、ならガキ共の捜索に向かわせた奴等に伝えろ!!女の命が惜しければすぐに姿を現せとな!!」
「え?あ、はい……分かりました」
部下の男はチェンの言葉を聞いて戸惑うが、言われた通りに伝令を伝えるために駆け出す。男を見送るとチェンはまずは自分が半裸である事に気付き、すぐに服を着こんで戦闘の準備を整える。
「絶対に逃がさないぞ……!!必ず捕まえて吸血鬼の餌にしてやる!!」
「チュイッ……」
「んっ!?」
チェンは何処からか鼠の声が聞こえ、彼は周囲に視線を向けるが、特に何も見えなかった。気のせいかと思ったチェンはすぐに準備を整えてドリスが拘束されている場所へ目指そうとするが、その様子を天井の罅割れから数匹の鼠が覗き込んでいた――
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