第316話 収納石の中身

――ゴブリンキングの討伐を果たしてから翌日、ここで思いもよらぬ事態が発生した。それは城壁の南側で待ち構えていたはずの魔物の軍勢が忽然と消え去り、1匹残らず姿を消してしまった。


この急変に街の人間達は戸惑い、消えてしまった魔物達の捜索を行うべきか話し合いが行われた。魔物の軍勢が一夜で消えた事で様々な推測が行われ、中にはアルトの読み通りに魔物の同士が争い合い、勝手に自滅したのではないかと考える者もいた。


だが、魔物の群れが消えたのは罠である可能性もあり、捜索に赴いた人間達を狙っているのではないかと考え、捜索隊は派遣せずにタスク侯爵は街の防衛に専念する。最初の内は街の人間達も魔物の軍勢の脅威を恐れ、街の外には出ようとしなかった。


しかし、そこからさらに4日が経過しても特に何も変わりはなく、シチノの城壁には魔物が1匹も攻め寄せる事はなかった。こうなると本当に魔物同士が争い合い、ゴブリンキングの残党は死んでしまった可能性も考慮しなければならない。



「やはり、ここは捜索隊を派遣するべきだと思いますわ」

「しかし、王都の援軍が辿り着くまであと数日……このまま籠城を続ける方が良いのではないでしょうか?」



連日のようにタスク侯爵の屋敷には人間が集まり、今後の話し合いが行われていた。ドリスは捜索隊を派遣して魔物の軍勢の足取りを今からでも探るべきだと主張し、タスク侯爵は籠城を続けて王都の援軍が到着するまで持ち堪える安全策を続けるべきだと主張する。



「街の住民の中にも不満を申す者も現れ始めています。特に外部から避難した人間は村に帰りたいという者もいます」

「もう奴等はいなくなったのでは?ゴブリンやホブゴブリンといっても所詮は魔物……ゴブリンキングさえいなくなれば奴等に他の魔物を従えさせる力はなかったんですよ」

「街の住民も街の外に出る事も出来ず、不安を抱いている人間も多いようです」



二人の他にも街の人間の代表が集まり、現時点の状況を良しとは思わない者も多数存在した。魔物の軍勢という脅威が存在した時は籠城を行う事に賛成していた人間達も魔物の軍勢が消えた事により、これ以上に街に引きこもる理由を見出せず、不満を抱き始める人間も増え始めていた。



「侯爵の気持ちは分かりますが、王都の援軍が到着するまでの正確な日数は分かりません。ここはやはり、捜索隊を派遣して魔物の軍勢がどうなったのかを探るべきですわ」

「むむむ……」

「侯爵、街の人間も不安を抱いております。魔物の軍勢が本当にいなくなったのであればもう城門を封鎖する必要もありません、ここはドリス様の言う通りに魔物共の捜索を行うのが最良かと……」

「我々も同意見です」



ドリスの提案に侯爵以外の人間達も賛同し、この街の管理を任されているタスク侯爵が納得しない限りは勝手に捜索隊を派遣する事は出来ない。タスク侯爵は不安を覚えながらも皆の意見が一致しているのであれば反対は出来ず、その意見に従う。



「分かった……皆がそこまで言うのであれば捜索隊を派遣し、周辺地域の様子をしらべさせよう。だが、もしも魔物の軍勢が確認出来た場合は援軍が到着するまでの間は籠城を続ける。それでよろしいですな?」

「ええ、当然ですわ。捜索隊は冒険者に任せましょう、私も参加したい所ですが……」

「何を言われますか!!魔物の捜索など冒険者に任せればよいのです!!王国騎士様がわざわざ出向く必要などありません!!」

「今は立場など関係ありませんわ……といっても、この地域に詳しくない私が出向いても邪魔になる可能性もありますわね。仕方ありません、捜索隊はこの街の冒険者にお任せしますわ」



捜索隊に関しては魔物退治の専門家にしてこの地域に詳しい冒険者に任せる事が決まり、会議を終えるとドリスはレノ達の元へ向かう――






――最近のレノ達はアルトや他の学者と共に行動する事が多く、その理由は例の金属の箱に収められていた「収納石」に関する事だった。この収納石をゴブリン達が探し求めているのは間違いなく、理由は不明だがこの収納石の中身をゴブリンが狙っている事は確かだった。


収納石は異空間に物体を保管する魔石であり、合言葉さえ分かれば異空間に収めている道具を取り出す事は出来る。だが、その合言葉が分からない以上はどうしようもなく、この数日の間にアルトたちも収納石の中身を確認するために色々と試していた。



「兜割り!!」



屋敷の裏庭にてレノは机の上に置かれた収納石に対して荒正を振り翳し、風属性の魔力で最大速度まで加速した一撃を叩き込む。だが、収納石は壊れるどころか罅割れる様子もなく、剣を叩きつけた際の衝撃で机が壊れてしまう。



「ど、どう?」

「……罅一つも入っていない」

「やっぱり、壊して中身を解放するのは難しいか」

「な、何をしているんですの!?」



机の残骸の中からネココは収納石を拾い上げるが、罅すらも入っていない事を告げるとアルトは難しい表情を浮かべ、その様子を目撃したドリスは呆気に取られながらも問い質す。

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