第135話 判断を誤った者の末路
「この試合に出場できるのは1名だけみたいだね、まあ多人数で出場すると魔物を倒す時に揉め事が起きそうだから当たり前か」
「どうしてですの?他の方と出場した方が安全なのでは?」
「他の人間と一緒に戦うと、他の人間が倒した魔物を自分が倒したと言い張る輩も現れるかもしれないでしょ?それに乱戦になったら誰がどんな魔物を倒したのか確かめるのも難しいし……」
「な、なるほど……それは確かに厄介ですわね」
「……でも、どうやら戦う場所は地上の試合場じゃないみたい。地下に増設された地下闘技場で戦うみたい」
「地下闘技場か……何だろう、相手をバキバキにしてやりたいという気持ちをひしひしと感じる」
「何を言ってるんだい、レノ君……」
魔物との対戦試合は地上ではなく、最近に増設されたばかりの地下の試合場で行われる事が判明し、とりあえずはレノ達は地下へ向かう事にした。ちなみに地上の観客席は入場料を取られるらしいが、地下の試合場の場合は入場料を取られる事はなく、無料で入れることが発覚した。
「無料で試合が見れるなんて随分と羽振りがいいですわね」
「逆に言えば金を取るとお金が集まらないぐらいに人気がないんじゃないかな?」
「……正解みたい」
地下へと続く階段を降りたレノ達は広間へと辿り着き、予想よりもかなりの大きさを誇った。円形状の広間の中央に石畳製の試合場が存在し、試合場の周囲には金網が張り巡らされていた。その試合場を取り囲むように観客席が存在し、一千人ぐらいは座れる数の席は存在したが、肝心の観客の方は100人にも満たない。
丁度試合が行われていたらしく、試合場には20代半ばの男性が立っていた。男性の周囲にはゴブリンとコボルトの死骸が倒れており、息を荒げながら刃毀れした剣を握りしめて立っている状態だった。
「どうしたどうした!!まだ始まったばかりだぞ!?」
「もう諦めちまうのか!!」
「う、うるせえっ!!次だ、早く次を出せ!!」
「本当によろしいのですね?では、次の魔物を解放します!!」
どう見ても疲労困憊の状態の男性に対して観客は野次を飛ばし、それに対して自棄になったように男性は金網の外の兵士に声をかけると、兵士は試合場の出入口を開いて檻を運び込む。その中にはオークが3匹も閉じ込められており、兵士が檻を開くと3体のオークが解放された。
『プギィイイッ!!』
「く、くそっ……うおおおっ!!」
試合場に解放されたオークは男性の元へと向かい、迫りくるオークに対して男性は剣を振りかざす。その様子を見ていたレノ達は男性に明らかに勝ち目がないと悟り、このままでは殺されると思ったレノは声をかける。
「無理だ、そんな武器と身体じゃ勝てない!!降参した方がいい!!」
「このぉっ!!」
男性はレノの声が聞こえていないのかオークに向けて剣を振り下ろすが、結果から言えばオークの肉体を傷つける事は出来ず、逆に剣の刃が折れてしまう。どうやら元から限界を迎えていたらしく、根本の部分まで折れてしまう。
折れてしまった剣を見て男性は呆然とするが、そんな彼に対してオークは容赦せず、両腕で男性の頭を掴む。試合場内に男性の悲鳴が響き渡り、やがて大口を開いたオークは男性の頭に嚙り付く。
「プギィイイッ!!」
「いぎゃあああっ!?」
「そんなっ……!!」
「ひ、酷い……」
「あんまりですわ……!!」
「…………」
オークに男性は頭から嚙り付かれると、しばらくの間はもがいていたがやがて動けなくなり、ここで兵士がやっと動き出す。試合場内に大量の兵士が乗り込むと、槍を構えてオークから男性を引き剥がし、檻の中へと誘導する。
「ほら、檻へ戻れ!!離れろっ!!」
「そいつの様子はどうだ?」
「あ~あ、駄目だな……これはもう助からないな」
「仕方ない、処理しろ」
兵士達は淡々とした態度で死体となった男性の身体を運び出し、オークを檻へと戻す。試合場に倒れていたゴブリンとコボルトの死骸も運び出されていき、その様子を見ていた観客はつまらなそうに声を上げた。
「たく、また死にやがった……今日はまだ誰も勝ち残っていないんじゃないのか?」
「欲をかいて戦おうとするからだ」
「結局、今日の最高記録は3連戦か。昨日よりも酷い結果だな」
「……3連戦?」
観客の言葉にレノはどういう意味なのかと思って皆に振り返ると、記憶力には自信があるアルトが試合の規則を思い出して答えてくれた。
「魔物との試合では参加者の意思によって戦闘を続けるのかを決める事ができる。例えば先ほどの試合ではゴブリンとコボルトが倒れていただろう?あれはさっきまで戦っていた選手が前の試合で倒した魔物なんだろう。一度の試合に出場する魔物の種類は1種のみ、つまりあの選手はゴブリンとコボルトの試合を終えた後だったんだ」
「……自分の実力を見誤り、体力や武器と防具の耐久度も考えずに欲をかいて戦えば破滅する。さっきの人は判断を誤って死んだ、それだけの話」
「ネココさん、そんな言い方は……」
「自ら戦いを望んで死んだのなら自業自得……同情の余地はあっても共感はできない。死にたくなければのあの時に諦めるべきだった」
ネココは兵士に運ばれる男性の遺体に視線を向け、憐れみの視線を向ける。彼女も男性の最期は哀れに思っているらしく、それ以上にドリスは何も言わなかった。
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