第328話 心眼覚醒

「グガァッ!!」

「くっ!?」



スカーの両手から放たれた血液をネココは浴びてしまい、彼女は視界を奪われてしまう。それでもどうにか着地に成功した彼女は目元を覆い、こびり付いた血液を振り払おうとした。



「くっ……!?」

「ま、まずい!!嬢ちゃん、避けろっ!!」

「殺されるぞ!?」

「グガァアアッ……!!」



兵士の言葉とスカーの鳴き声を聞いたネココは背筋が凍り付き、反射的にその場を離れようとした。だが、運が悪い事に彼女は建物の傍に着地したらしく、後ろに跳ぼうとしたら背中が建物の壁に衝突してしまった。



「あうっ!?」

「ガアアッ!!」

「や、やばい!!避けろ!!」

「死んじまうぞ!?」



建物の壁に衝突したネココは悲鳴を漏らし、この時にスカーは彼女に近付いて腕を伸ばす。このままネココは捕まるかと思った兵士達は悲鳴を上げるが、ここでネココに異変が生じる。



(……何、この感覚!?)



ネココは目が封じられた状態でありながらも彼女は気配だけでスカーの動作を捉える。視界が暗闇に覆われた状態の中でもネココは何故かスカーの行動を読み取り、自分に対して腕を伸ばしている事を感じ取った。


咄嗟にネココは蛇剣を上に伸ばすと、刃を伸ばして建物の屋根を貫き、刀身を戻す事で彼女は上の方へ避難を行う。その様子を見てスカーは驚き、目が封じられているのに自分の行動を把握しているように避けた彼女に戸惑う。



「グガァッ!?」

「……なるほど、これが心眼……確かに便利」



自分の身体の異変にネココはいち早く気付き、かつて彼女は「無音剣のキル」という剣士と戦った際、レノに救われた事を思い出す。キルはネココと同様に存在感を消して戦う事を得意としており、存在感を消した彼は目では取られきれない。


しかし、キルとの戦闘でレノは風の魔力を利用する事で相手の位置を捉える方法を思いついた。彼の師匠であるロイによると、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる事で敵の位置を捉える「心眼」と呼ばれる技能が存在し、この能力をネココは窮地に陥った事で覚醒させた。


レノの場合は風の魔力を利用して相手の位置を捉えるしかないのに対し、ネココの場合は感覚を研ぎ澄ます事でより他の生物の気配を感じ取れるようになり、特にスカーのような強大な力を持つ存在を捉える事など容易かった。



(これが心眼、気に入った……これなら問題なく戦える)



屋根の上に移動したネココは目元をマントで拭うと、この時に彼女はマントが血で染まっている事を知り、もうこれでは暗闇の中に紛れる事は出来ない事を知る。



(まさか、さっきの血は目潰しが目的じゃない?私のマントを汚す事で暗闇に隠れられないようにした……それが本当ならあいつ、前のゴブリンキングよりも厄介な奴)



自分のマントがもう使い物にならない事を理解したネココは仕方なく投げ捨て、改めてスカーと向かい合う。マントがない状態では存在感を消しても完璧には暗闇には溶け込めず、しかも血を浴びた際にネココの身体には独特の血の臭いがこびり付いてしまった。



(……もう隠れる事は出来ない。だけど、ここで退くわけにはいかない)



敵も無傷ではなく、ネココが与えた両足の傷の影響を受けていないはずがない。しかも自分から傷口を開いた事でより傷は深まったはずであり、スカーもまたネココを警戒したように見上げる。


屋根の上から見下ろすネココと地上から見上げるスカーの光景に兵士達は固唾を飲み、次に二人がどのように動くのかと観察していると、ここで騒動を聞きつけたのかやっと冒険者と傭兵が街道から駆けつけてきた。



「お、おい!!あれを見ろ、あいつゴブリンキングじゃないのか!?」

「馬鹿な!?どうして街の中に!?」

「ゴブリンキングは仕留めたんじゃなかったのか……いや、あの傷跡、まさかあいつが例の噂の……!?」

「グゥウウウッ……!!」



駆けつけてきた冒険者と傭兵の集団はスカーの存在を確認して動揺を隠せず、数日前に倒したと思われたゴブリンキングが存在し、しかも街中に侵入まで許していた。更にゴブリンキングの正体がこの街の冒険者の間では恐れられているスカーだと知り、彼等は混乱しても仕方がない。


一方でスカーの方は援軍が現れた事で取り乱した様子もなく、それどころか駆けつけてきた冒険者や傭兵を確認する。誰もがスカーの威圧感に怯える中、巨人族の傭兵が前に出ると、手にしていた金属製の棍棒を構えた。



「ご、ゴブリンキングが何だってんだ!!前に見た奴よりは小さいだろうが!!」

「あ、おい!?」

「待て、迂闊に近づくのは危険だ!!ここは魔術師の魔法で攻撃した方が……」

「そんな都合よく魔術師が現れるわけないだろうが!!」



巨人族の傭兵が前に出ると他の者が止めようとするが、それを見たスカーは何を考えたのか、唐突に両足を抑えつけて苦しげな声を上げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る