第329話 鬼に金棒

「グガァッ……!?」

「お、おい見ろよ!!あいつ、苦しんでないか?」

「両足から血を流しているぞ!!」

「い、今なら……やれるんじゃないのか!?」



スカーが苦しむ光景を見て冒険者と傭兵は絶好の好機ではないかと判断し、先ほど挑もうとした戦斧を持つ巨人族の傭兵が真っ先に向かう。



「死ね、この化物がぁっ!!」

「なっ!?駄目、逃げてっ!!」

「……グガァッ!!」



金属製の棍棒を振りかざした巨人の傭兵に対し、それを待っていたかの様にスカーは目を見開くと、振り下ろされた棍棒を受け止めてしまう。武器を掴まれた巨人の傭兵は驚愕の表情を浮かべ、慌てて振り払おうとした。


人種の中では最も体格と力に恵まれているはずの巨人族だが、スカーはその巨人族を遥かに上回る膂力を持ち合わせ、棍棒を掴んだ巨人の身体ごと持ち上げる。棍棒を掴んだ状態で巨人の傭兵は自分ごと持ち上げたスカーの腕力に動揺する。



「ば、馬鹿な……そんな、あり得ない!?」

「グガァアアアッ!!」

「うわぁあああっ!?」

『ぎゃああっ!?』



棍棒を奪い取る際にスカーは巨人の傭兵を振り払うと、巨体が空中へと放り出されて冒険者と傭兵の元に突っ込む。その結果、数名の人間が巨人に押し潰されてしまう形となり、一方でスカーは棍棒という武器を手にした。



「ギアアアッ……!!」

「ひいっ……あ、あいつ、武器を手にしたぞ!?」

「何てことを……は、早く魔術師を呼んで来いよ!!」

「無理よ!!この街の魔術師の殆どは南側の城壁へ向かったのよ!?」



現在この街に滞在している魔術師は南側で出現したホブゴブリンとゴブリン、更に魔獣の対応を行っており、魔術師を呼び寄せる暇はない。そのため、スカーに対応できる魔術師は存在しない。


スカーの目的は南側に街の戦力を集めさせ、その間に北側から自分は街に乗り込み、挟み撃ちを行う形で街の戦力を潰す予定だった。北と南側から攻め上げる事で街に滞在する戦力を一人残さずに潰す、それがスカーの計画だった。



「グガァアアアッ!!」

「うわぁっ!?」

「こ、こっちに来るな!!」

「くそ、やるしかないんだ!!戦えっ!!」



巨人族ですらも両手で持って扱う程の重量の棍棒をスカーは軽々と片腕で振り回し、冒険者と傭兵の元へ向かうl。その光景を見て皆が怖気づく中、一人の冒険者が前に出るとスカーへと向かう。



「喰らえ、俺の戦技をっ!!旋風……!!」

「フゥンッ!!」

「があっ!?」



獣人族の冒険者が剣を横向きに構え、必殺の剣技を放とうとしたが、それに対してスカーは棍棒を振りかざし、叩き飛ばす。その結果、獣人族の冒険者の肉体は吹き飛ばされ、近くの建物へとめり込む。


体格と腕力が巨人族を上回るスカーが武器を手にした事により、正に「鬼に金棒」であった。その姿を見て他の人間が怯える中、ネココだけはスカーの背後へ向けて蛇剣を放つ。



「貴方の相手は……私!!」

「グガァッ!?」



蛇剣の刃が背中を切りつけ、更には傷を負った足を狙う。背中の方は刃を弾いたが、傷口を更に刃で抉られた事でスカーは悲鳴を漏らし、憎々し気に建物の屋根の上に立つネココを睨みつけた。



「ガアアッ!!」

「何をっ……にゃうっ!?」

「う、嘘だろおい!?」



スカーは棍棒を振りかざすと、ネココが立っている建物に目掛けて振り翳し、あろう事か建物の壁を崩壊させるほどの強烈な一撃を叩き込む。その結果、建物に強い衝撃が走り、屋根の端に立っていたネココは危うく落ちかける。


咄嗟に屋根に手を伸ばして落下だけは免れたが、そんな彼女に対してスカーは崩壊した建物の破片を拾い上げると、屋根に掴まっているネココに対して破片を放つ。



「ギアッ!!」

「くぅっ!?」



迫りくる建物の破片を確認してネココは咄嗟に手を離して避けるしかなく、落下の際中に彼女の頭上に建物の破片が通り過ぎた。かなりの高さなので着地に失敗すると命が危うく、ネココは落下の際中に蛇剣を壁にこすりつけながら落下の勢いを減速させた。


壁を蛇剣の刃で削り取るように落下速度を落とす事に成功したが、それでも着地の際は受身を取り、衝撃を最小限に抑える。暗殺者ならではの反射神経のお陰でどうにか肉体は最小限の損傷で抑える事は出来たが、その様子を見てスカーは地上に降りたネココへゆっくりと歩み寄る。



「グガァアアアアッ……!!」

「くっ……まだ、戦える!!」

「む、無理だ!!もう逃げろ!!」

「殺されるぞっ!?」

「くそっ、どうすればいいんだ……!!」



ネココは勝利を確信したかの様に余裕の態度を浮かべて自分の前に立つスカーに武器を構えるが、この時に兵士や冒険者達は動く事が出来ず、言葉を賭ける事しか出来ない。


スカーのあまりの迫力に彼等は完全に怯えきっており、援護を行う事も出来なかった。そして遂にスカーはネココに止めを刺すために棍棒を振りかざそうとした時、ここでスカーの足元に何かが転がり込んできた。

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