第63話 傭兵のネココ、巨人族の戦士ナオ

「あ、俺の剣!?いつの間に……」

「ふっ……どう?これで私の実力が分かった」

「うっ……」



ネココはレノから盗んだ剣を帰すと、自慢気に答える。武器を奪われただけではなく、背後を取られた時点でレノの敗北だった。これが実戦ならばネココはレノを簡単に殺せただろう。


全く気配を感じさせず、しかも一瞬で背後を取られた事にレノもネココの実力を認めるしかなく、彼女の実力を認めるしかなかった。その様子を見てアルトは満足そうに頷き、二人の腕を掴む。



「ほら、仲直りの握手だ。レノ君もネココの実力はよく分かっただろう?」

「ま、まあ……でも、その年齢で傭兵なんて本当なの?」

「……私は10才の頃から傭兵として生きてきた。こう見えても結構な修羅場を潜り抜けている。君とは違う」

「うっ……」



実力を見せつけられた以上はレノもネココの言葉を信じるしかなく、歴戦の傭兵並の実力を持っているのは確かだった。その一方でネココの方はレノの顔に視線を向け、何か考え込む。



「…………」

「えっと、どうかした?俺の顔に何かついている?」

「別に……女の子みたいな綺麗な顔だと思っただけ」

「ええっ……」

「ははは、それは僕も思ってたよ。最初に見た時は女の子と思ったぐらいだ」

「アルトさんまで……というか、アルトさんにだけは言われたくないんですけど」

「おっと……これはやぶへびだったかな」



レノはアルトに呆れた表情を浮かべ、彼も男性とは思えぬほどに整った顔立ちをしている事を指摘する。アルトは苦笑いを浮かべながらも辺りを見渡し、もう一人の協力者を待つ。



「ふむ、あと一人はまだか……ネココ、君はみていないのかい?」

「知らない……別に仲がいいわけじゃない」

「ふむ、困ったな。そろそろ行かないとならないんだが」

「あ、それって……もしかして時計ですか?」

「ん?もしかして見るのは初めてかい?これは懐中時計だよ」



アルトは懐中時計を取り出し、困った表情を浮かべるとレノは物珍しそうに覗き込む。この世界では時計は貴重品として扱われ、懐中時計のような持ち運びできる時計など貴族ぐらいしか所持していない。


懐中時計を確認して時刻を計ったアルトは困った表情を浮かべ、もうそろそろ出発しなければならないのだが最後の一人が未だに姿を見せない。最後の一人が来なければ出発は出来ないため、アルトはネココに話しかける。



「ネココ、悪いけれど彼女を探してきてくれるかい?」

「……護衛の依頼とは別料金を貰うけど、いいの?」

「構わないさ、すぐに見つけて連れ出してきてくれたら金貨1枚支払おう」

「了解」

「うわっ!?」



ネココはアルトの言葉を聞くと一瞬で姿を消し、慌ててレノは周囲を見渡すと、彼女は何時の間にか近くにあった大きな建物へと移動していた。



(あの一瞬であんな場所まで……本当に凄腕の傭兵かもしれない)



レノはネココの姿を見て驚いていると、彼女は何かに気付いた表情を浮かべ、川を渡る橋を指差す。橋の方に全員が視線を向けると人影が存在し、随分と身長が高い女性が大きな黒馬を引いていた。



「おや、あそこにいたのか。レノ君、彼女が最後の一人だよ」

「え、あの人が……」

「巨人族の女戦士、ナオだ」

「待たせたな」

「ヒヒンッ!!」



黒馬を連れて現れたのは身長が2メートル近く存在する女性だと判明し、レノは自分よりも30~40センチは大きいナオを見て驚く。ニノの街の冒険者ギルドのギルドマスターであるテンも大きかったが、彼女もそれに負けないぐらいの体躯を誇る。


ナオは引き連れている馬も通常の馬よりも二回りは大きく、ウルと比べてみても相当な大きさだった。黒馬はウルを見下ろすと、鼻を鳴らす。



「ブフゥッ……!!」

「グルルルッ……!!」

「ちょ、こらウル!!喧嘩するな!!」

「止めろ、コクヨウ」



ウルとコクヨウと呼ばれた黒馬は睨み合い、そのまま喧嘩に発展しそうになったので慌ててレノとナオは引き留めると、2匹の間にネココが割り込む。彼女はウルとコクヨウの顔に触れ、一言告げる。



「喧嘩は駄目」

「ウォンッ……」

「ヒィンッ……」



ネココの一言にウルとコクヨウは黙って引き下がり、主人である自分やナオの言葉よりもネココに一言で下がった事にレノは驚く。その一方でアルトは興味深そうな表情を浮かべ、ナオが従えるコクヨウに視線を向けた。



「ほう、これが噂に聞く巨人族が愛用するバトルホースという名前の魔獣かい?知識はあるが、実物を見るのは初めてだよ」

「その通りだ……あまり近づくな、こいつは気性が荒い」

「ああ、バトルホースは自らが主人を認める相手にしか背中を預けないんだったね」

「ブフゥッ!!」



コクヨウと名付けられたバトルホースは元々は巨人族の領地に生息する魔物らしく、この地方には元々存在しない魔物だった。バトルホースはウルと火花を散らしながらもナオのいう事を聞き、大人しくしていた。


こうしてレノ、ネココ、ナオの3人が集まるとアルトは満足そうな表情を浮かべ、女性兵に水門を開くように頼む。ここから先はそれぞれが小船に乗って川を下り、街の外へ出た後、森へと向かう予定だった。



「さあ、水門を開けてくれ。僕達はいかせてもらうよ」

「アルト様、お気を付けください……」

「必ず戻ってきてくださいね!!」

「あっ……他の皆さんも気を付けて下さい」

「ど、どうも……」

「……私達はおまけ?」

「ふんっ……」



アルトばかりを心配する女性兵にレノたちは呆れるが、彼女達はアルトの指示通りに水門を開き、レノたちは事前に用意されていた小船に乗り込む。


流されるままにレノたちは水門を潜り抜け、街の外へで出る。小船は外に出るとすぐに着岸させ、流されないように固定した後、レノたちは先へ向かうために魔獣に乗り込む。



「アルトさん、後ろに乗って下さい」

「世話になるよ、ウル君」

「ウォンッ!!」

「行くぞ、コクヨウ」

「ヒヒンッ!!」

「…………」



ウルにはレノとアルトが乗り込み、コクヨウにはナオが乗り込むと、残されたネココは腕を組んだまま動かない。ここでレノはネココだけ魔獣を引き連れていない事に気付き、どうやって移動するのかを尋ねた。

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