第64話 スライム
「えっと……ネココさんは魔獣は?」
「……ネココでいい、大丈夫。私の友達はもう傍に居る」
「傍に居る?でも、何処にも……」
「レノ君、あそこを見るんだ」
レノは周囲を見渡しても魔獣らしき姿は見当たらないが、アルトはレノたちが流れてきた川の方を指差す。川にレノは視線を向けると、水中の中に何かが潜んでいる事に気付く。
「スラミン、カモン」
『ぷるる~んっ!!』
「うわっ!?」
「キャインッ!?」
「ヒヒンッ!?」
派手な水飛沫を上げながら水中から丸くて大きな物体が出現すると、レノたちの前へと降り立つ。この際にレノたちの身体に水が降りかかり、ウルとコクヨウは悲鳴を上げる。
いったい何が出てきたのかとレノは物体に視線を向けると、そこには青くて楕円形で半透明の不思議な生物が存在した。その生物には二つの角のような触覚が頭に生えており、非常に愛らしい顔をしていた。
「ぷるんっ、ぷるるんっ!!」
「紹介する、この子はスラミン。見ての通り可愛いスライム」
「す、スライム?スライムって……あのスライム?」
「ほう、これは珍しい……スライムを見るのは久しぶりだ」
「な、何なんだこいつは……」
スライムという単語にレノは驚き、魔物の中でも非常に有名な存在でありながら滅多に姿を見かけない魔物だった。スライムは世界で最も人間に有効的な存在だと言われ、その外見の愛らしさも相まって人々から愛されている存在だった。
レノたちの前に現れたスライムは体長が2メートルは存在し、全体が青色で人間が乗り込めるほどの大きさは誇った。通常のスライムは大きさは30センチ程度だが、このスライムに関しては規格外の体格を誇る。
「この子は私の子供の頃からの友達。ブルースライム種と呼ばれるスライム、名前はスラミン」
「スラミン……ど、どうも」
「ぷるんっ(こちらこそ)」
スラミンという名前のスライムはレノが頭を下げると、言葉も理解できるのか自分も同じように頷く素振りを行う。それを見たアルトは興味深そうな表情を浮かべ、ウルから下りるとスラミンの元へ向かい、虫眼鏡で覗き込む。
「ほうほう、ブルースライム種か……水辺などに好んで生息するスライム種か。汚れた水を飲むと体の中で浄化させ、綺麗な水へと作り変える事から水の精霊や、水饅頭と呼ばれるスライムだね」
「ぷるぷるっ(水饅頭じゃないやい)」
「むっ!?このスライム、僕の言葉を理解できるのか?これは興味深い、解剖して調べてもいいかな」
「……そんな事をすれば貴方を殺す。第一にスライムだから解剖しても中身は水しか出てこない」
興奮した様子でスラミンを覗き込むアルトにネココは若干引き気味に答えると、彼女はアルトを追い払ってスラミンの上に乗り込む。頭に生えている角のような触手を掴み、その上に正座するような形で乗り込む。
スラミンに乗り込んだネココを見てどうやって移動するのかとレノは疑問を抱くと、スラミンは大きく身体を跳ねて前方へ向けて移動を開始する。
「ぷるるんっ(発進!!)」
「……早く追いかけないと置いていく」
「あ、ちょっ!!待ってくれ、まだ観察は終わってないんだ!?」
「いや、そんな事を言っている場合ですか!!早く後ろに乗って下さい、アルトさん!!」
「ウォンッ!!」
「くっ……スライム風情に負けるな、コクヨウ!!」
「ウォオンッ!!」
ネココを頭に乗せたスライムは大きく身体を弾ませて移動を行い、その速度はかなり早かった。レノはアルトを後ろに乗せてウルを走らせると、すぐにナオもコクヨウを走らせて後を追う。
「ぷるぷるっ(僕に付いてこれるかな!?)」
「ウォンッ(舐めるな!!)」
「ヒヒンッ(こ、この珍獣どもがっ!!)」
3体の魔獣は追いかけっこをするように草原を駆け抜け、目的地である「アカバの森」へ向けて移動する。馬車ならば数時間は掛かる距離だが、この3匹の移動速度ならばそれほどかからずに到着すると思われた――
――それから1時間程時間が経過した頃、レノたちはアカバの森を視界に捉え、立ち止まる。魔獣達は休みも挟まずに全力疾走で移動したせいか疲れた表情を浮かべ、特にウルとコクヨウの方は疲労が激しく、飼い主から水を与えられていた。
「ほら、ウル……ゆっくり飲みなよ」
「クゥ~ンッ……」
「コクヨウ、無茶をし過ぎだ」
「ヒィンッ……」
「全く、2匹ともだらしない……スラミンはこんなに元気なのに」
「ぷるぷるっ♪」
ここまでの移動で疲れ果てたウルとコクヨウに対し、スラミンの方は周囲を元気よく跳ね回り、特に疲れている様子はない。レナとナオは水筒の水を魔獣たちに飲ませ、ゆっくりと休ませる。
その間にアルトの方はアカバの森の様子を調べ、彼は腰に掲げていた鞄から剣を取り出す。その様子を見たレノは驚き、どう見てもアルトが所持している鞄の大きさから考えても取り出せるはずがない大きさの剣が収納されていた。
「よし、ここからは慎重に行かないといけない。念のために僕も帯刀するよ」
「あの、アルトさん。今、その剣は何処から……」
「ん?ああ、僕の鞄は「収納型」の「魔道具」だからね。これぐらいの剣や道具なら取り込めるんだよ」
「何だと!?その鞄は収納型の魔道具なのか!?」
ナオはアルトの話を聞いて驚き、レノも今までに何度か魔道具という単語は聞いた事があるが、実際に目にするのは初めてだった(魔法腕輪は除く)。アルトが所持している鞄は「収納型」と呼ばれる魔道具の一種らしく、外見に反して様々な物を取り込めるという。
「僕の所有している「収納鞄」は総重量が100キロまでならどんな道具を取り込む事が出来るんだ。しかも制限重量内の道具を鞄の中に入れていても、実際の重量は普通の鞄と同じ重さしか感じない。正に旅する上では心強い品物さ!!」
「へえ、それじゃあその中に色々と入れられるんですか?」
「ああ、といってもこれを買うのには相当苦労したけどね。普段は研究道具を持ち運ぶ時にしか使用していないんだが、これから入るのは魔物の巣窟だからね……万全の準備を整えておく必要がある」
「…………」
アルトの言葉にナオは彼に視線を向け、やがて森の方へと顔を向ける。他の者達もこれからアカバの森に入る事を意識し、気を引き締め直そうとした時、ここでレナは視界の端に何かを捉えた。
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