砂漠の街編
第212話 盗賊王の過去
――盗賊王ヤクラと傭兵団「牙狼団」の団長であるロウガが義兄弟と発覚してから数日後、レノ達は次の街に向けて旅を再開していた。次の目的地である「ムツノ」はかなりの距離が存在するが、今回からは馬車を購入した。
馬車を購入したといっても実際に動かすのはウルであり、馬代わりに馬車を引く。今まではネココを乗せて走って(跳んで)いたスラミンに関しては馬車を引く事は手伝えないため、現在は非常に小さくなってレノ達と共に馬車に乗り込んでいた。
「ぷるぷるっ」
「……よしよし」
「本当にスラミン、小さくなったね。前は1メートル以上もあったのに」
「スライムは体内の水分の量によって大きさを変化する事が出来ると聞いていますが、まさかここまで小さくなるとは……」
スラミンは以前よりも随分と小さくなり、現在はバスケットボール程度の大きさしか存在しなかった。そんなスラミンを膝に乗せたネココは頭を撫でやり、一方で御者の役割を行っているアルトが声をかける。
「そろそろここで野営の準備をしないかい?大分暗くなってきたよ」
「そうだね、それじゃあ今日はここで休もうか」
「ウォンッ!!」
ムツノの街へ向かう際、アルトもレノ達に付いてくる事にした。彼は本来はゴノの街に引っ越すつもりだったのだが、レノ達がムツノへ向かうと聞いて同行を申し出た理由はムツノは特別な街らしく、そこには希少な魔物が出現するという。
「この調子なら明日か明後日にはムツノに辿り着けるだろうね。ああ、楽しみだよ……砂の街に行くのは僕も初めてだ」
「砂の街、か……」
ムツノの街はジン国に存在する砂漠地帯にある街であり、砂漠の中央にあるオアシスの周囲に街を形成している。ロウガの話によると盗賊王ヤクラはこの街に滞在している可能性が高いらしい――
――ロウガが盗賊王ヤクラと義兄弟であったという話を聞かされた時はレノ達も驚いたが、彼によるとロウガとヤクラは元々はムツノの街の出身らしい。ロウガと彼の妹が子供の時からの付き合いらしく、ヤクラとロウガは義兄弟の契りを結ぶ程に仲が良かった。
だが、突如としてヤクラはロウガ達の前から姿を消し去り、やがて盗賊になったという話を聞いたロウガはその真実を確かめるために街を出た。そして傭兵になった彼はヤクラの行方を追うと、彼は盗賊団を率いて貴族を相手に悪事を働いていた。
元々ヤクラは孤児で親両親は存在しなかった。彼の孤児院は貧しいながらも大勢の子供達を養っていた。しかし、そんなある時にムツノの街を経営する領主が現れ、あろう事か孤児院を取り潰すを伝える。なんでも領主は新しい別荘が欲しいらしく、孤児院が丁度街を見渡せる場所に存在したため、孤児院を取り潰して別荘を建てようとしたらしい。
当然だが孤児院の経営者も子供達も猛反対した。しかし、貴族である領主は権力を利用して無理やりに経営者と子供達を追い出してしまう。この時に領主からはせめてもの情けとして当時引き取られていた子供達が大人になるまでの養育費は受け取っていたが、それでも子供達からすれば自分達の家を奪った存在として許せなかったという。
――その後、ヤクラは盗賊に身を落として貴族を相手に強奪を行い、貴族から奪った金品を貧しい人間に分け与える「義賊」のような行為を専念した。最初の頃はこの話を聞いたロウガは彼の事を止める事は出来ず、結局は兄弟の縁を切って彼がいない街に離れる事しか出来なかった。
だが、数年ほど前からヤクラは盗賊王と呼ばれるようになり、この時から彼は変わり始めた。以前は貴族だけを相手に強奪を行い、奪った金品を貧しい物に分け与えていたが、あまりに過激にやり過ぎてしまったために国の軍隊に目を付けられてしまった。
一時期は王国騎士が動き出す事態にまで陥り、盗賊王の組織だけではもうどうしようもない程に追い詰められる。そんな時に盗賊団の黒狼と傭兵団の蝙蝠が彼に接触し、3つの組織が裏で手を結ぶ。
どの組織も裏社会では大きな存在であり、特に蝙蝠の背後にはカジノと闘技場の運営を行うゴノ伯爵が大きかった。ヤクラは憎き貴族の手を借りる事に躊躇したが、結局は部下たちを養うために手を組んだ。その後の彼は二つの組織の協力を得て拠点を転々としながらも活動を続けた。
しかし、盗賊王ヤクラはこの時から貴族を相手に金品を強奪するだけには留まらず、遂には捕まえた貴族を殺し始めるようになった。彼等が襲った貴族はゴノ伯爵を敵視していた存在であり、よりにもよってゴノ伯爵はヤクラを利用して自分の邪魔な貴族を始末したのだ。
これによって盗賊王ヤクラの悪名はより一層に国内に響き渡り、現在は黒狼と蝙蝠も壊滅した今、もう後ろ盾が無くなった盗賊王ヤクラがどのように行動するのかは誰にも分からなかった。だが、彼の幼馴染であり、一時期は義兄弟の契りを交わしたロウガは行き場を失ったヤクラはもしかしたら街に戻ってくるのではないかと考え、それをレノ達に伝える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます