第213話 ドリスの成長、レノの新たな魔法剣
――馬車を止めて草原にてレノ達は野営の準備を行い、今回の食事当番はネココであるため、彼女が料理を作っている間にレノとドリスは軽く魔法剣の練習を行う。
「ふうっ……行きますわよ!!はああっ!!」
「おおっ!?」
「凄い、これがドリス君の魔法剣か!?」
ドリスは自分の持つ魔剣「烈火」を構えると、魔法鞘に取りつけた火属性の魔石を利用せず、遂に自力で魔法剣の発動を成功させる。彼女の刀身に真紅の炎が纏い、自分の魔力のみで彼女は「爆炎剣」の発動に成功した。
少し前までは指先に小さな火を灯す事しか出来なかったが、今現在のドリスは自力で魔法剣を発動させる程にまで魔力操作を行えるようになった。しかし、レノと違って長時間に渡って武器に魔力を維持する事は出来ないらしく、すぐに炎は消えると彼女は膝を着く。
「あうっ……や、やっぱりきついですわ」
「大丈夫!?」
「ええ、ですけどやっぱりレノさんのようにはまだ上手く魔法剣を維持できませんわ」
「ふむ……どうやらかなりの魔力を消耗したようだね」
数秒ほど魔法剣を発動させただけでドリスは魔力を大幅に消耗し、頭を抑える。レノの場合は子供の頃から物体に長時間魔力を付与させる事は出来たが、今のドリスは到底不可能だった。
それでも数週間前と比べても確実にドリスも成長しており、少し前の彼女ならば魔石がなければ魔法剣を発動する事も出来なかった。実際に魔力操作の修行を行うようになってから格段にドリスの魔法剣の発動時間は短縮され、火力の方も増している。
「レノさんは本当に凄いですわ、自分の魔力だけで魔法剣を維持できるなんて……私は足元に及びませんわ」
「そんな事はないよ。ドリスだって成長してるよ」
「ちょっといいかな?僕の知識によると風属性と火属性では性質が異なる。だから、魔力の消費量も違うんだろう」
ドリスは自分がレノの様に自力で魔法剣を発動させ、長時間の意地を出来ない事に落ち込むが、アルトによるとそもそもレノとドリスの魔法剣は大きく異なるらしい。
風属性を得意とするレノの場合、魔法剣を発動させる際は常に刀身から風の魔力を生成し続けているわけではなく、あくまでも刀身に魔力を纏わせているだけに過ぎない。分かりやすく言うと竜巻のように風の魔力を旋回させ、刃に纏わせているために無駄な魔力は消耗せず、刃に魔力を宿し続ける事が出来た。
その一方でドリスの「爆炎剣」は火山の噴火のように蓄積させた魔力を一気に解放する事でより火力の高い炎の魔力を刃に生み出す事が出来る。だが、それを維持するには火山の噴火のように魔力を放出し続けなければならず、当然だが一気に魔力を消耗しても仕方がない。
「思うにドリス君の爆炎剣はレノ君の魔法剣とは性質が大きく異なるんだ。だから、無理にレノ君のように魔法剣を維持させる必要はないと僕は思うよ」
「そ、そうなのですか?」
「アルトの言う通りだよ、ドリスさんはドリスさんなりに魔法剣を発展させればいいんだよ。無理に俺みたいに魔法を使う必要なんてないよ」
「な、なるほど……分かりましたわ。これからは私、自分なりに魔法剣を極めてみせますわ」
ドリスはレノに劣るからこそ魔法剣を維持する事が出来ないと思い込んでいたが、実際の所は自分の爆炎剣の性質をよく理解していなかったのだと悟り、改めて考え直す。ここから先はレノを目標にするのではなく、自分なりに考えて自分だけの魔法剣を極めようと考える事にした。
「さて、俺も負けてられないな……新しい魔法剣の練習をしないと」
ドリスの頑張りを見てレノも負けていられず、荒正を取り出して新たに覚えた魔法剣の練習を行う。風属性の魔力を纏った状態でレノは魔法腕輪に取り付けた溝属性の魔石を利用し、水の魔力を取り込む。
「……流水剣!!」
「おおっ!?」
「み、水の剣……綺麗ですわ」
荒正の刀身に水を纏い、まるで刃が青色に変色したように見えた。だが、実際は水の魔力を風の魔力で内側に押しとどめているだけに過ぎず、この「流水剣」の真の力は魔力を解放した時に発揮される。
「何か的になりそうな物は……よし、あれでいいかな」
レノは周囲を見渡して離れた場所に存在する岩に気付き、近づいて刃を振りかざす。セツナとの戦闘では刃に纏わせた水の魔力を「嵐刃」と組み合わせて攻撃したが、今回は刃に纏わせた状態で振りかざす。
(ここだっ!!)
刃が岩に触れる瞬間、レノは水の魔力を抑えていた風の魔力を消すと、押し込まれていた水の魔力が拡散して凄まじい力を引き出す。その威力はレノの身の丈はある岩を切断し、真っ二つに切り裂く程だった。
頑丈な岩を容易く切り裂いた水の刃にレノだけではなく、他の者達も唖然とする。単純な威力ならばレノの魔法剣の中でも最高クラスである事は間違いなく、改めてレノは自分が恐ろしい魔法剣を身に付けた事を知る。
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