第315話 新たなゴブリンの王

「スカーという個体がゴブリンキングの子供だという確証はない、だが現在の魔物の軍勢がただのホブゴブリンであるはずのスカーに従っているとしたら、その可能性も否定は出来ないんだ」

「だからどうしたってんだ!!結局はゴブリンキングを倒しても奴等は解散しなかった、状況は何も変わってないじゃないか!!」

「落ち着くのだ!!ゴブリンキングという脅威がいなくなったのだ、あのゴブリンキングさえいなくなればこの城壁が突破される事はあり得ん!!王都から派遣されるはずの援軍が到着するまで持ち堪えれば我々の勝利だ!!」



ゴブリンキングという最大の脅威が消えた以上、シチノの城壁を魔物の軍勢が突破する可能性は限りなく低く、籠城戦に徹すればシチノが落とされる事はあり得ない。ゴブリンキングさえいなければ城壁が破壊されて街中に乗り込まれる可能性は限りなく低い。


今回の作戦は魔物の軍勢こそはどうしようもなかったが、ゴブリンキングという敵の親玉を倒す事には成功した。成果としてはそれだけでも十分であり、結果から言えば一人の犠牲も出さずに敵の最大戦力は減らした。



「作戦は失敗に終わったが、ゴブリンキングはもう死んだ!!ならばあとは魔物の軍勢から街を守り切ればいいのだ、何も問題はない!!むしろ我々の勝利と言えるだろう!!」

「そ、そうか……街を守るだけならなんとかなるか」

「それだけならなんとかなりそうね……」



シチノは歴史上では他国の軍勢が攻め寄せてきたときも陥落した事はなく、難攻不落の要塞としても名が知られている。王都から派遣されるはずの援軍が到着するまで持ち堪えれば勝利は確定している。


だが、ゴブリンキングが死亡したにも関わらずに魔物の軍勢を統率する存在がいた事に対し、誰もが不安を感じていた。もしかしたらゴブリンキングに匹敵する恐ろしい存在がまだ残っているのではないかと――






――同時刻、魔物の軍勢は城壁から引き返すと、ホブゴブリンの集団が集まっていた。ホブゴブリン達は自分達の新たな「主」となったスカーの前に立ち止まると、その場で膝を着く。



『グギィッ!!』

「……グギギッ!!」



スカーは自分の前に跪いたホブゴブリンの群れに視線を向け、腕を組んだ状態で見下ろす。やがて彼はゴブリンキングの死骸に視線を向け、ゆっくりと歩み寄る。



「ギギギッ……!!」



自分を生み出した「親」の無残な姿を見てスカーは目を閉じると、やがて口元に笑みを浮かべて焼け焦げたゴブリンキングの死骸に手を突っ込む。その光景に他のゴブリンやホブゴブリンは目を背けるが、スカーは嬉々とした態度でゴブリンキングの胸元に手を伸ばす。


魔物の中には竜種のような存在は体内に「核」と呼ばれる魔石を保有するが、実を言えばゴブリンキングも同様に体内に特殊な魔石を身に宿している。この核と呼ばれている魔石は魔物の力の源でもある。



「グギィイイイッ……!!」



元は父親であるゴブリンキングの死骸から核を引き抜くと、スカーはそれを迷いもなく口元に移動させ、噛み砕く。通常であれば魔石を破壊すれば暴発するが、この魔物の核だけは別であり、噛み砕いても魔力が暴発する事はない。


魔石を口の中で租借しながらひとかけらも残さずに飲み込むと、徐々にスカーの肉体に異変が生じ始める。肉体が徐々に肥大化し、筋肉や骨さえも膨れ上がっていく。



「グギッ……ギァアアアッ!!」



スカーは苦痛の声を上げながらも徐々に「進化」を始め、もう間もなく新しいゴブリンの王が誕生しようとしていた――






――シチノの脅威は完全には去っておらず、この数日後に街は更なる脅威に襲われる事になる。

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