第330話 僕がいる事を忘れてないかい?
「ギアッ……!?」
「っ……!?」
足元に違和感を感じたスカーは視線を向けると、そこには樽が存在する事に気付く。どうしてこんな場所に樽が存在するのかと疑問を抱いたスカーだったが、すぐに樽のデザインを見て驚愕の表情を浮かべた。
彼の足元に転がってきたのは先日の決闘の際、自分の親であるゴブリンキングを吹き飛ばした際に利用された物と同じ外見をしている事に気付く。戦闘の最中だったのではっきりとは覚えていないが、大きさも形状も同じ程度だった。
「気を付けろ、爆発するぞぉっ!!」
「この声はっ……!?」
「グガァッ!?」
近くから人の声が聞こえ、スカーとネココは同時に振り返ると、そこには建物の路地裏にて両手に松明を掲げる「アルト」の姿が存在した。右手に握りしめていた松明を振りかざすと、スカーの足元へ目掛けて放つ。
自分の足元に転がった樽、そして松明を投げつけられた光景を見てスカーの脳裏に火炎に飲み込まれたゴブリンキングの光景が思い浮かぶ。スカーは樽と松明が衝突した瞬間、自分が火炎に飲み込まれる姿を想像し、先ほどまでと態度を一変させて慌てて距離を取る。
「ギアアアッ!?」
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
「くっ……!!」
スカーが尋常ではない様子でその場から逃れる光景に他の人間達は戸惑い、咄嗟にネココは身を守るように身体を丸める。だが、アルトの投げた松明は樽に当たった瞬間、樽に火が燃え移ったが爆発する様子はなく、ここでネココは中身が入っていない事に気付いた。
「……まさか、空?」
「あっはっはっはっ!!騙されたね、それは偽物だよ!!」
「ギアッ……!?」
中身が入っていない樽に松明が引火しても爆発するはずがなく、そのまま樽が燃えていく光景を確認したスカーは動揺した表情を浮かべる。その間にもアルトはネココの元へ駆けつけ、彼女に回復薬を渡す。
「ほら、これを飲むんだ。僕が調合した回復薬だよ」
「……ありがとう、助かった」
「ふふふ、それにしてもこんな何も入っていない空樽をあんなに怯える辺り、どうやら相当に樽爆弾に恐怖を抱いているようだね」
「……グガァアアアアッ!!」
自分が騙された事を知ったスカーは怒りの咆哮を放ち、回復薬をネココに渡すアルトに襲い掛かろうとした。だが、そんなスカーに対してアルトは小さな壺を取り出すと、中身を放つ。
「これでも喰らえっ!!」
「ギアッ!?」
「目潰し……!?」
壺の中身は赤色の粉末が入っており、それを振りまくようにアルトは放つと、粉末を浴びたスカーは動きを止める。だが、ここでスカーは粉末を浴びた際に違和感を感じ取り、なぜか粉末の一粒一粒が光り輝いているように見えた。
実を言えばアルトが放った粉末はただの粉末ではなく、火属性の魔石を磨り潰して作り出した者だった。通常、魔石を無理やりに破壊すれば内部の魔力が暴発してしまうが、時間をかけてゆっくりと削り取れば魔力は暴発せず、爆発する事はない。
「今度は本物だよ……燃えろっ!!」
「ギアッ……!?」
「にゃうっ!?」
アルトはもう片方の松明を放り投げると、即座に自分が纏っていたマントを利用してネココと自分自身を覆い込むと、直後に松明がスカーの肉体に触れた。
スカーの肉体にこびり付いていた火属性の魔石の粉末が松明の火に反応し、スカーの全身に炎が燃え移る。火薬以上の可燃性が高い火属性の魔石の粉末によってスカーは父親と同様に全身が火だるまと化す。
――グギャアアアアアッ……!?
父親と同様に火炎に全身を包み込まれたスカーの悲鳴が街中に響き渡り、その炎に巻き込まれないようにアルトは事前に購入して落いた耐火性の高いマントで身を防ぐ。
全身に炎が燃え移ったスカーは苦しみもがき、必死に炎を振り払おうとするが魔法の炎は簡単には消せない。仮に水場に飛び込んでもしばらくの間は燃え続けるため、絶好の好機であった。
「い、今だ!!奴に矢を打て!!」
「仕留めるなら今しかない!!なんでもいい、とにかく投げろっ!!」
「くたばりやがれっ!!」
状況はよく分からないが、炎で苦しんでいるスカーに対して兵士と冒険者と傭兵達は矢を放ち、武器を投げ込む。スカーが炎で苦しんでいる今の内に攻撃を仕掛け、なんとしても仕留めようとした。
「……アルト、ありがとう。後は任せて」
「ネココ、大丈夫かい?」
「問題ない……これで終わらせる」
マントで自分を守ってくれたアルトにネココは頷くと、彼女は蛇剣と短剣を両手に構える。そして火だるまと化したスカーの元に目掛けて突っ込み、彼女が繰り出せる最大の戦技を放つ。
「十字剣!!」
『アガァッ……!?』
スカーの首筋に目掛けてネココは飛び掛かると、二つの刃を重ね合わせた状態で切り裂き、確実に致命傷となり得る深手を負わせる。やがて魔石の効果が切れたのか、スカーの全身を纏っていた炎が消え去り、やがて地面に倒れ込む――
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