第62話 協力者

「よし、ここまでくれば兵士の格好でいる必要ない。ここに置いていこう」

「え、ここで!?」

「こんな物を持っていても仕方がないだろう?それに兵士も爺もすぐに目を覚ます、薬の効果は敢えて弱くしておいたからね」



裏口を抜け出す前にレノとアルトは装備を外すと、兵士が使用する更衣室へと放り込む。この場所に置いておけばそれほど気づかれる恐れは低く、急いでレノとアルトは屋敷の外へと抜け出す。



「ふうっ……ここまでくれば大丈夫だ。さあ、すぐに外へ向かおう」

「でも、夜は城門が閉まっているんじゃ……」

「大丈夫、この街には川が流れているだろう。それを利用するんだ」

「川?」



アルトはサンノの街に流れている川に移動し、事前に用意していた小舟に乗り込む。小舟にレノとアルトとウルが乗り込むと、アルトは水路を利用して外へ抜け出す事を告げた。



「水路を守備する兵士にはもう根回ししている。このまま外まで行こうか」

「ええっ……本当にこのまま行くんですか?夜は魔物が活発化するから危険ですよ」

「そのための護衛だろう?君の力には期待しているよ」

「ウォンッ?」



川を下りながらアルトは計画を話し、ここから先は夜の草原を移動する事になる。基本的には殆どの魔物は夜行性のため、昼間よりも魔物達は活発的に行動している事が多い。


レノも旅をしていた時は夜間の移動は控えていた。しかし、一刻も早く森を調査したいアルトは夜間でも構わずに移動する事を告げる。



「夜が明ければ爺も兵士も僕達がいない事に気付いてすぐに追手を差し出すだろう。そうなると夜の間に出来る限り移動しておきたいんだ」

「でも、夜の移動は本当に危険ですよ?」

「大丈夫、水路の方には昼間にも話した君以外の協力者が待っているはずだからね。ほら、話している間にも見えてきたよ。あれがサンノの水門だ」



アルトは示す方向には水門が存在し、そこには確かに兵士の姿が存在した。アルトは腕を上げると、兵士達は慌てた様子で頭を下げた。よくよく観察すると、水門の兵士は女性兵である事にレノは気付く。



「やあ、君たち待たせたね」

「あ、アルト様……本当に来られたのですね」

「アルト様ぁっ……危険過ぎます。やはりお辞めになった方がいいですよ」

「外は本当に危険です。もしもアルト様の身に何かあれば……」



岸部にレノたちは上がると、女性兵達はアルトの前に群がり、彼が外に出るのを必死に止めようとした。そんな彼女達に対してアルトは微笑み、彼女達を抱き寄せる。



「大丈夫、僕は必ず戻ってくるよ。君たちは僕の事を信じてここを通してくれ」

『アルト様……!!』

「うわぉっ……」

「クゥ~ンッ……」



自然な様子で女性兵を抱き寄せて説得するアルトを見て、レノはきっと彼の屋敷の女性の使用人たちも今のように説得して協力させたのだと思った。アルトは女性兵を手放すと、改めて周囲を見渡す。



「それよりも彼女達はどこにいるんだい?待ち合わせの時刻なのに遅刻とは感心しないな」

「彼女達?」



アルトの言葉にレノは周囲を見渡すが、特に自分達以外に人の姿は見えない。だが、突如としてレノの背後から声が掛けられる。



「……遅刻したのはそっちの方、私はずっとここにいた」

「うわぁっ!?」

「ウォンッ!?」

「おや、そこにいたのか」



レノはいきなり背中から聞こえてきた声に驚き、傍にいたウルも驚きのあまりに全身の毛を逆立たせる。いつの間にかレノの背後に一人の少女が存在し、背後を取られた事にレノは驚く。



(ぜ、全然気配を感じなかった!!それにウルまで気づかなかったなんて……いったい、何なんだこの子!?)



山暮らしで気配には敏感だと自負していたレノだったが、いきなり背後に現れた少女には全く気付く事が出来なかった。しかも聴覚や嗅覚が優れているウルでさえも少女の存在を感じ取れず、警戒したように距離を取る。


いきなり現れた少女にレノとウルが警戒する中、アルトは彼女の顔を見て笑顔を浮かべ、改めてレノに紹介を行う。



「レノ君、彼女の名前は……えっと、何だっけ?」

「……ネココ」

「そう、ネココだ!!彼女はこう見えて凄腕の傭兵なんだよ!!」

「よ、傭兵?」




――レノたちの前に現れた少女はネココという名前らしく、外見の方はレノよりも少し身長が小さく、それでいながら胸元はかなり大きい。顔の方は口元の部分がマフラーで隠れているので見えにくいが、人形のように可愛らしい顔立ちだった。青みがかった銀髪は肩にかかる程度にまで伸ばし、瞳の色は紫色だった。


何よりも特徴的なのは頭には猫耳のような物が生えており、お尻の方にも猫の様な尻尾が生えていた。それを見たレノはすぐに彼女が「獣人族」と呼ばれる種族だと見抜く。




「もしかして君、獣人族なの?」

「……そう、私は猫型の獣人族。にゃあにゃあっ」

「ワウッ」



ネココは両手を開いて猫のような声を上げるとウルは負けじと犬のような声を出す。独特な雰囲気と話し方をする彼女にレノは戸惑いながらも、本当に彼女がアルトが告げていた自分以外の護衛かと尋ねる。



「アルトさん、この子がさっき言っていた協力者なんですか?」

「アルトでいいよ。そう、彼女も君と同じように僕が雇った傭兵さ」

「……えっへん」



アルトの言葉にネココは胸を張り、その際に彼女の大きな胸元が揺れる。それを見た女性兵は悔し気な表情を浮かべ、レノはちょっと視線のやり場に困りながらも尋ねる。



「でも、どう見ても子供じゃ……」

「むっ……失礼な、私はこう見えても15才」

「え、俺よりも年上だったの!?」



レノの言葉にネココは頬を膨らませ、外見は12、3歳ぐらいだと思われたが、実年齢はレノよりも1才も上だと判明した。しかし、いくら15才と言ってもこの年齢の少女が傭兵をやっているなど信じがたい。


ネココはレノが何を考えているのか察したのか、彼女はため息を吐きながらレノをじっと見つめる。そんな彼女の態度にレノは戸惑うと、一瞬にしてネココの姿が視界かえ消え去る。



「えっ!?消えっ……」

「……隙有り」

「うわっ!?」



背後から声を掛けられたレノは驚いて振り返ると、そこには姿を消したはずのネココが存在し、しかも彼女の手にはレノが装備していた剣が握りしめられていた。いつの間にか背後を取られただけではなく、武器を奪われていた事にレノは驚く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る