第109話 作戦決行
「チュイイッ!!」
「ヒヒィンッ!?」
「な、何だ!?おい、どうした!?」
リボンの牙が馬の大きな尻に食い込み、眠っていた馬は悲鳴を上げる。その声を聞いた盗賊が何事かと部屋の様子を調べると、馬が痛みのあまりに暴れ狂う様子を見て戸惑う。
「おい、どうしたんだ!?落ち着け、どうどう!!」
「うるせえなっ!!いったい何だってんだよ!?」
「どうした!?何があった!?」
「ヒヒィンッ!!」
騒ぎ出した馬の部屋の前に盗賊達は集まり、何事かと部屋の様子を覗き込もうとすると、痛みのあまりに暴れ狂う馬は盗賊達を蹴散らして外へと飛び出す。
「ヒヒンッ!!」
「うぎゃあっ!?」
「いでぇっ!?」
「ま、まずい!!あいつはお頭の馬だぞ!?捕まえろっ!!」
部屋から飛び出した馬によって盗賊達は突き飛ばされ、そのまま逃げ出した馬を見て慌てて世話役の盗賊達は後を追いかけようとした。その隙にリボンは他の部屋へと移動し、別の馬に噛みつく。
――ヒヒィイインッ!?
次から次へと馬たちの悲鳴が鳴り響き、リボンに噛みつかれた馬たちは部屋から飛び出して外へと逃げ出そうとする。すぐに世話役の盗賊達だけでは対処しきれず、騒ぎを聞きつけた城門の見張り役や、遺跡を巡回していた他の盗賊も集まってきた。
「おい、何だよこんな時間に騒ぎやがって!?」
「いったい何が起きたんだ!!」
「そ、それが急に馬たちが暴れ始めて……とにかく、大変なんだ!!」
「くそ、馬どもを捕まえろ!!外に逃げられたら厄介だ!!」
相当数の盗賊が集まり、この騒動ならば遺跡の中央部の建物にいる盗賊達も騒ぎを聞きつけて訪れるのは時間の問題だった。この時に隠れていたレノとアルトはその様子を伺い、お互いに頷く。
作戦は上手く成功し、馬たちが暴れて逃げ出した事で遺跡の中の盗賊達が集まり始め、この様子ならば遺跡中央の建物の見張り役の兵士も駆り出される可能性もある。すぐにレノとアルトは来た道を引きかえし、建物へと向かう。
(頼んだぞリボン、出来るだけ長く騒動を起こしてくれ……!!)
馬たちを暴れさせる役目としてリボンとはここで別れ、警備が手薄になった今のうちにレノとアルトは盗賊の隠れ家へと忍び込むために駆け抜ける――
――予想通り、北側で起きた騒動を聞きつけて盗賊達が暮らす建物の方も変化が起きていた。何人もの女盗賊と裸で眠っていたチェンも騒動を聞きつけて不機嫌そうに目を覚まし、部下から何が起きたのかを問う。
「おい、外の騒ぎは何だ!?」
「す、すいません!!俺達も何が起きているのか……」
「くそ、役立たず共が!!さっさと調べてこいっ!!」
「は、はい!!お前等、行くぞ!!」
寝起きで不機嫌なチェンは部下たちに命じて騒動の原因を調べさせに向かい、彼は二度寝をしようとしたが、ここで窓の方に誰かがいる事に気付く。咄嗟に彼はベッドの傍に置いておいた黒鎖に手を伸ばすと、大声で叫ぶ。
「誰だ!?」
「いやん、そんな物騒な物を向けないでよ~」
「……お、お前か」
チェンは相手の正体を知って安心した表情を浮かべ、ベッドの上に座り込む。彼の目の前に存在するのは黒い髪の毛を赤色の髪の毛を肩の部分にまで伸ばし、耳元に動物の牙のようなイヤリングを取りつけた女性が存在した。顔の方は暗闇のせいでよく見えないが、肉感的な体型だった。
窓に座り込む女性を前にしてチェンは冷や汗を流し、一応は黒狼の中でもまとめ役である彼でさえも目の前の女性には下手な口は聞けない。それほどまでにチェンの前に存在する少女は危険な相手であり、その気になればこの距離でも少女はチェンを殺す事が出来る。
「カトレア……どうした、その恰好は?」
「今日は満月だからね~普段以上に力を引き出せるの~」
「そ、そうか……」
カトレアと呼ばれた女性は外見とは裏腹に小さな子供のような話し方をするが、その彼女の姿を見てチェンは喉を鳴らす。散々に取り巻きの女を相手にしてきた彼だが、今のカトレアの姿を興奮を抑えきれない。
しかし、下手にカトレアに手を出そう物ならばチェンの命はなく、いくらチェンでも吸血鬼である彼女に手を出せば無事では済まない。身体中の血液と精気を吸い上げられ、ミイラと化す未来を思い描いた彼は一気に興奮が冷めてしまう。
「何の用だカトレア……お前が自分から俺の方に来るとは珍しいな」
「ちょっとね、ほら今日捕まえたばかりの男の子がいるでしょう?その子の顔が気に入ったから、ちょっとつまみ食いしようと思ったの~」
「男?ああ、あの貴族のガキか……ま、まさか手を出したのか!?」
チェンはカトレアが告げた相手が今日捕まえたばかりの「アルト」の事かと知り、焦った表情を浮かべる。アルトを捕縛して生かすように指示したのはチェンであり、彼はアルトがサンノの街に暮らす貴族だと知っていた。
アルトを殺さずに放置していたのは彼を人質にしておけばこの先に色々と役立つかと思ったからだが、まさかカトレアが自分の餌にしたのかと焦りを抱く。しかし、そんなチェンの言葉にカトレアは不満そうな声を上げる。
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