第331話 スカーの最期
「……勝った?」
「ネココ、無事かい!?」
倒れたスカーを確認したネココは膝を突き、最後の攻撃で彼女は体力を使い果たす。そんな彼女の元にアルトは駆け寄り、彼女に肩を貸して立ち上がらせる。
二人は倒れ込んだスカーの元へ向かい、他の人間達も近寄る。黒焦げと化したスカーの首筋にはネココが切り付けた傷跡が存在し、確実に致命傷だった。スカーは動く様子はなく、その様子を見て兵士の一人が槍を恐る恐る突き刺す。
「ど、どうだ……?」
「死んでいる、のか?」
「……反応がない、もう事切れている」
「やった、のか……」
スカーの死を確認したネココ達はその場にへたり込み、喜びよりも疲れが一気に押し寄せてきた。まさか、ゴブリンキングと化したスカーを自分達だけで仕留める事が出来たという事実にネココもアルトも驚きを隠せない。
「アルト、ありがとう……でも、どうしてここに?」
「たまたまだよ、ちょっと寝付けなくて外を散歩しようとしていたら迷子になってね、偶然にも騒ぎを聞きつけてきたら君が戦っている所を見たんだよ」
「……なら、あの樽は?」
「それは偶然、近くの酒場の裏に置いてあったものを拝借したのさ」
アルトはここへ訪れたのはただの偶然だったらしく、彼がスカーが乗り込んできたのを知ったのはネココ達と応戦する姿を見て初めて認識する。アルトはネココを助けるため、咄嗟に酒場から空の樽を拝借し、援護に駆けつけたという。
樽爆弾でゴブリンキングが敗れる姿をスカーが目撃しているという話はアルトも聞いており、その話を知ったアルトは中身が空の樽でもスカーに見せつければ動揺するのではないかと考えた。作戦は見事に的中し、偶然にも樽のデザインがゴブリンキングを倒した時に使用された樽と同じ立ったことが幸いした(大きさに違いはあるが)。
この数日の間にアルトもゴブリンの群れが街に乗り込む事を想定し、自身を守るために戦う手段を身に付けるため、彼は火属性の魔石を粉末にした代物を身に付けていた。これが幸いしてスカーを燃やす事に成功し、もしも彼も立派に勝利に貢献したのは間違いない。
「あ、あの……君達のお陰で助かったよ。本当にありがとう」
「こんな化物を倒せるなんて……君達、もしかして腕利きの冒険者かい?」
「……違う、私はただの傭兵」
「僕は学者さ」
「が、学者……?」
ネココはともかく、アルトの学者という言葉に他の者は戸惑い、どうして学者がこんな真似をできるのかと不思議に思う。だが、ここでアルトは改めてスカーの死骸を確認し、南側の城壁へと視線を向ける。
「さて、まだ終わってはいないよ。いくら群れの主を倒したと言ってもまだ終わっていないんだ。すぐに南側で戦っている者達の援護に向かうんだ!!」
「そ、そうだ!!南の城壁は無事なのか!?」
「くそっ、急げお前等!!」
アルトの言葉に慌てて全員が立ち上がり、スカーを倒しても全て解決したわけではない。現在も南の城壁では戦闘が繰り広げられているはずであり、うかうかとしていられない。
急いで動ける人間は南側の城壁の援軍として向かい、魔物の群れの対処に向かう。ネココもアルトの肩を借りながら移動しようとしたが、ここで彼女はスカーへ振り返る。
「…………」
「ネココ、どうかしたのかい?」
「……何でもない」
スカーを倒したにも関わらず、ネココは何故か嫌な予感を抱いていた。魔物の群れの主を倒した以上、最大の脅威は去ったはずだった。だが、それなのに彼女の優れた直感がまだ街の危険は去っていない事を告げていた――
――そのネココの直感は間違ってはおらず、南側の城壁の方では思いもよらぬ事態に陥っていた。
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