第214話 サンドワーム

「……皆、そろそろご飯が出来る」

「あ、ああ……そうかい」

「れ、レノさん、もう訓練はいいのでは?」

「なんで皆、ちょっと引いてるの……」



恐ろしい魔法剣を覚えたレノに対してアルトとドリスは若干引き気味に答えるが、レノ自身も新しく覚えた魔法剣は滅多な事では使用できないと判断した。魔物との戦闘ならばともかく、少なくとも対人戦では使っていい代物ではない。


仮にも王国騎士の中であるセツナの作り出した氷の魔法剣を打ち破るほどの威力があるため、これを下手に人間に使用すれば仮に岩の様に頑丈な鎧を身に付けた相手でも切り裂く事が出来る。下手に使用すれば相手を殺しかねず、使い道を誤れば恐ろしい事態を引き起こすだろう。



(折角覚えたけど、しばらくは封印だな……)



レノは荒正を鞘に納めると、ネココが作ってくれた料理を食べるために他の者と囲みながら座り込む。ちなみにネココの作ってくれた料理はシチューであり、干し肉とパンも用意してくれた。



「……今日のシチューはオークの肉も入っている」

「そういえば昼間に遭遇しましたわね」

「ふむ、こんな場所でオークと遭遇するとは思わなかったな。やはり、各地で魔物が大量の増殖を始めているという噂は本当かもしれない」

「そういえば俺が育った山も赤毛熊がやたらと多くなったような気がする。爺ちゃんと義父さん、大丈夫かな……」



世界各地では魔物の数が大量に増えており、その原因は未だに判明していない。しかし、このような事態は過去に何度か起きており、その都度に人々は大きな被害を受けている。


学者は一定の周期で魔物は数を増やす傾向があり、その原因に関しては未だに判明していない。この草原でも数年前はオークなど滅多に見かけなかったが、この旅の間でレノ達は何度もオークを目撃している。



「この調子だとムツノに辿り着くのも苦労しそうだね。もう少し進めば砂漠地帯に入る。ここから先は気を付けた方がいい」

「ムツノか……砂漠の街か、どんな場所だろう」

「……私も行くのは初めて」

「私の利いた噂によると、砂漠を船で移動する方法があるらしいですわ。なんでも家族性の魔石を利用した魔道具で船を動かすとか……」



ドリスが言葉を言い終える前にレノ達の傍で寝そべっていたウルとスラミンが起き上がり、何かに気付いたように唸り声を上げる。



「グルルルッ……!!」

「ぷるんっ!?ぷるぷるぷるっ!!」

「うわっ!?二人とも急にどうしたんだ?」

「……敵!!」



唐突に騒ぎ出したウルとスラミンにアルトは驚くが、すぐに異変を察知したネココは蛇剣を構え、ドリスとアルトも周囲を見渡す。火を使っていたので草原の魔物に気付かれてしまったのかとレノ達は周囲を警戒するが、特に敵の姿は見えない。



「ウル、スラミン、どこにいるんだ?」

「ウォンッ!!」

「ぷるぷるっ!!」



レノは2匹に敵の位置を確認すると、何故かウルは激しく地面に右足を叩きつけ、スラミンもその場で跳ね回る。その行動にレノは疑問を抱き、何を伝えようとしているのかと考えると、やがてある結論に至る。



「まさか……地面の下!?」

「地中か!!」

「皆、離れて!!」

「わわっ!?」



敵が地面に潜り込んでいる事に気付いたレノ達はその場を飛んだ瞬間、地面に亀裂が発生し、料理が置かれた場所の地面が割れて巨大なミミズのような生物が出現する。



「ギュロォオオオッ!!」

「まさか……サンドワーム!?」

「きゃああっ!?」

「……でかい!!」



出現したのは土気色の鱗に覆われた巨大なミミズのような魔物だと判明し、それを目撃したアルトは驚愕の声を上げる。サンドワームと呼ばれた魔物はレノ達が食べていたシチューを鍋ごと飲み込み、そのまま地上へ露出するとレノ達と向かい合う。


今までに遭遇した魔物の中でも外見があまりにも気色悪く、特に女性陣のドリスとネココは顔を引きつらせる。一方でアルトは驚いた表情を浮かべ、収納鞄から本を取り出し、かつて自分が製作した魔物図鑑と記された書物を開く。



「間違いない、こいつはサンドワームだ!!砂漠地帯などにしか生息しないはずの魔物だ!!」

「砂漠地帯って……ここはまだ草原ですわよ!?」

「話している場合じゃない、来る!!」

「ギュロロッ!!」



サンドワームは大口を開くと、口の中には大量の牙が生えており、飲み込まれれば鋭い歯で一瞬で磨り潰されてしまう。それを確認したレノは荒正を構えると、火属性の魔石の指輪を利用して魔法剣を放つ。



「火炎刃!!」

「ギュロォッ!?」



口元に向けて火炎の刃を放つとサンドワームは悲鳴を上げ、怯んだように身体を仰け反らせる。その様子を見ていたネココは蛇剣を振りかざし、サンドワームを切り裂こうとした。

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