第204話 カトレアの末路

「ドリス!!」

「くっ……蛇剣!!」

「無駄よ、こんな物!!」



ネココが再び蛇剣を放つが、それに対してカトレアは書斎の机を蹴り上げ、刃先に叩きつける。その結果、蛇剣は机に突き刺さってしまい、急に重量を増した蛇剣をネココは手放してしまう。



「あうっ!?」

「その魔剣の事はよく知ってるわよ、前の所有者とも知り合いだったわ」



元々はネココが所有する蛇剣は指名手配犯のヤンという男が所持していた代物であり、一時期は同じ組織に加入していたカトレアは蛇剣の能力を知り尽くしていた。そのために蛇剣の弱点も知っており、机が刺さった蛇剣は刃を引き抜かない限りは使い物にならない。



「このっ……火炎剣!!」

「うっ!?」



レノが火属性の魔石の指輪を利用して刀身に炎を纏わせると、それを見たカトレアの表情が引きつり、先日に全身に火傷を負った時の事を思い出す。しかし、レノが単独で引き起こした火炎剣はドリスの爆炎剣と比べると火力は弱く、すぐにカトレアは気を取り直す。



「ふんっ……驚かせないでちょうだい、前のと比べたら随分と弱々しい炎ね」

「このっ……嵐斧!!」

「無駄だと言ってるでしょう!!」



横向きにレノは剣を振りかざすと、その攻撃に対してカトレアは跳躍して回避する。やはり炎で攻撃されると身体が反応してしまい、回避行動に移ってしまう。


彼女は天井近くまで飛び上がると、牙と爪を伸ばして吸血鬼の本能のままにレノに襲い掛かる。その姿は最早人間ではなく、獣の姿を想像させた。



「死ねぇっ!!」

「くぅっ!?」



上空から飛び掛かってきたカトレアに対してレノは剣を構えるが、この時に書斎の扉が開かれると、白銀の剣を握りしめた少女が現れて剣を振り抜く。



「はあっ!!」

「きゃああああっ!?」

「うわっ!?」



正にカトレアがレノへ襲い掛かる瞬間、少女が振り抜いた剣から強烈な突風と氷の結晶が放たれ、カトレアの身体が壁に叩きつけられる。レノは驚いて振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。




――レノ達の前に現れたのは制服姿のセツナであり、彼女は白銀に光り輝く刃の長剣を手にしていた。先ほどカトレアを攻撃したのは彼女の魔法剣だと思われた。セツナは書斎に存在するレノ達に視線を向けると、訝し気な表情を浮かべる。




「騒がしいと思って来てみれば……これはどういう状況だ?」

「あ、貴女は……」

「セツナ様、何事ですか!?」



唐突に現れたセツナにレノは驚愕の表情を浮かべると、すぐに彼女の元に騒動を聞きつけたリンが駆け寄り、書斎の状況を見て驚いた表情を浮かべる。一方で攻撃を受けたカトレアは身体をふらつかせながらもセツナに憎々し気な表情を浮かべて怒鳴りつけた。



「くぅっ……なによ、あんた!?」

「……なるほど、吸血鬼か。見るのは久しぶりだな」

「このっ……!!」



カトレアはセツナに近付こうとした瞬間、不意に身体が思うように動かない事に気付き、驚いて彼女は自分の身体を見直すと、いつの間にか身体が徐々に凍り付いていく事に気付く。



「な、何よこれ!?」

「ああ、私の魔法剣の影響だ。直にお前の身体は凍り付く……そうすればお前達の再生能力も意味は成さないだろう?」

「そ、そんなっ……!?」



吸血鬼の再生能力はどんな怪我でも治す事は出来るが、身体が凍り付いた場合はその能力は意味をなさない。肉体が氷結化してしまえば再生能力は発動出来ず、仮にこの状態で粉々に砕かれてしまえば命を落とす。氷結化が解除されてしまってもバラバラの状態では再生も出来ずに死を迎える。


必死にカトレアは身体を動かそうとするが、徐々に身体全体が凍り始め、やがて顔の部分以外が固まってしまう。カトレアは涙を流すが、その涙さえも凍り付いてしまい、やがては情けなく悲鳴を上げながら呟く。



「嫌だ、助けて……たすけっ……!?」

「あっ……」

「死んだか」



苦悶の表情を浮かべた状態でカトレアは凍り付き、氷像と化す。その様子をセツナはつまらなそうに見ると、やがて3人に視線を向ける。彼女は仮面を装着しているレノ達を見て不思議に思う。



「お前達は……泥棒か?今時、仮面で変装とは変わっているな」

「いや、俺達は……」

「駄目!!」



レノはセツナを見て彼女も王国騎士である事を思い出し、事情を説明しようとした。だが、その前にネココが口元を塞ぐと、耳元で囁く。



(……この女がこの屋敷にいるという事は、ゴノ伯爵と繋がっているかもしれない。だから事情を話すわけにはいかない)

(えっ……あっ!?)

(隙を突いて逃げるしかない……それ以外に方法はない)



ネココの言葉にレノは最悪の事態を想定していなかった事に気付き、まさかこの状況で王国騎士のセツナと出会うとは思わず、二人は緊張した面持ちで向かい合う。そんな二人を見てセツナは黙って剣を構えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る