第203話 証拠集め
――時刻は少し前に遡り、地下通路を抜けたレノ達は遂にゴノ伯爵の屋敷の書斎に辿り着き、証拠を探す。机の中には怪しそうな物はなかったが、本棚の方を調べていたドリスが声を上げる。
「ありましたわ!!他の貴族からの手紙ですわ!!これでゴノ伯爵と他の貴族と繋がりがある事が証明されます!!」
「……こっちも、今までに賄賂を贈った人間の名前と金額が記された帳簿を見つけた」
本棚には手紙の束が隠されており、一方でネココは本棚の裏から帳簿を見つけ出す。随分と雑な隠し方だが、どちらも証拠品としては十分だった。
「証拠はこれで十分なの?」
「ええ、これだけあれば伯爵の不正と、伯爵に繋がっていた貴族達も割り出せますわ!!カジノでネココさんが見つけてきてくれた証拠も合わせれば十分ですわね!!」
「意外と上手く行った……用事を終えたのなら早く出た方がいい」
「そうですわね。ではレノさん、お願いしますわ」
「うん、わかった」
レノはアルトから借りてきた収納鞄の中に証拠品を入れ、これで荷物になる事はない。後は地下通路を抜け出して元へ来た道を引き返せばいいだけの話であり、王国騎士の立場を利用してドリスがゴノ伯爵の不正を晒せばレノの無実も証明される。
しかし、地下通路に戻ろうとした際、ここでネココは何かに気付いたように顔色を変えて視線を上に向けると、彼女は嫌な予感を浮かべる。そして二人にすぐに逃げるように促す。
「……何かやばいのがいる!!すぐに逃げて!!」
「えっ!?」
「やばいのって……!?」
ネココの言葉にドリスは驚き、遅れてレノも異様な気配を察すると、窓に視線を向ける。そこには人影が存在し、窓に向けて右腕を振り下ろすカトレアの姿が存在した。
「見つけたぁっ!!」
「うわぁっ!?」
「な、何ですの!?」
「くっ!!」
窓が叩き割られ、外から蝙蝠の翼を生やしたカトレアが部屋の中へ入り込む。その姿を見たネココは咄嗟に蛇剣を引き抜き、彼女に向けて刃を伸ばす。
「はあっ!!」
「ふんっ」
自分の顔面に伸びてきた刃に対してカトレアは腕を振り払うと、素手で刃を弾き返す。その光景にレノ達は驚き、一方でカトレアは舌なめずりを行う。彼女の腕は刃を振り払った時に血が滲むが、まるで時間を巻き戻すように傷口が塞いでしまう。
「生憎だったわね、さっき食事したばかりだから今の私の身体が精気が溢れているの……この程度の傷なら一瞬で治せるわ」
「……化物」
「酷い言われ様ね……まあいいわ、久しぶりの上物の餌が手に入りそうだわ」
カトレアは3人の容姿に視線を向け、笑みを浮かべる。少年も少女二人も容姿が整っており、しかもそのうちの二人は自分に怪我をさせた相手だと知って早くも復讐の機会が訪れた。
子供の精気をカトレアは何よりも好物としており、3人を前にした彼女は1人残らずに捕まえるために両腕を伸ばす。その様子を見てレノ達は危機感を抱き、ここで真っ先に動いたのはレノだった。
(手加減する余裕はない!!)
荒正を手にしたレノはムクチに作り出して貰った鞘に魔法腕輪から取り外した風属性の魔石を装着し、剣を引き抜くのと同時に瞬時に魔法剣を発動させ、カトレアに放つ。
「嵐刃!!」
刃を引き抜いた瞬間に風の魔力が刃に迸り、抜刀と同時に三日月状の風の刃を放つ。その攻撃に対してカトレアは一瞬だけ驚いた表情を浮かべると、自分の背中の翼を利用して身体を覆い込み、風の刃を受け止める。
「このっ……ガキがぁっ!!」
「きゃっ!?」
「にゃうっ!?」
「そんなっ!?」
風属性の魔石によって強化されているはずの嵐刃をカトレアは背中の翼で受け止めると、逆に翼を広げて弾き飛ばす。その結果、拡散した風の魔力が書斎の部屋中に拭き溢れ、本棚から次々と大量の本が落ちて派手な音を鳴らす。
満月の影響でカトレアは吸血鬼としての能力を完全に引き出せる状態であり、しかも以前の時は昼間の時間帯だったので本当の力を引き出す事は出来なかった。だからこそカトレアの実力をレノは見誤ってしまい、まさか自分の嵐刃が打ち消されるとは思いもしなかった。
(なんて硬さの羽根だ……いや、傷ついていないわけじゃない、だけどすぐに再生するんだ!!)
嵐刃を掻き消す際にカトレアの羽根は大分痛んだが、瞬時に再生を初めて元通りに戻ってしまう。つまり、生半可な攻撃では通じず、一撃で彼女を戦闘不能に追い込むほどの攻撃を与えなければならない。
そうなるとレノの魔法剣よりも火力が高い攻撃が出来るドリスが頼りになり、彼女はカトレアに近付くと、自分の得意とする魔法剣を発動させようとした。
「爆炎……!!」
「させないわ!!」
「きゃっ!?」
しかし、カトレアの前回の件もあって警戒していたのか、彼女は接近してきたドリスに対してもう片方の羽根を振り払い、彼女の身体を叩きつける。予想以上の衝撃にドリスは壁際まで吹っ飛び、彼女は床に倒れ込む。
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