第211話 閑話〈新たな王国騎士〉
白狼騎士団の団長にして王国騎士セツナが離れている頃、王都では新しい王国騎士の話題で持ち切りであった。第三王女のオリビアの窮地を救い、たった一人で100名近くの盗賊を打ち倒したエルフの少女がオリビア専属の王国騎士に選ばれたと広まっていた。
国王はオリビアの事を3人の娘の中でも特に可愛がっており、そんなオリビアを救い出してくれた「ヒカリ」に感謝していた。だが、いくら命の恩人といえど、素性もよく分からぬエルフの少女を王国騎士に任命する事など普通ならばあり得ない。
――しかし、ヒカリが所持していた「光の剣」と呼ばれる伝説の勇者の聖剣だと判明し、彼女はそれを扱える事が判明すると、すぐに国王は彼女に王国騎士の座を与える事を決意した。
伝承によれば聖剣は誰もが扱えるわけではなく、聖剣から選ばれた人間にしか扱えないと言われていた。ヒカリの場合は人間ではなくエルフだが、彼女は見事に聖剣を扱いこなした。
ヒカリが聖剣を扱えるという事は伝説の勇者の生まれ変わり、あるいは勇者に匹敵する正義の心と大きな力を持つ存在であると考えられた。どちらにしろ、聖剣を扱える人材をジン国としては放置は出来ず、オリビアの王国騎士として迎え入れる。
「せいりゃあああっ!!」
『うわぁあああっ!?』
ジン国の王都の王城にて一人の少女の叫び声が響き渡り、十数名の兵士の悲鳴が響き渡る。王城内に存在する訓練場にてヒカリは槍を握りしめ、次々と兵士達をなぎ倒す。その様子を見ていたオリビアは慌てた様子で彼女に声をかけた。
「ひ、ヒカリ様!!やりすぎです、兵士の方達はもう戦えませんよ!?」
「え~!?でも、僕の村の子達はこれぐらいは平気だったよ!?」
「ヒカリ様の村の人達はどれだけの強者揃いなのですか!?」
ヒカリは自分が持ち帰ってきた「光の剣」を使用せず、訓練用の槍で王城の警備を行う兵士達を圧倒していた。彼女は子供の頃から武芸を磨いており、剣だけが扱えるというわけではない。
里の族長の娘として生まれたヒカリは小さいころから戦士の指導役を行っていた父親から直接に指導を受け、その腕はもう父親にも劣らない。しかも彼女は剣以外の武芸も学び、槍の腕前も一流だった。
「仕方ないな、それじゃあ休憩にしようか」
「そ、そうしましょう……ヒカリ様もお疲れでしょう?」
「別にそんなに疲れてはないけど……なんか動き足りないし、僕だけもう少し走ってこようかな?」
「そ、そうですか……」
朝から訓練に励み、城中の兵士達と訓練を重ねて来たにも関わらず、ヒカリは疲れている様子がなかった。化物じみた体力に城の兵士達は顔を青ざめ、オリビアでさえも表情が引きつる。
「よし、城の城壁を10周してくるから、それが終わったら訓練を再開するよ!!」
「えっ!?10周!?それは流石にヒカリ様がきついのでは……」
「大丈夫だって、毎日朝から20周走ってるから平気だよ!!」
「嘘っ!?」
「じゃあ、行ってくるね~!!」
ヒカリはオリビアに笑顔で手を振りながら走り去ると、その様子を見てオリビアは苦笑いを浮かべながらも腕を振り返し、周囲に座り込んでいる兵士達に話を聞く。
「……ヒカリ様の指導を受けてどうでしたか?」
「も、申し訳ございません……正直、俺達なんかじゃ付いてこれません」
「セツナ様の指導訓練もきついけど……ヒカリ様の場合は本当に休みなしで動き続けるので身体が持ちません」
「なんでヒカリ様はあんなに動いて平気なんだ……」
王城の警備を任されている兵士達は並の一般兵よりも武芸が優れ、日々厳しい訓練を受けていた。だが、ヒカリの場合はそんな彼等でもついていくのがやっとの訓練量を行い、本人は全く疲れている様子はない。
エルフは人間よりも魔法の腕は優れているとは聞くが、身体能力に関してはそれほど大きな差はない。森の中で幼少期から鍛え続けてきたヒカリだからこそ底無しの体力を身に付けていたとも考えられるが、やはり普通のエルフと比べてもヒカリの身体能力は体力は異常である。
(やはり、ヒカリ様は勇者の生まれ変わり……この国にはなくてはならない存在です)
オリビアはヒカリこそが勇者の生まれ変わりだと強く信じ、彼女は正に伝説の勇者にも匹敵する力と才能に溢れていた。しかし、そんな彼女がオリビアの王国騎士になったのは理由があり、オリビアの元に執事の老人が近付いて囁く。
「オリビア様、言われた通りにヒカリ様の想い人の捜索を行っていますが、やはり黒髪のハーフエルフの少年という情報だけでは捜索も難航しているようです」
「そうですか……ヒカリ様が故郷を離れてまで探す御方です。きっと、大切な方なのでしょう。出来れば見つけてあげたいのですが……」
ヒカリが王国騎士になった条件、それはオリビアの力を借りてこの国に存在するはずの「レノ」の事を探すつもりだった。今の彼女は子供の時と違い、レノを守れる力があった。彼女は未だにレノと再会する事を諦めてはいなかった――
※その頃のレノ君
レノ「くしゅんっ(´ω`)」←くしゃみ
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