第134話 金策

「どうします?他の店に尋ねて鞘を作ってもらいますか?」

「だが、ネココの話によるとムクチさんがこの街一番の腕を持つ鍛冶師なんだろう?それに普通の相場よりも値段が安いのならここで作って貰った方がいいんじゃないかい?仮に他の店に尋ねても同じ値段で引き受けてくれるかどうかも分からないし……」

「う~ん、でもお金がな……」



レノは手持ちの金を全部出しても代金は足りない。先日の国から支給された金銭は特別通行許可証の件もあって他の人間と比べて半分しか受け取っていない。それだけ特別通行許可証が価値のある代物なのだが、こうなると許可証よりも金銭を受け取っていれば良かったのかもしれない。


最も今更後悔しても遅く、どうにか金貨5枚を稼ぐ手段を考えねばならない。最も金貨5枚を短期間で稼ぐ方法など限られており、他の者に相談する。



「この街で金貨5枚を稼げる方法なんてあるかな?」

「それなら賞金首を見つけ出して捕獲して賞金を得るのはどうだい?レノ君の強さなら賞金首狩りぐらい簡単だろう?」

「……それは止めた方がいい、傭兵でもない人間が賞金首を狩れば悪目立ちする。それに賞金首を狩り過ぎると悪党から危険視されて命を狙われる事も多くなる。旅をする上で目立ちすぎるのはまずい」

「それでしたら魔物を狩猟して冒険者ギルドに素材を持ち込むのはどうですの?」

「生憎だが、この街の付近には魔物は殆ど現れないぞ……観光客が訪れやすいように冒険者や街の警備兵が出向いて魔物を狩猟しているらしいからな」



ムクチによると街の付近に魔物の姿が見えないのは観光客が訪れやすい環境を整えているためらしく、適当な魔物を倒して素材を冒険者ギルドに持ち込んで買い取って貰うのは難しいらしい。


それからしばらくは金稼ぎの方法を話し合うが、結局は良案が思いつかず、もう諦めるしかないかと諦めかけた時、ネココが良案を思いついたとばかりに窓から見える建物を指差す。



「……それなら闘技場で稼げばいい。レノの腕前なら簡単に稼げる」

「闘技場?」

「なるほど、それはいい案かもしれないね。闘技場に出場して賞金を稼ぐんだね?」

「そう、レノの腕なら大抵の魔物も人間も相手にならない」

「それはそうかもしれませんが……危険過ぎるのでは?」

「う~ん……とりあえず、その闘技場に行ってみようか」

「金が貯まったら俺の所に来い……一応は準備しておいてやる」



レノ達は一先ずは闘技場に向かい、どのような施設なのかを先に確かめて置く事にした――






――ゴノの街に存在する闘技場は「ゴノ闘技場」と呼ばれ、闘技場の名前の由来は街の名前から取ったわけではなく、この街の領主にして闘技場の創設を行った「ゴノ伯爵」の名前から取られた。ちなみに各街の名前はその街を管理する領主の家名を現しており、今までにレノが訪れた街も管理する貴族の家名でもある。


だが、ゴノ伯爵はあくまでも闘技場の所有権を持つだけで運営を行っているのは「闘技会」という組織である。闘技会はゴノ伯爵の支援の下で闘技場の運営を行い、その見返りに闘技場の売上金の一部をゴノ伯爵に献上している。年間で闘技場が稼ぐ売上金は金貨数千枚と言われ、今では国内の傭兵や冒険者が訪れる程であった。



「ここが闘技場か……何だか凄い数だな」

「それに物騒な格好をした人も多いね」

「殆どが冒険者と傭兵の様ですわね……あ、見てください。掲示板がありますわ」

「……試合の規則と試合方式が掲載されてる。これを見てどんな風に試合が行われて稼ぐのかが分かる」



レノ達は掲示板に移動すると、そこには闘技場で行われる試合の手順が記されており、その中でレノが気になったのは魔物と戦って報酬を得る方式の試合も存在する事だった。



「あ、これを見て……一定時間内に倒せた魔物の数だけ報酬が得られる試合もあるみたい」

「何々……出場する魔物の種類は無作為、その日のうちに捕獲された魔物が放出されるか……相場はゴブリン1匹なら銅貨1枚、コボルトなら銅貨8枚、オークなら銀貨3枚……随分と安いな、これぐらいの値段なら外で倒して素材を回収して売り払った方が儲かるよ?」

「……危険度が高い魔物ほど報酬が高くなっていく。ボアなら金貨1枚、赤毛熊なら金貨3枚、トロールなら金貨5枚と記されてる」

「トロール!?そんな危険な魔物まで扱っていますの!?」



トロールの名前が記されている事にドリスは驚き、その名前はレノでさえも知っている程に有名な魔物だった。体長は3メートルを越え、その腕力は赤毛熊をも一撃で殴り殺せると言われる凶悪な魔物である。外見が緑色でゴブリンと似てなくはないが、体型の方はオークのように肥え太り、その厚い脂肪は刃物さえも斬り裂けない程に厄介だと言われている。


魔物の討伐の試合方式に関しては人気はあまりないらしく、理由としては外の世界で魔物を倒して素材を回収し、自分で売り払った方が大金を得られやすいからだった。しかし、街の近辺の魔物は狩りつくされているため、魔物を自分達で倒す事も難しい状況だった。

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