第314話 ゴブリンキングの後継者
アルトとタスク侯爵はレノ達の元へ赴き、全員が無事であるのを確認すると安堵するが、城壁の外に押し寄せた魔物の声を耳にして作戦が失敗した事に気付く。
「……ゴブリンキングの討伐は果たせたのかい?」
「それは……」
「私達はゴブリンキングを倒しましたわ!!それは間違いありません、ですけど……」
「ゴブリンキングを倒しても魔物の軍勢は解散しなかったか……」
城壁の外には大量の魔物が押し寄せており、既に城壁の上では兵士達が対処を行っていた。弓兵は矢を放ち、他の兵士は投石や丸太を投げ落とす音が響く。
「くそ、さっさと離れろ!!」
「弓兵!!もっと早く撃て!!」
「いい加減にしやがれ!!」
兵士達の必死の防衛によって城壁に集まっていた魔物の軍勢は徐々に撤退を始め、ゴブリンキングが存在しなければ魔物の軍勢だけではこの街の堅固な城壁は簡単には突破できない。
隊長格であるスカーが鳴き声を上げると、それに魔物の軍勢は従い、南側の城壁から撤退した。その様子を確認した兵士達は安堵するが、ゴブリンキングを倒しても魔物の脅威はまだ逃れられない事が確定した。
「畜生!!ゴブリンキングが死んでも奴等はこの街を諦めるつもりはないのかよ!!」
「折角終わったと思ったのに……」
「おい、アルトとか言ったな!?あんたの作戦通りにやれば上手く行くはずじゃなかったのか!?」
「……すまない」
作戦の立案者であるアルトの元に討伐隊は駆けつけ、口々に彼に文句を告げた。アルトとしてもゴブリンキングさえ倒せば魔物の軍勢は勝手に同士討ちを行い、自滅すると思っていたのだが、この展開は予想できなかった。
討伐隊に志願した者達からすれば作戦が失敗した事で自分達は何のために命を賭けたのかという思いを抱くのも仕方がなく、彼に不平不満をぶつけなければ気が済まない。それはアルトも理解しているので言い訳せずにいたが、その様子を見兼ねてタスク侯爵が声をかける。
「待ってくれ!!彼の作戦を許可したのは儂だ、ならば責任は儂にもある!!」
「こ、侯爵……」
「その通りですわ、それに作戦を実行したのは私です。責めるのならば私を責めてください!!」
「いや、いいんだ。元々、僕がこんな作戦を考えなければこんな事には……」
タスクとドリスがアルトを庇うように前に出ると流石に領主と王国騎士を相手に堂々と不満を告げる程の度胸を持つ人間はおらず、渋々と引き下がった。しかし、ここでレノが前に出るとアルトに尋ねた。
「アルト、ゴブリンキングを倒した時にあの隻眼のゴブリンが今度はゴブリンキングの代わりに魔物達を従えた。これはどう思う?ゴブリンキング以外の存在に魔物達が従うなんてあり得るの?」
「……俄かには信じがたいが、もしかしたらそのホブゴブリンはゴブリンキングの後継者かもしれない」
「後継者?」
「あくまでも僕の予想だが、そのホブゴブリンとやらはゴブリンキングの子供かもしれない」
「ゴブリンキングの……子供!?」
レノ達はアルトの言葉に動揺するが、魔物の知識に詳しいアルトは腕を組みながら自分の推測を告げる。どうして統率者であるゴブリンキングが死んだ途端、ホブゴブリンであるはずのスカーが統率者になれたのか、それは血の繋がりが原因かもしれなかった。
「ゴブリンキングは成体に進化を果たすと、子供を為す能力を失う。これは自分だけがゴブリンの王として君臨するため、子供を作り出す器官を犠牲にして強さを得るという説がある。まあ……そもそもあんな巨体のゴブリンを相手にする番が存在するのかも怪しいが……」
「そ、そうなんですの……」
アルトの話に「番」という言葉が出てきてドリスは頬を赤く染めるが、レノは先ほどのアルトの話と矛盾している事を指摘する。
「待ってよ、それだとおかしいよ。さっき、アルトはあの隻眼のゴブリン……ここではスカーと呼ばれる魔物がゴブリンキングの子供かもしれないと言ってたでしょ?」
「ああ、その通りだ。厳密に言えば、ゴブリンキングに進化を果たす前のホブゴブリンが子供を作り出していた可能性がある」
「ホブゴブリンが子供を……?」
「ゴブリンキングに進化を果たす前の状態、つまりはホブゴブリンの状態ならば子供は作り出せるはずだ。普通、魔物は上位種に進化する度に子供を作り出す器官は失われるか、あるいや弱まっていくんだが、ホブゴブリンの場合はまだ完全には子供を作り出す器官は失われないはずだ」
「という事は……そのスカーとやらはゴブリンキングとなったホブゴブリンの子供の可能性があるという事ですの?」
「その通りだ。だからこそ、ゴブリンキングは自分の息子に魔物の軍勢を任せていたのかもしれない」
「そんな馬鹿な……」
「有り得るのか?そんな事……」
話を聞いていた者達はアルトの推測に半信半疑であり、アルト自身も自分の推察が正しいという確証はなかった。ゴブリンキングとスカーが親子の関係だという証拠はなく、あくまでも推測に過ぎない。
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