第65話 連携
「あれは……気を付けて、ゴブリンを発見しました」
「何だと?馬鹿な、何を言っている?」
「……何処に?」
「僕には何も見えないが……本当にいるのかい?」
レノの言葉に他の者達は周囲を見渡すが、ゴブリンの姿は見えない。しかし、山暮らしでいつも弓を利用して狩猟を行っていたレノの視力と観察眼は隠れているゴブリンをはっきりと捉え、弓を構える。
ゴブリンが隠れている場所はレノたちの位置から50メートルほど離れた草むらに存在し、目立たぬように身体を伏せて隠れている様子だった。数は3匹は存在し、その内の1体に対してレノは矢を構えた。
(他の二人に怪しまれないようにしないと……)
50メートル程度の距離ならばレノは魔弓術を使用せずともゴブリンを射抜けると判断し、標的を定めて矢を放つ。その結果、放たれた矢は草むらに隠れていたゴブリンの頭部に的中した。
「ギィアッ――!?」
「ギィッ!?」
「ギギィッ!?」
仲間のゴブリンが射抜かれた事に他の2匹のゴブリンが驚いて立ち上がり、続けて他の場所にも隠れていたゴブリン達が姿を現す。その数は10匹は存在し、本当にゴブリンが隠れていた事にナオとネココは驚く。
「なっ!?馬鹿な……本当に隠れていたのか!!」
「……凄い、この距離だと私でも気配を感じないのに」
「狩人だから目には自信があるんだよ!!」
「流石だ、レノ君……だが、この後はどうするんだい?」
仲間が殺された事で隠れていたゴブリン達は姿を現すと、レノたちに目掛けて駆け出す。仲間を殺された事への怒りというよりも隠れていても無意味だと判断し、奇襲から強襲に切り替えたらしい。
『ギィイイイッ!!』
「来たぞ!?」
「ウル、アルトを守って!!」
「ウォンッ!!」
「ちっ、ゴブリン如きが……やってしまえ、コクヨウ!!」
「ヒヒィンッ!!」
コクヨウに乗り込んだナオは迫りくるゴブリンの群れに対して突っ込み、凄まじい勢いで突進する。その様子を見てゴブリン達は怖気づいた表情を浮かべ、立ち止まってしまう。
「ギギィッ!?」
「ギィアッ!?」
「ふん、所詮はゴブリンかっ……うわっ!?」
「ヒヒィイインッ!?」
怯えるゴブリンの群れを見てナオとコクヨウは彼等を蹴散らそうとしたが、突如として地面が抜け落ちると二人は大きな穴の中に倒れ込む。相当に深く掘られているらしく、ナオとコクヨウは完全に嵌まってしまう。その様子を見てレノたちは驚く。
「まさか、落とし穴!?」
「馬鹿な!?いくらゴブリンが利口とはいえ、罠で嵌めるなんて……!!」
「話している場合じゃない、ゴブリン達が来る!!」
「ぷるぷるっ!?」
落とし穴でナオとコクヨウを嵌めると、ゴブリン達は笑い声を上げながらレノたちの元へ向かう。それに対してネココは短刀を引き抜き、スラミンは慌ててウルの元へ向かう。
レノは接近してくるゴブリンに視線を向け、弓を射るよりも剣で対処した方が早いと判断し、刃を抜く。ゴブリン程度ならば魔法腕輪を使用するまでもなく、迫りくるゴブリンを斬り付けようとした。
「このっ!!」
「ギィアッ!?」
「なっ!?防いだ!?」
接近してきたゴブリンに対してレノは剣を振り払うと、ゴブリンは冒険者から奪ったのか、腕に取り付けた盾を利用してレノの刃を弾き返す。それを見たアルトは驚き、ネココはゴブリン達の動きをみて警戒を強めるように伝える。
「気を付けて、こいつら……戦い慣れしている!!」
「ギギッ!!」
数匹のゴブリンがネココを取り囲み、彼女を逃さないよう周囲を取り囲む。一方でレノの方は3匹のゴブリンと向かい合い、どのように対処するべきか悩む。
(ネココの言う通りだ、こいつら普通のゴブリンじゃない……しかも、亜種じゃないかなり戦い慣れしている!!)
レノたちに現れたのは通常種のゴブリンだが、冒険者から奪ったと思われる武具と防具を身に付けた個体も存在し、しかも戦い慣れていた。ゴブリンはコボルトやオークと比べると力が弱いが、群れで行動して仲間同士で戦い合う習性を持つ。
普通のゴブリンも知能は高い方だが、レノたちの前に現れたゴブリン達は罠を作り、人間の武具と防具を扱いこなす。明らかに野生のゴブリンとは異なり、レノは違和感を抱く。
(こいつら、何なんだ?いや、今はそれどころじゃない……仕方ない、ここは手の内を隠している場合じゃないか)
剣を構えるとレノは付与魔術を発動させ、刀身に風の魔力を流し込む。するとゴブリン達はレノの雰囲気が一変した事に気付き、嫌な予感を覚えたのか後退る。しかし、そんなゴブリン達に対してレノは横薙ぎに剣を振り払う。
「嵐刃!!」
『ギィアアアアッ!?』
「……魔法剣!?そんな奥の手を隠してたの?」
「おおっ!!素晴らしい!!」
3体のゴブリンに対してレノは剣を振り払うと、刀身から風の刃を放出して一気に3体のゴブリンを切り裂く。その様子を見てネココは驚き、アルトの方はウルの背中に隠れながらも賞賛の言葉を掛ける。
魔法剣を見せた以上はもう隠す必要はなく、取り囲まれているネココの元にレノは向かう。この際に瞬脚を発動させ、一気に距離を縮めて彼女を取り囲むゴブリンの1体の頭部を切り裂く。
「はああっ!!」
「アガァッ!?」
「……速いっ」
瞬脚を使用して一気に距離を詰めたレノを見てネココは即座に彼の元へ移動し、お互いに背中合わせの状態へと陥る。残りのゴブリン達はその光景を見て戸惑い、攻撃を躊躇した。次々と仲間が殺される光景を見て恐怖を抱いたらしく、その様子を見てレノはネココに告げる。
「ネココ、こっちの5匹は俺がやる」
「……分かった、なら残りの2匹は私に任せて」
レノは自分の視界の範囲内に存在するゴブリンに狙いを定め、ネココは両手に短刀を構えると自分の正面に位置するゴブリン達に注意する。取り囲んでいたゴブリン達は意を決したように同時に動き出した。
『ギィイイイッ!!』
「今だっ!!」
「……戦技、辻斬り!!」
ゴブリン達が動き出した瞬間、レノは刀を横に構え、ネココは一瞬にして姿を消す。次の瞬間、レノは刀身に風の魔力を纏わせた状態で刃を二回転させてゴブリン達を切り裂く。ネココも最後の2匹のゴブリンの後方に回り込み、全く同時に2匹の首筋を切り裂く。
「円斧!!」
「にゃあっ!!」
『ギィアアアアッ!?』
二人の攻撃によって残ったゴブリン達も切り裂かれ、地面に倒れ込む。それを確認するとレノは額の汗を拭い、ネココも安堵したような表情を浮かべ、お互いの顔を見て笑みを浮かべる。
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