第136話 奴隷の制度
「ひひっ……可哀想にな、あの男。まあ、生き残ったとしても地獄を味わうぐらいならばここで死んだ方がマシだったかもしれんがね」
「……それはどういう意味ですか?」
近くの席に座っていた老人の言葉にレノは疑問を抱くと、老人はけたけたと笑いながら先ほど殺された男性の事を語る。
「お前さん達、奴が付けていた腕輪に気付かなかったのか?」
「腕輪?」
「そういえが確かにそのような物を身に付けていた様な……」
「あれはな、奴隷の証じゃ。あの者は家族の借金の肩代わりに自分を身売りしたが、主人になった男の命令で戦わされていたんじゃよ」
レノ達は老人の言葉を聞いて運び出される男に視線を向けると、確かに金属製の腕輪のような物を嵌め込んでいた。老人によると男は奴隷で主人の命令でこの試合に出場したらしく、最後まで勝ち残れば奴隷から解放される約束だったという。
「あの男はな、奴隷から解放されるために必死に頑張って追ったよ。若いころは冒険者らしくて確かに腕はあったが、碌な生活を送っていなかったのだろう。最初の試合の時から疲れ切っておったよ」
「ど、どうして奴隷を出場させたのですか?」
「あの男はゴノ伯爵の奴隷だからのう。客寄せのために出場させたのではないか?まあ、こんな試合に出場させる時点であの男は奴隷としての価値もないと判断されたのかもな。実際に奴が殺される時、兵士の対応が遅かっただろう?あれはな、あの奴隷は最後まで勝ち残らなければ生き残る術はなかったんじゃよ」
「そんな……」
話を聞いたレノ達は男性が自棄になって試合を続けたつもりではなく、奴隷として主人の命令に逆らえずに戦い続けなければならなかったことを知る。流石のネココも黙り込み、そんな事情があるとは思いもしなかった。
今思い返せば男性の様子もおかしく、まるで追い詰められているような雰囲気だった。レノはゴノ伯爵という男のやり方に怒りを覚え、特に同じ貴族のドリスは憤慨する。
「奴隷とはいえ、人の命を弄ぶような真似は許せません!!すぐにゴノ伯爵に抗議しますわ!!」
「ははは、そんな事をしても無駄じゃ。奴隷をどう扱おうがその人間の自由、文句を言ったところで聞き入れてはくれんよ」
「だからといってこんな非道な真似、許せませんわ!!」
「落ち着いてドリスさん……ご老人、随分とここの事に詳しいようだけど何者ですか?」
「ふふふ、儂は只の客じゃよ……老い先短い、只の爺じゃ。では、失礼するぞ」
「…………」
老人は立ち去ると、残されたレノ達は黙り込み、この後どうするべきか悩む。最初は試合の様子を見るだけのつもりだったが、殺された男の事を考えるとやるせない気持ちに陥る。別に男は知り合いというわけでもなく、まともに会話しただけでもない。それでもあまりに無念な死に方には同情せずにはいられない。
同じ貴族としてドリスはゴノ伯爵のやり方は気に入らないが、老人の言う通りにこの国の奴隷制度では奴隷の扱い方は主人の自由であるため、ゴノ伯爵を糾弾する事は出来ない。だが、このまま他の奴隷もただの客寄せのためにむざむざと殺されるのを黙って見ている事は出来なかった。
「私、ゴノ伯爵の元へ向かおうと思いますわ!!公爵家の名前を使ってでも止め見せます!!」
「止めておいた方がいい……それをすればドリスの実家に迷惑を掛ける。それぐらいならゴノ伯爵の身辺調査を行った方がいい」
「そうだね、こんな真似をして人を呼び集めるような男だ……調査すれば何か裏で危険な事を行っているかもしれない。彼に直訴するよりもゴノ伯爵の不正行為を調べ上げて国へ訴える方が効率的かもしれないよ」
「な、なるほど……では早速ですが調べてみますわ!!ネココさん、手伝ってください!!」
「……私も?」
「そうですわ、この街に一番詳しいのはネココさんなのですから!!報酬は支払うから手伝ってくださいましっ!!」
「……仕方ない」
ドリスにネココは連れていかれ、残されたレノはアルトと共に残り、自分達はどうするべきか考える。二人の手伝いに向かうべきか、それともお金を集める方法を探すべきか考えていると、ここでアルトは興味深い話を聞く。
「つまんねえ試合ばっかりだな……そういえば昨日、珍しい魔物が出たんだろ?俺は見てないんだよ、どんな奴が出たんだ?」
「ああ、凄い奴が出てきたぞ。効いて驚くなよ、赤毛熊の亜種だ」
「赤毛熊の亜種!?そんなのがいるのか!?」
「何でも最近に外国から取り寄せた魔物らしい。まあ、出てくるとしても最終試合の相手だろうな」
「その話、本当かい!?」
「うおおっ!?誰だお前っ!?」
亜種という単語にアルトは反応し、会話を行っていた観戦客に詰め寄り、急に割り込んできたアルトに男二人は驚く。しかし、アルトは男達の話を聞いて本当に赤毛熊の亜種が出場しているのかを詳しく尋ねる。
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